国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所(2015年)」(P48)によると、不妊の検査や治療を受診した経験があるカップルは、実に5.5組に1組(15.6%)にもなるとのことです。
不妊が増えている主な原因として、「女性の社会進出に伴い、キャリアを充実させたい時期である20代後半から30代前半は、妊娠しやすい年齢とまったく重なって(※)」おり、「そろそろ子どもをつくろうかという30代後半から40歳くらいになると妊娠率が低下していく年齢を迎え(※)」るため、という意見があります。
いずれにしろ、子どもが欲しいと考えるカップルにとって、不妊治療は他人事ではありません。
そのなかでも人工受精とは、人口的に子宮へ精子を注入することで妊娠を促す方法で、不妊治療の際によく利用されます。
不妊治療にはまとまったお金がかかるため、人工受精をする際にどのくらいのお金が必要となるのかも気になるところですね。
この記事では人工受精にかかる費用の相場や不妊治療全体でかかる平均的な金額、不妊治療を助成する制度について紹介しています。
(※)富岡美織『「2人」で知っておきたい 妊娠・出産・不妊のリアル』、ダイヤモンド社、2013年、157、158頁
目次
はじめに
人工受精の費用について知る前に、不妊治療全体の流れをおさらいしておきましょう。
全体の流れを把握することで、より具体的に不妊治療でかかる費用を把握できるようになります。
不妊治療は夫婦2人で行うのが基本です。
男性は精液検査、女性はホルモンの分量をチェックする採血や子宮・卵巣の状態を調べる超音波検査などを行って治療方針を決めます。
治療方針決定後、まず行われるのが一般不妊治療(タイミング法・人工受精)です。
まずタイミング法とは、医師の診察により排卵日を推測し、その前後に性行為を行うことにより妊娠を目指す治療法です。
必要に応じ、女性に対して投薬・注射いずれかで排卵誘発剤を投与することがあります。
排卵誘発剤は、排卵を起きやすくしたり排卵日を人為的に決定するためのもので、このあとの治療でもよく用いられます。
次に人工受精とは、男性から精子を採取してそのなかでも良好な精子を選別した上で、女性の子宮へ注入する方法です。
これによって妊娠する確率を上げます。
人工受精は排卵誘発剤を使う場合、自然な排卵の周期で行う場合があります。
タイミング法・人工受精いずれでも妊娠できなかった際に、その次に行われるのが高度不妊治療(体外受精・顕微受精)です。
体外受精では、名前の通り体外へ卵子を取り出し、シャーレ―状で精子と受精させます。
そのうえで卵子は専用の部屋で培養され、十分に成長したあとに子宮へ戻されます。
一方、顕微受精とは体外受精の一種です。
体外受精では卵子へ精子を振りかけるのに対し、顕微受精では顕微鏡で卵子をみながら精子を1つ直接注入します。
一般的な体外受精と比較すると、妊娠率が高くなるとのことです。
1.人工受精の費用の相場は?
人工受精には、保険が適用されません。
精子を人工的に子宮へ注入する人工受精の費用の相場は1回あたり1~2万円(※)です。
ただし、あくまでこれは人工受精1回の費用であり、不妊治療全体でみると他に検査費用やタイミング法の費用などもかかります。
※参照元:丘の上のお医者さん 女性と男性のクリニック(「一般的な不妊治療と費用の目安」)
2.人工受精を含め妊活にかかった費用の統計データ
人工受精にかかる1回あたりの費用相場はわかりました。
それでは、人工受精を含め妊活や不妊治療全体でかかる費用はどのくらいになるでしょうか。
Webメディア「妊活ボイス」が2017年に実施した「『妊活・不妊治療』に関するインターネット調査」の結果を参考にみていきましょう。
まず前提として、不妊治療では医師から妊娠しやすい日の指導を受けその前後に性行為を行う「タイミング法」を行い、それでうまくいかなければ人工受精へすすみます。
そして人工受精でも妊娠できなかった場合には、体外受精を検討することになります。
この調査結果では「妊活全般にかかった費用」の平均は約35万円だったとのことです。
ただし人工受精・体外受精・顕微受精のいずれかの経験者に限った場合は約134万円に、さらに不妊治療の中でも高額となる高度不妊治療(体外受精・顕微受精)の経験者に限ると、193万円にアップすることのことです。
体外受精(顕微受精は体外受精の1つ)の費用相場は1回あたり20~60万円(人工受精は1回あたり1~2万円)(※)と高額ですから、不妊治療がすすむにつれ費用がかさむことになる、と考えてよいでしょう。
※参照元:丘の上のお医者さん 女性と男性のクリニック(「一般的な不妊治療と費用の目安」)
3.病院の費用例
人工受精でかかる費用は、病院によっても異なります。
ここでは参考までに病院の公式サイトで公開されている費用例を紹介します。
全ての病院で同じぐらいの費用になるわけではありませんが、一例として参考にして下さい。
はらメディカルクリニックの例
以下、東京都渋谷区にある「はらメディカルクリニック」の公式サイト(「モデルケース2 人工受精の方」)から引用しています。
【排卵日と人工受精実施日を特定するための診察】
- 再診料1,137円(保険)
- 超音波検査料2,000円(保険)
- 合計:3,137円
このなかで「超音波検査」とは、子宮や卵巣の状態を調べるための検査です。
【人工受精当日】
- 人工受精20,000(自費)
- hCG注射1,063円(自費)、
- ルティナス1箱8,450円 (自費)
- 合計:29,513円
1周期の治療費合計:32,650円
上記で、人工受精1回の費用の総額となります。
人工受精を2回・3回と繰り返す場合は、この費用が加算されるわけです。
このなかでhCG注射とは排卵を促すための筋肉注射のことで、強い痛みを伴います。
hCG注射を含め、不妊治療中は痛みを感じる機会が少なくありません。
こういった不妊治療の痛みに関しては、ハフポストの記事(「不妊治療における『体の痛み』とは? 私の経験と不妊治療専門医の言葉」)に経験者談が記載されているので、よろしければあわせて参考にして下さい。
またウトロゲスタンとは、基礎体温をあげたり子宮内膜を維持したりして妊娠に欠かせない「黄体ホルモン」を補充するための治療薬で、これによって受精卵が着床しやすくなります。
4.不妊治療向けの助成制度を利用しよう
不妊治療を行う場合は、自治体や企業の助成制度を活用できる場合があります。
不妊治療を検討する際は、ぜひチェックしましょう。
4-1.国による助成制度
国では、高度不妊治療(体外受精・顕微受精)に対する助成は実施しているものの、人工受精の段階に対する助成は行われていません。
※制度の詳細に関しては厚生労働省の公式サイト(「不妊に悩む夫婦への支援について」)をご覧ください。
4-2.自治体による助成制度
自治体では不妊治療に対する助成を行っている場合があります。
お住まいの自治体で行っていないかは、公式サイトや窓口などで確認してみて下さい。
【東京都内で実施を確認できた市区町村】
品川区・世田谷区・文京区・千代田区・中央区・港区・台東区・杉並区・板橋区・練馬区・葛飾区・八王子市・調布市・東大和市・羽村市・奥多摩町
ここでは一例として、東京都品川区が実施している不妊治療に対する助成制度を簡単に紹介します。(参照元:品川区公式サイト「一般不妊治療医療費助成事業」)
対象者
結婚していて、妻の年齢が40歳以上43歳未満の夫婦が対象です。なお平成31年3月31日以前の場合は妻の年齢が35歳以上43未満となるなど他の条件もあります。
詳細を確認したい場合はリンク先の品川区の公式サイトで確認してください。
対象となる医療費
不妊治療開始から1年間で受けた一般不妊治療にかかる医療費(全額)が助成の対象となります。
上限額・回数
5万円・1回限りです※平成29年度分までで通算5年度助成を受けていない場合は助成可能
所得制限
ありません。
4-3.企業による助成制度
福利厚生の1つとして、不妊治療に対する助成を行っている企業があります。
以下、助成を実施している企業の例を紹介します。
株式会社メルカリ※
高額な不妊治療を行う場合、所得や年齢の制限なく費用を会社が一部負担します。(上限金額あり)
※参照元:株式会社メルカリ公式サイト(merci box | 株式会社メルカリ 採用情報)
株式会社サイバーエージェント※
不妊治療の女性社員が治療のための通院などをする場合に、月1回まで特別休暇を取得できる。また月1回30分間まで、妊活に関する個別カウンセリングを受けることが可能。
※参照元:株式会社サイバーエージェント公式サイト(女性活躍促進制度 macalon)
まとめ
人工受精1回あたりの相場は、1~2万円(※1)ですが、不妊治療全体でかかる費用の相場は平均約35万円(2※)です。
このように不妊治療には馬鹿にならない費用がかかることもある上に、高度不妊治療(体外受精・顕微受精)まで行うことになると、平均費用は約193万円(※2)までに跳ね上がります。
ただしお住まいの自治体や企業によっては、人工受精に対する助成が行われる場合もあるので、チェックしてみるとよいでしょう。
(※1)参照元:丘の上のお医者さん 女性と男性のクリニック(「一般的な不妊治療と費用の目安」)
(※2)参照元:
PR TIMES(「高度不妊治療にかかる費用は平均190万円以上!約3人に2人は金銭面をネックと感じる|株式会社CURUCURUのプレスリリース」)
(2021年6月14日公開記事)