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トランプ大統領が表明した米国のWHO脱退、世界への影響は

2025/01/22 09:00

[ロンドン ロイター]1月20日に就任した米国のドナルド・トランプ大統領が、WHO(世界保健機関)から脱退する意向を表明し、大統領令に署名した。米国が脱退すればWHOは最大の資金拠出国を失うことになり、疾病との闘いや緊急事態対応の能力について懸念が高まっている。 最大の資金提供国 WHOは、ガザからウクライナに至る

[ロンドン ロイター]1月20日に就任した米国のドナルド・トランプ大統領が、WHO(世界保健機関)から脱退する意向を表明し、大統領令に署名した。米国が脱退すればWHOは最大の資金拠出国を失うことになり、疾病との闘いや緊急事態対応の能力について懸念が高まっている。

最大の資金提供国

WHOは、ガザからウクライナに至るまで、世界の健康危機に対応するための資金集めに奔走している。WHOの2024~25年の2年間の予算は68億ドルとなっている。

WHOのデータによると、この期間、米国はWHOのHIVやその他の感染症対策プログラムに対する拠出金の75%、結核対策では半分以上の資金を提供している。

開発資金を追跡するプラットフォーム「ドナー・トラッカー」によると、米国は22年に158億ドルを拠出し、世界の保健分野で最大の資金提供国となっている。

パンデミック条約

トランプ氏は、WHOが主導する新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた「パンデミック条約」にも懐疑的だ。

トランプ氏の盟友であるイーロン・マスク氏は、各国はWHOに「権限を譲るべきではない」と主張している。米国は脱退手続きが進む間、この条約に関する交渉を中止する。

ジュネーブの職員

トランプ氏の命令では、米国から派遣されているWHO職員らを本国に引き揚げ、配置転換する考えを示している。

米国疾病対策センター(CDC)は約30人の職員をジュネーブに派遣し、研究や感染症対策で協力している。また、米国にはWHOの協力センターも数多くある。

サーベイランス

米国はほかのWHO加盟国と同様に、WHOが統括するグローバルなインフルエンザサーベイランスネットワークに参加している。とりわけこのグループは毎年、季節性インフルエンザワクチンの成分について助言を行っている。

米国はWHOでの活動以外にも、多くのグローバルヘルスプログラムに資金を提供している。

エイズ

米国はHIVとの闘いにおける主要な資金提供国だ。その多くは、米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)からの資金だ。

保守派は一部の助成先が人工妊娠中絶を推進していると主張し、昨年、議会によって1年限りの再承認が行われた。この承認は今年3月に期限切れを迎える。

中絶

トランプ氏は1期目の任期中、いわゆる「メキシコシティ政策」を復活させ、米国の家族計画資金を受け取る海外の団体に、中絶を提供したり中絶に関する助言を行ったりしないことの証明を義務付けた。

トランプ氏は「ギャグ・ルール(口封じルール)」として知られるこの政策を拡大し、中絶を支援する他団体に資金を提供する団体を取り締まった。トランプ氏はまた、リプロダクティブ・ヘルスに取り組む国連人口基金(UNFPA)への資金提供も削減した。

ワクチン

ワクチン懐疑論者のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が保健長官に指名されたことで、トランプ政権の国内外でのワクチンに対する取り組みは不透明になっている。

ただ、前回のトランプ政権では、世界的なワクチングループGaviへの寄付は前任のオバマ氏や後任のバイデン氏(いずれも民主党)と変わらなかった。もう1つの主要なグローバルヘルス機関である世界エイズ・結核・マラリア対策基金への資金提供も同様だった。

研究と対応

米国の保健機関は、世界的な緊急事態やアウトブレイクに対応し、FDA(食品医薬品局)やCDCを通じて医薬品と安全性に関する基準を設定している。

国立衛生研究所は世界有数の研究機関であり、エムポックスからエボラ出血熱まで世界中のグローバルヘルス活動に資金を提供している。

トランプ政権下の米国が、こうした分野で世界的にどのような役割を果たすのかはまだ明確になっていない。出来事やその時々の優先事項によってある程度左右されるだろう。たとえば、トランプ氏は1期目の任期中、新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発を加速させる「ワープ・スピード作戦」を行った。

(取材:Jennifer Rigby/Emma Farge、編集:Andrew Cawthorne、翻訳:AnswersNews)