「フリマアプリで生活費をしのいで…」家賃70万のタワマンに住み、姉をだまして金をせびるセレブ妹の「当然の末路」

2024/12/03 20:00

<前編のあらすじ> 美緒(34歳)は、1つ年下の妹・詩織(33歳)にコンプレックスを感じていた。 なんでも要領よくこなし、きれいで明るくて人気者。経営者の旦那と結婚し、SNSでは華やかな生活を送っている。そんな妹とは対照的に、美緒は地味ながらコツコツと真面目に生きてきた。 仕事から帰ると、家の前に妹の詩織が立って

<前編のあらすじ>

美緒(34歳)は、1つ年下の妹・詩織(33歳)にコンプレックスを感じていた。

なんでも要領よくこなし、きれいで明るくて人気者。経営者の旦那と結婚し、SNSでは華やかな生活を送っている。そんな妹とは対照的に、美緒は地味ながらコツコツと真面目に生きてきた。

仕事から帰ると、家の前に妹の詩織が立っていた。理由を聞くと、夫が経営している会社がうまくいっていないのでお金を貸してほしいと頼んでくる。

100万ほどを工面した美緒だったが、詩織が帰ったあとに、その夫が経営しているショップのURLを確認すると「ページは見つかりませんでした」と表示された。詩織はうそをついて姉から金を借りたのだろうか……?

●前編:「お姉ちゃん、500万貸して」港区タワマン住みセレブ妻が、地味OLの姉に頭を下げた「とんでもない理由」

義弟の会社はとっくに倒産していた

「え、は? 意味分かんないんだけど」

美緒は1人、殺風景な部屋のなかで頭を抱えていた。

検索をかけて調べると、詩織の旦那のアパレル会社はとっくに倒産していることがすぐに分かった。

ならばつい小一時間前に振り込んだ100万円は何だったのだろうか。

すぐに詩織に連絡を入れたが、既読すらつかなかった。

美緒はもんもんとしたまま平日をやり過ごした。判を押した毎日は、セレブな妹の不可解な行動で揺らいでいた。

土曜日の朝、詩織が住む港区の一等地にあるタワーマンションへ向かう。インターホンを3度押してしばらくすると、

「お姉ちゃん……? どうしたの、いきなりくるなんてらしくないじゃん」

「連絡はしたよ。詩織が返事してこなかっただけ」

2人はインターホンを挟んで黙った。美緒は深くため息を吐いた。

「開けてよ、ここじゃ寒いし」

「いやでも、部屋片付いてないから」

「いいよ。掃除くらい手伝うし。それとも見せられないものでもある? 旦那さんの会社、倒産してるみたいじゃん」

声は聞こえないし、顔も見えない。だがインターホンの向こう側で詩織が息をのんだのが分かった。

一拍置いて、ガラス扉がゆっくりと開く。インターホンのスピーカーから、「入って」と詩織のとがった声が聞こえた。

フリマアプリで生活費をしのぐ生活

27階の広い玄関ポーチで待っていると、ゆっくり扉が開いて、その隙間から詩織が顔をのぞかせた。

「どうぞ」

「お邪魔します」

化粧をしていない詩織の表情はやつれていて、目の下にはくまがある。ばっちりと化粧をしていた先日には気づかなかったことだった。

だがそれ以上に驚いたのは、部屋の異様さだった。ホテルで見たような家具が置いてあれこそすれ、部屋は空っぽだった。食器や洋服は最低限。部屋には通販の空段ボールが積んである。まるで夜逃げの準備をしているようで、部屋が広いぶん、余計に寒々しく感じられた。

「ママ、これから大事な話あるから。部屋で遊んでて」

リビングで遊んでいた娘の舞亜を自分の部屋へと向かわせる。詩織は2人きりになったリビングを見回して肩をすくめた。

「笑っちゃうでしょ。なんもないの。食器も洋服も少しずつフリマアプリで売って、なんとかしのいでんのよ」

「笑えないでしょ、何がどうなってるの?」

「別れたの。会社が傾いて、家で酒飲んで暴れるようになったから、追い出した。でも家賃70万はどうにもなんないよね。近所の目があるからパートにも出づらいし」

美緒は詳しくは聞かなかった。話させても詩織が傷つくだけだと思ったし、重要なのは何があってこうなったかではなかった。

「引っ越せばいいでしょ。何でこんなとこに住み続けてんの?」

「こんなとこ?」詩織は声を鋭くとがらせた。「こっちの苦労も知らないで何さまなの?」

「何さまって、人からお金だまし取っておいて、何さまも何もないでしょ!」

詩織のあまりにぶしつけな物言いに、美緒も思わず声を荒げた。

「お姉ちゃんには分かんないでしょ。要領よく生きてきて、いっつも優秀だなんだって言われ続けた私の気持ちなんてさ」

「分かるわけないでしょ、そんなもの。こんな見え張って生活して、バカみたい」

「はぁ?」

「だってそうでしょ。こんな息が詰まりそうなところで、見かけだけ繕って生活して。舞亜ちゃんだってかわいそうだよ」

「舞亜は関係ないでしょ!」

「関係ある! 詩織は母親なんだよ!」

美緒が怒鳴ると、部屋のなかは水を打ったように静まり返った。

「お金、返してもらおうと思ってきたけど、もういいや。あんたのことはどうでもいいけど、舞亜ちゃんのこと、ちゃんと考えてあげて」

美緒はそれだけ言って、妹の部屋を後にした。妹は床に座り込んだまま何も言わず、美緒も決して振り返らなかった。

実家へ戻った妹

クリスマスシーズンになり、イルミネーションで美しく飾られるようになった街を、仕事帰りの美緒は歩いていた。ふと歩く若い親子連れとすれ違い、妹の詩織とめいの舞亜のことを思い出す。

あれ以来、会うことはおろか連絡すら取りあっていない。華やかだった詩織のSNSアカウントはとっくの昔に削除されているが、美緒には関係のないことだった。

かばんのなかでスマホが震えた。電話の相手は母だった。

「どうしたの?」

「久しぶり。元気にしてる?」

「まあぼちぼち」

「そう。今年のクリスマス、美緒はどうするの?」

「何、嫌み? どうもしないよ」

美緒は不機嫌さを隠しもせず声を上げたが、母はなぜかうれしそうだった。

「それじゃあちょうどよかった。先週くらいにね、詩織が舞亜ちゃん連れて戻ってきたのよ」

「あ、そうなんだ」

言いながら、美緒はほっとしている自分に気づく。関係ないとは言っても、詩織はどうしたって縁の切れない、この世界でたった1人の妹だった。

「せっかくでしょう。だから今年はみんなでクリスマスパーティーでもしようかって、お父さんが」

「ふーん、そっか。クリスマスパーティー」

「ね、美緒もたまには帰ってきなさいよ」

「考えとくよ」

美緒はそう言って電話を切った。見上げた夜空には、都会では珍しい星々がそっと光っていた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。 マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。