ファイナンシャルプランナーである筆者のもとに、50代の女性が相談に訪れました。「ねんきん定期便」で将来受け取る老齢年金の見込額を確認したところ、想像以上の少なさにがくぜんとしたというのです。今回は、年の差夫婦が陥りがちな年金の落とし穴と、今すぐできる解決策について一緒に考えてみたいと思います。
【相談者プロフィール】
相談者 三森まち子さん(58歳・仮名) 無職
夫 三森孝太郎子さん(70歳・仮名)無職
夫の再雇用が決まり安心したのもつかの間…
65歳定年の企業に勤めていた孝太郎さん。職場からの提案で、再雇用という形で引き続き働くことになりました。
再雇用制度とは、定年後も企業が高齢者を再雇用し、通常の正社員よりも短い時間や柔軟な労働条件で働ける仕組みです。孝太郎さんにとって、この提案はまさに追い風。会社を先に辞めた先輩から「毎日が暇つぶし」と聞いていて、できるだけ長く働ける再就職先を見つけようと思っていたからです。また、今回の再雇用では、最長70歳まで厚生年金に加入できるため、将来受け取れる年金の受給額を増やせることもメリットと感じていました。
まち子さんも、「まだしばらく安定的な収入があるのは心強い」と、この提案を大歓迎。「孝太郎さんが70歳まで厚生年金に加入できるなら、私も扶養のままで助かるわ!」と、今後も国民年金第3号被保険者の対象であり続けられるとホッとしていたのです。
国民年金第3号被保険者とは、主に専業主婦やパートタイムで働く配偶者が対象で、配偶者が厚生年金に加入している場合に国民年金の保険料を支払う必要がないという制度。再雇用の収入は現役時代の約半額まで下がるため、支出が抑えられるのはとてもありがたいことなのです。
ただ、年金制度は非常に複雑で、見落としがちなポイントが多く存在します。このとき、まち子さんは自身の思い込みが将来受け取る年金額に大きく影響することに気づいてはいませんでした。
想定より早い夫の退職で老後資金に大打撃
体調不良により67歳のとき、孝太郎さんはやむを得ず長年勤めた会社を退職することになりました。「70歳まで働くつもりだったのに……」と、孝太郎さんは少し残念そうにつぶやきました。
再雇用で収入を得ながら、家計を支えていく計画だっただけに、突然の退職は夫婦にとって大きな打撃。また、予想外だったのは、第3号被保険者は、夫が厚生年金に加入している間だけ適用される制度のため、夫が退職して厚生年金に加入しなくなると、妻はその対象から外れます。このとき、まち子さんは55歳。国民年金は、20歳~60歳までの40年間の加入が原則です。そのため、あと5年間国民年金を支払う必要が出てきたのです。
年金について調べて分かった衝撃的な事実
これまであまり年金について深く考えてこなかったまち子さん。ふと、「私はいくら年金を受け取れるのかしら?」と気になり、「ねんきん定期便」を手に取ってみることにしました。
短大卒業後から結婚するまでの3年間だけ勤務先で厚生年金に加入していましたが、その後はときどきパート勤務をする程度。ほとんどの期間を孝太郎さんの扶養に入って過ごしてきました。「わずかな金額しか受け取れないだろうな」と想像していても、孝太郎さんの退職をきっかけに老後の生活が現実味を帯びてきて、具体的な年金額が気になり始めたのです。
そこで将来の受給見込額を確認したところ、イメージしていたより金額も年金加入期間もわずかに足りないことに気づきます。「どうしてこんなことに?」「何かの間違いかも……」。理由が分からず、夫と一緒に弊社FP事務所を訪ねて来られたまち子さん。そこで耳にしたのは、全く予期していなかった衝撃的な事実でした。
●余裕をもって老後を迎えられるはずが想定外のアクシデントが発生。年金の受給見込額が思ったより少なかったのは、まち子さんの“ある思い違い”が原因でした。後編【想定より少ない「将来の年金額」にがくぜん…50代主婦が受給額を増やすためにとった「決意の行動」とは】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
辻本 由香/つじもとFP事務所代表・一般社団法人WINK理事
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、相続手続カウンセラー、50代からのくらし(医・職・住)と資産を守るファイナンシャルプランナー。おひとりさま・おふたりさま×特有の課題・お金の問題の事例などが得意分野。企業の会計や大手金融機関での営業を経て、2015年に、保険や金融商品を販売しないFP事務所を開業。個別相談の他、企業・病院・大学などでの講演も行っている。