世界の富裕層はどんな商品に投資しているのでしょうか?
約20年間、国内外の富裕層の資産運営を手がけてきた世古口俊介氏は、「世界の富裕層にとって、もっともポピュラーな投資先は米ドル債券」といいます。
ただ、米ドル債券は為替リスクの影響を大きく受ける商品です。たとえ高利回りでも、円高になれば損をしてしまうかもしれません。そこで世古口氏に、個人投資家のために米ドル債券の魅力や為替との関連を解説してもらいます。(全3回の1回目)
※本稿は、世古口俊介著『富裕層のための米ドル債券投資戦略』(総合法令出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
米ドル円の為替レート
米ドル債券において利回りとともに重要なのが米ドル円の為替レートです。
米ドル債券に投資したときより米ドル高・円安になれば為替の利益が出ていることになり、逆に投資したときから米ドル安・円高になれば為替の損失が出ているということになります。
残存期間が終わるまで持ちきる前提なら、利回りは投資するタイミングで確定しますが、為替は元本が返ってくるまでどうなるかわからないので、投資後も注視が必要になります。
2024年4月の米ドル円は1米ドル=151円です。
これは歴史的な米ドル高・円安といわれています。
米ドル円=151円という為替水準は過去をさかのぼると1990年、実に34年ぶりの米ドル高・円安水準なのです。上図の米ドル円の過去35年の推移を平均で考えると、だいたい110円から120円くらいが平均値になるでしょう。
今の為替レートで米ドル債券に投資する場合は、投資したあとに米ドル安・円高にならないか心配な人が多いと思います。
しかし、それでも米ドル高・円安が進んだ2022年以降に、富裕層の米ドル債券への投資が増加している2つの理由を説明します。
理由① 利回りが高いから
直近、米10年国債利回りが高まり、米ドル債券全体の利回りが上がっているので、米ドル高・円安があまり気にならないという理由です。
米ドル円の為替で見ると割高だが、利回りでは有利なので総合的に考えるとトントンだと思っている方が多いわけです。
トントンなら投資の絶好のタイミングとはいえず、なぜ富裕層の投資が増えているのかわからないと思われるかもしれません。しかし、このトントンを絶好のタイミングにする投資方法が1つあります。
それは残存期間が長い米ドル債券に投資することです。
残存期間が10年以上の長い債券であれば高い利回りを長期間、享受できるので、そのメリットで米ドルの割高を打ち消すイメージです。
2024年4月ですと、この為替との見合いで、20年から30年の残存期間がかなり長い米ドル債券に投資する富裕層も多いです。
理由② もっと円安になると考えている
中長期的には、さらに米ドル高・円安になると考えている富裕層は、今の米ドル円の水準でもためらいなく米ドル債券に投資します。
中長期的な視点を持った富裕層は短期的なアメリカと日本の金利差だけでなく、日本の構造的な問題に注目しています。
例えば、日本の借金の多さは先進国の中でもトップを独走しています。
このままでは、いずれギリシャのように財政難になり、通貨が暴落するかもしれないと考える富裕層もいれば、日本人の純金融資産の97%が円資産で、新NISAなどをきっかけに外貨投資が進み、それが米ドル高・円安に拍車をかけると考える富裕層もいます。
構造的な問題が多い日本の経済成長に期待していない富裕層が大半を占める中で、現在の米ドル高・円安は継続し、中長期的にはさらに円安になると考えているわけです。
この2つが現在の米ドル高・円安でも富裕層の米ドル債券投資が増加している理由です。
投資タイミングを迷わなくていい
いつ米ドル債券に投資すればいいか、利回りや米ドル円の為替を見ながらタイミングを迷っている富裕層の方もたくさんいます。
しかし、それは無駄な悩みの可能性が高いと私は考えています。
理由は米ドル債券の利回りと米ドル円が基本的には連動するからです。下図の比較チャートのように米ドル債券の利回りが上がれば米ドル高・円安となり、米ドル債券の利回りが下がれば米ドル安・円高になることが多いです。
つまり、米ドル債券の利回りが有利なときは米ドル円の為替で不利となりますし、利回りが不利なときは為替が有利というトレードオフの関係が成り立っています。
迷っている時間が無駄なので早く投資して利回りを得たほうがいいというわけです。
●第2回は【投資元本がゼロになる可能性も…!? 「米ドル債券=安全性が高そう」の過信に潜む落とし穴】です。(9月24日に配信予定)
富裕層のための米ドル債券投資戦略
著書 世古口俊介
出版社 総合法令出版
定価 1,650円(税込)
世古口 俊介/ウェルス・パートナー代表取締役
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱東京UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベート・バンキング本部の立ち上げに参画し同社の成長に貢献し、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。 資産数億円以上の富裕層を対象に資産運用コンサルティングを行う。株式や債券、不動産などすべての資産クラスを扱い資産全体を最適化。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1.4万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」を通して日本の富裕層に資産運用の情報を発信している。