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iDeCo(個人型確定拠出年金)を有効活用する方法と注意点-拠出限度額引き上げで税制優遇の恩恵も大きく

2025/01/16 00:00

■要旨 2024年12月、iDeCo(個人型確定拠出年金)の毎月の拠出金上限額が引き上げられた。iDeCoでは税制優遇が受けられることから、老後資金準備の効果的な方法として注目される。ただし、iDeCoでは掛け金の金額や投資する運用商品、積み立てた資産の受け取り方法には選択の余地がある。その選択により運用成果や税控除

■要旨

2024年12月、iDeCo(個人型確定拠出年金)の毎月の拠出金上限額が引き上げられた。iDeCoでは税制優遇が受けられることから、老後資金準備の効果的な方法として注目される。ただし、iDeCoでは掛け金の金額や投資する運用商品、積み立てた資産の受け取り方法には選択の余地がある。その選択により運用成果や税控除に有利不利が生じうるため、制度をよく理解して効果的に活用したい。

■目次

1――iDeCo掛け金上限の引き上げへ
2――iDeCoの基本の仕組み
3――iDeCoの活用方法と注意点
4――終わりに2024年12月からiDeCo(個人型確定拠出年金)の毎月の拠出金上限額が引き上げられた。DB(確定給付年金)等他制度と企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入する会社員・公務員等はiDeCoの拠出金上限額が1.2万円から2万円に引き上げられた(図表1)。また、拠出金上限はさらなる引き上げが検討されている1。政府・与党が公表した令和7年度税制改正大綱では、会社員・公務員等のiDeCoと企業型DCの合計限度額を6.2万円に引き上げるとともに、iDeCo単体での限度額を撤廃するとしている。これにより、iDeCoの税制優遇によるメリットも拡大することが期待される。

ただし、iDeCoでは運営管理機関や運用商品、受け取りの時期・方法などには複数の選択肢があり、選択によっては運用のコストや収益、税制優遇によるメリットに差が生じうる。iDeCoを有効活用し効果的に資産形成を行っていくために、iDeCoの制度内容や注意点について分かりやすく説明したい。


1 日本経済新聞、「iDeCo掛け金上限引き上げ、金額や対象者は? 仕組み解説」、2024年12月20日

2――iDeCoの基本の仕組み

iDeCo(イデコ)は、「個人型確定拠出年金」の略称で、公的年金(国民年金・厚生年金)の不足を補うための私的年金制度である。加入者が掛金を拠出し、自ら運用方法を選び、その成果を老後資金として受け取る仕組みとなっている。自営業者や会社員、公務員、専業主婦など、20歳から65歳未満の幅広い層が加入できる点が特徴だ。iDeCoでは、加入者は下記の手順を行っていく。

・金融機関の選択
iDeCoは金融機関を通じて行われており、窓口となる金融機関を選ぶ必要がある。金融機関により、運用商品や手数料、サポート内容は異なっており、これらを比較して自分に合った金融機関を選びたい。

・掛金の拠出
加入者は最低月5,000円から1,000円単位で掛金を設定し拠出する。上限額は職業や企業年金の有無によって異なっている(図表1)。拠出した掛け金は全額所得控除されるため、税制優遇を受けながら将来の資産を準備できる。

・運用
加入者は拠出した掛金を金融機関が提供する運用商品に投資する。元本確保型商品(定期預金・保険など)や投資信託など多様な運用商品から選択できる。運用結果次第で受け取り額が変動するため、リスクとリターンのバランスを考慮して商品を選ぶ必要がある。

・給付の受取
原則として60歳以降に老齢給付金として受け取る。一時金としてまとめて受け取るか、分割して年金として受け取るかを選択できる。また、税制優遇措置により退職所得控除や公的年金等控除を受けられるため、受取時の税負担が軽減される。

こうした仕組みからiDeCoには主に以下のメリット・デメリットが挙げられる。iDeCoを行う上ではデメリットに対処しつつメリットをできるだけ有効活用したい。

・メリット
-税制優遇
iDeCoの最大の魅力は、税制優遇により支払う税金を減らし、効果的に資産形成を行えることである。(1)掛金拠出時の全額所得控除、(2)運用中の運用益非課税、(3)受取時の税制優遇の3つの税制優遇を受けられる。受取時には一時金は退職所得控除の対象となり、年金として受け取る場合は公的年金等雑所得となりこれに係る控除を受けられる。

-運用の自由度
多様な金融商品から選択できるため、リスク許容度や目標に応じた資産運用ができる。

・デメリット
-60歳まで引き出し不可
老後資金準備を目的としているため、掛金や運用益は原則60歳まで引き出すことができない。

-運用リスクとコスト
投資信託など運用商品によっては元本割れのリスクがある。また、手数料が掛かるため、コストを考慮した運用が必要となる。

3――iDeCoの活用方法と注意点

上記のように、iDeCoには税制優遇などのメリットがある。ただし、実際には選択により税金やコスト、運用成果は異なり、それによって最終的に受け取れる金額も変わり得る。iDeCoを効果的に活用する上では下記の点に注意したい。

・金融機関(運営管理機関)の選択
iDeCoを開始するためには窓口となる金融機関を選ぶ必要があるが、金融機関ごとに取り扱っている運用商品(元本確保商品や投資信託など)やサービスは異なる。自分自身が投資したい運用商品があるかを確認し、商品ラインナップを比較検討したい。また、iDeCoでは開設した口座にかかる毎月の管理手数料も、金融機関によって異なる。サービス内容やコストを考慮して、金融機関を選びたい。

・効果的な運用
iDeCoは、早期から始めることで長期間の運用益を得られることが期待されるため、若いうちからの加入が推奨される。このため、iDeCoでは60歳以降までの長期間であることを踏まえた長期投資を行うことが望ましい。株式をはじめとした金融市場は一時的な急落があったとしても、期間が長くなるにつれて収益率は一定の範囲に収斂していく傾向があると言われる。元本確保型の金融商品など過度に保守的な運用よりも、許容範囲内でのリスクを取り入れることが運用成績の向上と有利な資産形成につながると考えられる。

・引き出しが可能となる60歳以前でのライフイベントに必要となる資金の確保
iDeCoでは運用益非課税で投資しながら老後資金の積み立てができるが、60歳まで資金を引き出しができない。

このため、住宅の購入や結婚などライフイベントの際に必要となるまとまった資金はiDeCoとは別に準備することが必要となる。家計への負担を考慮した掛金設定や、手数料の低い金融機関の選択などが重要なポイントとなる。NISAなど他の資産形成手段と組み合わせることで、ライフステージに応じた柔軟な資金計画を行うことが効果的となる。

・拠出時の所得控除の効果的な活用
iDeCoでは拠出金は全額が所得控除の対象となり、その分の所得税や住民税の負担が軽減される。給与などの収入にかかる所得税は所得が高いほど税率が高いため、一般的には所得が高いほど、控除される税金の金額は大きくなる(図表2)。逆に専業主婦など所得がない場合、所得税や住民税が発生しておらず控除される税金が無い場合がある。その場合、iDeCoによる税控除のメリットを十分活かせないこととなる。

・受け取り方法の選択
受け取りの際は、一時金による受け取りと年金による受け取りが選択できるが、それぞれ税制上の扱いが異なるため、有利な方法を選択したい。図表2、3に示すように、それぞれの受け取り方法で税金の計算方法と控除額は異なることに注意したい。

一時金による受け取りは退職所得控除を受けることができる。控除額は運用年数又は勤続年数をもとに計算され、これが長いほど控除金額は大きくなる(図表3)。運用年数は拠出金が少額であっても加算されるため、少額でも拠出を続けておけば運用年数および控除金額を増やしていくことができる。ただし、一時金による受け取りの控除は特定の場合を除き、退職金と合算で計算される2。このため、これら両方で別々に控除を受けられる場合に比べて、控除額は小さくなることに注意したい。

年金による受け取りは雑所得として課税対象となり、公的年金等控除の対象として税金の負担は軽減される(図表4)。ただし、年金による受け取りは一時金による受け取りと違い、国民健康保険料、介護保険料の徴収対象となることに注意したい。

2 日本経済新聞、「iDeCoなど一時金の控除縮小、退職金との間隔『5→10年』」、2024年12月24日

4――終わりに

iDeCoは、老後資金を効率的に準備するための有力な手段となり得る。税制優遇や運用の自由さなど数多くのメリットがあるが、60歳まで資金が拘束される点や運用リスクも理解して活用することが重要となる。また、iDeCoでは掛け金の金額や投資する運用商品、積み立てた資産の受け取り方法には選択の余地がある。その選択により運用成果や税控除に有利不利が生じうるため、制度をよく理解して効果的に活用したい。iDeCoを有効活用して老後資金を補完し、安心した老後を迎えるための一助となろう。


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