「火災保険の保険金で、自己負担なしで屋根修理ができる」と勧誘する業者をよく目にします。
それをきっかけに、屋根が損傷した場合に、火災保険で修理ができないか検討する方も多いようです。
結論から言うと、屋根修理の費用を火災保険でカバーできるとは限りません。なぜなら、屋根の損傷は特に、経年劣化によるものか、災害によるものなのか、区別しにくいからます。
この記事では、火災保険での屋根修理が可能なケースとそうでないケースについて、保険金を請求する上で知っておくべきことを含め、解説しています。
また、それに関連して、最近多発している、火災保険を悪用した詐欺を行う悪質な屋根修理業者の手口と、その対処法もお伝えします。
1.火災保険を屋根修理のために使える条件
まず、火災保険を屋根修理に使える条件を確認しておきます。
1.1.風災・雪災・雹災が補償対象となっていること
第一条件は、屋根の損害の発生原因となる事故が、補償対象に含まれていることです。
火災保険が補償する範囲は、以下の火災や自然災害等です。
屋根の損壊の典型的な原因になりうるのは、赤で示した「風災」「雪災」「雹災」です。これらがカバーされている必要があります。
【(参考)火災保険の補償範囲】
火災 | 失火・もらい火によって生じた損害に対する補償 |
落雷 | 落雷による損害の補償 |
破裂・爆発 | ガス漏れ等、破裂・爆発による損害の補償 |
風災・雪災(せつさい)・雹災(ひょうさい) | 風・雪・雹による損害に対する補償
例:台風で何かが飛ばされてきて窓ガラスが割れた(風災) |
水濡れ | 漏水をはじめとした水漏れによる損害に対する補償
例:賃貸住宅で上の階から水漏れし、家電製品が故障した |
水災 | 台風・集中豪雨などによる水害が原因の損害に対する補償
例:台風で近くの川が氾濫し、床上浸水をおこした |
盗難 | 盗難被害に対する補償 |
騒擾(そうじょう)・集団行為などにともなう暴力行為 | 騒擾・集団行為を原因とした暴力や破壊行為による損害を補償 |
建物外部からの物体の落下・飛来・衝突 | 建物の外から何らかの物体がぶつかってきたときの損害を補償 |
なお、最後の「建物外部からの物体の落下・飛来・衝突」は考えにくいです。なぜなら、風で飛ばされてきたものが当たったら「風災」になるからです。
屋根が損傷するケースでこれにあたるのは、飛行機やUFOが空中で爆発して破片が落ちてきたとか、小さな隕石が落ちてきたとか、よほどのことに限られます。
1.2.損害が生じてからできるだけ早く保険金請求すること
保険法第95条では、一応、保険金の給付を請求できる期限は3年以内となっています。
しかし、これは、あくまで、3年以内であれば法律上、請求できる権利があるというにすぎません。
権利があることと、保険金を請求したら支払ってもらえるかどうかは、別の問題です。
請求が認められるには、損害が発生した日時を特定するとともに、その損害が風災等によって発生したものであることを証明することが必要です。
3年以内でも、時間が経過すれば、それだけ、証明が難しくなり、保険金請求が認められにくくなっていきます。
なので、災害で屋根が壊れたことが分かったならば、できる限り早く保険会社へ連絡することをおすすめします。その際は、日時・原因を可能な限り特定するべく、気象庁HP『過去の気象データ検索』のコーナーで、周辺地域の当日の時間ごとの天気・風速・降水量等のデータを細かく確認することをおすすめします。
1.3.損害額が免責額(自己負担額)を上回っていること
火災保険では、損害が発生してもその一部は保険金を受け取れず自己負担にするよう設定できます。その代わり、保険料を低く抑えることができます。
その設定方法は2つあります。自己負担額を決める「免責方式」と、損害額が20万円以上であった場合に補償が行われる「損害額20万円以上型」です。今は免責方式がほとんどで、「損害額20万円以上型」はまれに古い契約で見かけるくらいです。
以下、それぞれについて簡単に解説します。
免責方式
この方法は、損害額の一定額まで自己負担にし、保険金はそれを上回った額を受け取れるというものです。
たとえば、自己負担額を10万円で損害額が30万円だったとしましょう。この場合、受け取れる保険金は
30万円-10万円=20万円
となります。
もし、損害額が8万円だったら、自己負担額10万円を下回るので、保険金は受け取れません。
損害額20万円以上型
「損害額20万円以上型」は、損害額が20万円以上になった場合に、全額を保険金として受け取れる方式です。
免責方式との違いは、20万円を超えた場合の扱いです。
たとえば、損害額が19万円だと1円も受け取れませんが、損害額が21万円だと21万円全額受け取れます。
2.経年劣化が原因だと保険金は出ない
屋根が破損している原因が経年劣化や施工不良であることが明らかな場合には、保険金は出ません。
ただし、屋根破損の原因が経年劣化なのか、風災・雪災・雹災なのか判断に困ることがあります。
仮に経年劣化で傷んでいたとしても、最終的に風災・雪災・雹災によって破損した、ということが証明できれば補償の対象になります。なぜなら、経年劣化は加入時に保険料を算出する際に考慮ずみだからです。
その証明方法は、先ほどお伝えしたように、気象庁HP『過去の気象データ検索』のコーナーで、最寄りの観測所と、その近くでより詳細なデータをとっている観測所(たいていは大都市)のデータの両方を確認することをおすすめします。
3.火災保険でまかなえる屋根修理の費用はどのくらいか?
火災保険で受け取れる保険金は、あらかじめ契約で決められた損害額(いくらまで補償するかという限度額)の範囲となります。
損害額、つまり建物や家財の評価額の計算は、基本的に、被害を受けた屋根を新たにふき替えるのにかかる全費用です。この考え方を「新価」(再調達価格)と言います。
なお、経年劣化を計算に入れて低く見積もる「時価」という基準もあることはありますが、屋根の修理代金を全部まかなえないと雨露をしのげないので、全くおすすめしません。
4.火災保険で保険金を請求するための大まかな手順
屋根修理のために火災保険を利用する場合、どのようにして保険金を請求すればよいでしょうか。
ここでは、そのおおまかな手順を簡単に解説します。
おおよその流れがイメージできれば、手続きをスムーズに進められるようになるでしょう。
①損害があったことを保険会社へ連絡
まずは風災などで屋根が破損し修理が必要となったことを、保険会社へ連絡します。
その際、保険会社から聞かれる可能性がある主な内容は以下のとおりです。
- 契約者名
- 保険証券番号
- 損害が発生した日時・状況など※わかる範囲
このとき保険会社側の担当者から、保険金の請求にあたってどんな書類が必要になるか案内があります。
保険会社の指示にしたがって書類を用意してください。
またこの時点で、これからの具体的な流れについてくわしく聞いておくとよいでしょう。
②保険金の請求に必要な書類の提出
保険会社に指示されたとおりに書類を用意して提出します。
書類の内容は保険会社により異なる可能性がありますが、主に必要と想定される書類の種類は以下のとおりです。
- 保険金請求書:保険会社が用意する書類に記入
- 罹災証明書:罹災した事実や被害の内容を証明する書類。管轄の消防署・消防出張所で発行してもらえる
- 写真:被害の状況を撮影したもの(スマホ等で撮影した画像データも可)
- 修理見積書(報告書):修理業者から取り寄せたもの
③保険会社による調査と審査
保険会社から損害鑑定人や調査員が派遣され、申請された内容が正しいかどうか判断するため現場調査が実施されます。
鑑定人・調査員は報告書に現地調査の結果をまとめ、保険会社がその調査結果をもとに、保険金を支払うかどうかを決めます。
④保険金の受け取りと屋根修理の実施
保険金が受け取れたら屋根修理の工事を行います。
申請しても、必ずしも保険金がおりるとは限らないので、修理業者と契約するのは、保険金を受け取った後にすることをおすすめします。それは次に述べる悪質な詐欺業者の被害に遭うことを防止するのにもつながります。
5.「火災保険で屋根修理できる」という詐欺トラブルと対策
「火災保険で自己負担なしに屋根修理ができます」などと勧誘して修理工事の契約を結ばせようとする詐欺トラブルが、以前に比べて多くなっています。
具体的な事例はこの後紹介しますが、悪質なものだと、単なる経年劣化による住宅の破損で、本来ならば火災保険の補償対象となる災害による損害ではないにも関わらず、ウソをついて保険金請求させ費用を請求するようなケースもあります。
5.1.実際、詐欺トラブルはどのくらい増えているか
それでは火災保険を悪用した詐欺は、実際のところどのくらい増えているのでしょうか。
独立行政法人 国民生活センターの報道発表資料(2018年6月6日)によれば、相談件数が、2017年度は2008年度の30倍以上増えているとのことです。
ここ数年で見ても、以下のように増加傾向であることがわかります。
- 2014年:663件
- 2015年:817件
- 2016年:1,081年
- 2017年:1,177件
なお男性相談者の約75%、女性相談者の約71%が60代以上の高齢者とのことです。高齢者の方、もしくは高齢者のご両親がいる方などは特に気を付けた方が良いかもしれません。
一方で40代以下の男性相談者も約12%、女性相談者も約13%いたとのことで、若いからといって被害に遭っていないというわけではありません。
自分は大丈夫と過信せずに、詐欺の手口を知って、騙されないように注意しましょう。
5.2.トラブルの具体的なケース
それでは実際にどんなトラブルの例があるでしょうか。ここでは実際に発生した詐欺業者によるトラブルのケースを紹介します。
高額な請求手数料を要求するケース | 詐欺業者が作成した見積書や図面を使って保険金を請求し、実際に保険金がおりた後に請求手数料として高額な費用を請求する。 |
高額な違約金を請求するケース | 「火災保険で屋根修理ができる」と言われ、詐欺業者の指示に従って保険会社へ保険金の請求をする。しかし請求した通りの額がおりずに、工事をやめたいと伝えたところ「受け取った保険金の○%」を違約金として請求する。 |
手数料だけ支払わせ工事を行わないケース | 詐欺業者の指示に従い保険金を受け取ったうえで、要求された通りの手数料を支払う。しかしその後に工事が開始されず、業者とも連絡がつかなくなる。 |
不具合があるようにみせかけ保険金の請求をさせるケース | 詐欺業者が自宅へ訪れ「屋根が破損しているかもしれない、写真を撮るから屋根に上がらせてほしい」と言う。言われた通りに屋根に上がらせたところ、「屋根の板金がはがれている」と実際に撮影した写真をみせてきて保険金の請求をさせようとする。不審に思い、あらためてなじみの修理業者にみてもらったところ、明らかに人為的にネジを抜いた痕があり、実際には屋根修理の必要はなかった。 |
うその理由で保険金を請求させようとするケース | 本当は経年劣化で破損しているだけなのに、詐欺業者が「災害が理由で屋根が破損したといえばよい」とそそのかしウソの理由で保険金を請求させようとする。 |
そもそも、保険金請求をしたら必ず保険金を受け取れるとは限りません。
詳しくは後述しますが、請求の根拠がしっかりしていない限り、保険金を受け取れることはないと考えた方がよいでしょう。
また、通常であれば、工事の見積をとるだけであれば手数料を取られることはありまんし、ましてや違約金を取られることもありません。
なお、言うまでもないことですが、欺業者にそそのかされて、ウソの理由で保険金を請求すると、最悪の場合は詐欺罪で捕まってしまうこともあります。
5.3.詐欺業者の手口
次に、よくある詐欺の手口を順を追って簡単に紹介します。相手の手口が分かれば、詐欺のトラブルを事前に防ぎやすくなります。
5.3.1.訪問や電話、チラシなどで勧誘してくる。
まず、勧誘です。詐欺業者は、火災保険の保険金で屋根修理をしないかなどと、訪問や電話、チラシなどで勧誘し、修理工事の契約を結ばせようとしてきます。
その際、「火災保険の保険金を利用すれば自己負担なしで屋根修理ができる」とか、「請求の手続きはサポートする」のように甘い言葉をかけてきます。
5.3.2.工事の契約を結ばせる
詐欺業者の言葉を信じて契約すると、契約書の条項には「サポート費用として保険金の○%を支払う」「キャンセルした場合は違約金として保険金の●%を支払う」などの条件が盛り込まれていることがあります。
ひどいケースになると「契約書は後で持ってくる」などと言って、実際には契約内容を正しく伝えていないこともあります。
5.3.3.保険会社へ保険金の請求を行わせる
詐欺業者は、自前で用意した見積書や図面を示してきて、これを使って保険会社へ保険金の請求を行わせます。
5.3.4.お金を巻き上げようとする
その結果、想定した保険金を受け取れず工事をキャンセルしようとしたら、詐欺業者は「手数料」とか「違約金」とかの名目でお金を支払わせようとしてきます。
逆に、保険会社から保険金を受け取れたとしても、詐欺業者は手数料だけ受け取って、実際には工事が行われなかったり、いい加減な工事が行われたりするのです。
5.4.詐欺被害に遭わないための対策
5.4.1.請求の根拠をはっきりさせる
「火災保険の保険金で屋根修理ができる」という詐欺業者に騙されず、トラブルを回避するためにはどうすればよいでしょうか。
まず、火災保険の保険金を請求する根拠をはっきり説明させることです。もちろん、ウソの理由で保険金を請求させようとするのは論外です。
ウソでなかったとしても、保険金請求にしっかりした裏付けがなければ、保険金を受け取れることはありません。
損害保険の調査業務を担当されたことのある方によれば、「いつ・どのような災害で」住宅が被害を受けたのか立証できなければ、保険金を受け取れないとのことです。
また破損してから時間がかなり経過してから請求をすると、「なぜ今頃請求するのか」と不審を持たれ、より慎重に調査が進められることが多いといいます。
業者が説明する保険金請求の根拠があやふやだったり、納得できなかったりするならば、その業者に任せるのはやめましょう。
そのような勧誘を受けたことを、保険会社や知り合いの業者に相談してみるのも1つの手です。
5.4.2.保険金を受け取れるまで契約を結ばない
また、保険金を受け取れるまでは、絶対に業者と修理工事の契約を結ばないようにしましょう。
業者に見積もりを取るだけであれば、お金は取られません。もし、契約を急いでくるようであれば、疑ってかかるべきです。
5.4.3.不審があれば消費生活センターへ問い合わせる
詐欺業者からしつこい勧誘を受けたり、万が一契約してしまって高額な請求をされ困たりした時は、消費生活センターへ相談することをおすすめします。
早めに相談すればクーリング・オフできる可能性もあります。また、電話で「188(いやや)」という番号に問い合わせれば、最寄の消費生活センターの連絡先を教えてくれます。
まとめ
火災保険では、カバーする補償の範囲(風災・雪災・雹災など)において破損した場合に屋根修理の費用を補償してもらうことが可能です。
一方、屋根の故障の原因が経年劣化や施工不良だったり、修理費用が少額で保険金が降りる条件に満たなかったりする場合などは、火災保険で屋根修理はできません。
しかし、詐欺業者は、そういった事情をきちんと説明せず、火災保険の保険金で確実に屋根修理が可能であるかのように装って勧誘し、工事の契約を結ばせようとしてきます。そして、もし保険金を受け取れなくても、「サポート費用」「手数料」「違約金」という名目で高額な請求を行ってくることがあります。
しかも、あいまいな理由・ウソの理由で保険金を請求させようとすることもあります。
原因となった災害と損害との因果関係が立証ができなければ、保険金は受け取れません。
詐欺業者に騙されないためには、火災保険の保険金の請求の根拠をはっきりさせる、保険金を受け取れるまで修理工事の契約を結ばない、ということを徹底する必要があります。
(2024年12月17日公開記事)