インデックス投資家のSNSを“ザワつかせた”驚きのレポート
10月18日付でゴールドマン・サックスが発表した、同社ストラテジストのレポートが話題になっています。それは、米国株が過去10年のような平均を上回るパフォーマンスを維持することは難しいだろうというものです。
それによると、S&P500の今後10年における年率名目トータルリターンは3%にとどまるということです。ちなみに過去10年のそれは13%、長期平均は11%という数字も出ています。
確かに衝撃的です。
日本経済新聞の記事によると、2024年4月から9月の国内公募の追加型株式投信(ETF除く)の資金流入額が約8兆7000億円で、このうち海外株式に投資するタイプへの資金流入額が約6兆7000億円ということでした。そのうち三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用する「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」への資金流入額が1兆1033億円(推計値)、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」への資金流入額が9198億円(推計値)ですから、かなりの資金が米国株式市場に流れていることがうかがわれます。S&P500やオール・カントリーなどのインデックスファンドで運用している人たちからすれば、無視できないレポートだと思います。
でも、予測はあくまでも予測であることを、まず認識しておいて下さい。
そもそもゴールドマン・サックスの予測は、どの程度の確度で当たるのでしょうか。
今回、S&P500の今後10年における年率名目トータルリターンが3%にとどまると分析したストラテジストは、デービッド・コスティン氏です。彼はチーフ米国株ストラテジストの職にある方ですが、彼が2022年11月21日付の顧客向けメールに何を書いたのかを調べてみました。
それによると「2023年のS&P500の年末目標を現在(11月24日現在)の水準に近い4000ポイントに設定した」ということでした。ちなみにこの予測は、米連邦準備制度理事会(FRB)がアメリカ経済の景気後退を伴うことなくインフレを鎮圧する、ソフトランディングに成功することが前提条件となっており、景気後退入りを回避できなかった場合は、安値で3150ポイントまで下落する展開を想定していました。
では、実際はどうだったのでしょうか。2022年11月25日時点のS&P500は、終値で4026.12ポイントでした。それが2023年の年末にはいくらになったのかというと、4769.83ポイントです。同水準どころか18.47%も値上がりしました。
ちなみに、デービッド・コスティン氏の予測によれば、4000ポイントという目標値は「FRBがアメリカ経済の景気後退を伴うことなくインフレを鎮圧する」というポジティブシナリオに準じたものです。つまり、実際のS&P500は、デービッド・コスティン氏のポジティブシナリオをはるかに上回るリターンを叩き出したことになります。
もう少しデービッド・コスティン氏の予測を過去にさかのぼってみたいと思います。
これは2020年3月に発表した予測です。これによると、「11年続いた米国株式の強気相場は近く終了する」ということでした。
この時の内容は、S&P500の年末予想を引き下げ、2020年の年央までに2450ポイントまで下落するとしています。
では、実際はどうだったのでしょうか。ちなみに2020年3月といえば、コロナショックが起こって、株式市場には総悲観ムードが蔓延していた時期でもあります。
2020年2月19日時点のS&P500は、終値で3386.15ポイントでした。それが、3月23日には安値で2191.86ポイントまで下落しています。この予測が出たのは、まさにこの状況下においてなので、悲観的な見方になるのも無理はありません。
その後のS&P500はどういう動きになったのでしょうか。
記憶されている方も多いかと思いますが、株価はいち早くコロナショックから立ち直り、力強い上昇トレンドをたどりました。ちなみに2020年の年央を6月末だとすると、その時点のS&P500は、終値で3100.29ポイントです。なんと、デービッド・コスティン氏の予測値に対して、S&P500は26.54%もオーバーパフォームしました。
ただ、デービッド・コスティン氏の名誉のために申し上げると、当時の彼の予測は、「2020年後半には新型コロナの悪影響が弱まり利益が改善。S&P500の予想を200ポイント下げて3200ポイント」としています。
もし3月に弱気の見方になって、年末の予想値を200ポイント引き下げなかったとしたら、3400ポイントです。そして、2020年12月31日のS&P500は、終値で3756.07ポイントでしたから、それでもマーケットの方がはるかに強かったということにはなりますが、「新たな強気相場が年後半に始まる公算は大きい」とした氏の予測は、「当たらずとも、遠からじ」といったところだったのかも知れません。
マーケット予測は“参考”にしながら、付き合うもの
恐らく初めて投資をした人や、少しでも資産形成に関心のある人からすれば、ゴールドマン・サックスという米国の金融機関は、「世界最強の金融機関」というイメージが定着しているのではないでしょうか。投資銀行、証券、資産運用などの金融サービスを、世界中の企業、金融機関、政府機関に提供している同社は、1869年に創業された、世界で最も伝統のある金融機関のひとつです。
こうした出自を見ると、ゴールドマン・サックスの市場予測は、“神のご託宣”のように聞こえるのかも知れません。
でも、ここまで書いたように、著名ストラテジストであるデービッド・コスティン氏の予測とはいえ、それがピタリと当たるとは限りません。マーケットの予測とはその程度のものなのです。
もちろん、だからといって軽視しても良いというわけではありません。専門家は専門家の知見を活かし、膨大なデータを分析して、このようなマーケット分析のレポートを書いているわけです。それは一読の価値がありますし、今回のようにS&P500のリターンが向こう10年にわたって低迷するというのであれば、それを心に留めておく必要はあると思いますが、全面的に信じるのは考え物です。
もし、どうしても気になるという人で、自分が保有しているポートフォリオにS&P500に連動するインデックスファンドがあるならば、その投資比率をある程度、下げておけば良いでしょう。
ただ、前述したように、マーケット予測が必ず当たるという保証はどこにもありませんから、全てを売却してポジションをゼロにしないことをお勧めします。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。