配偶者の死亡により、遺族年金を受けることもあります。現役時代会社員だった夫が死亡し、専業主婦だった妻が遺族厚生年金として受け取るパターンが多いですが、そうでないケースでも条件を満たせば支給されることになります。
夫婦ともに会社員で、夫を亡くした妻
78歳の典子さん(仮名、以下同)は12年前に夫・敦さんを亡くしました。40代の息子や娘は別で暮らしています。夫婦共働きでしたが、敦さんを亡くして以降、遺族厚生年金が少し支給され、典子さん自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金とあわせて受給していました。
40年会社員をしていた典子さんは「自分の老齢基礎年金が75万円、老齢厚生年金が125万円。自分で言うのも変だけど、私は結構働き者だったな。しっかり働いて厚生年金掛けたから年金もまぁまぁある。これに遺族厚生年金15万円が加わって合計215万円か」「夫婦共働きで私も会社員で厚生年金に入っていたから、遺族厚生年金は少ないらしいけど、この額なら1人で生活する分には悪くないかな」と公的年金の額については特に気にならず、貯蓄なども十分あったため暮らせていました。
妻を亡くした自営業の夫
一方、自営業で74歳の孝夫さんは妻の純子さんを亡くしています。40代になる3人の娘は既に別で暮らしています。孝夫さんは65歳以降、老齢基礎年金とわずかな老齢厚生年金を受給していました。「俺は会社には2年しか勤めていないから厚生年金の加入は短い。だからほとんど国民年金しか加入してない。老齢基礎年金は70万円と老齢厚生年金が3万円で合計73万円。国民年金しか加入していなかった純子が他界して、年金収入は自分1人分……」「年金は多いとは言えないけど、とりあえず、まだまだ仕事はがんばってできるかな」と考えていました。年金以外に収入も年間500万円ほどあり、貯蓄もあるため、特に不自由なく生活しています。
再婚する2人、年金はどうなる?
そんな典子さんと孝夫さんはそれぞれ犬を飼っていましたが、2年前に犬の散歩中に公園で出会いました。よく顔を合わせるようになり、お互い配偶者を亡くしていることをきっかけに会話する機会も増えました。やがて、典子さんと孝夫さんは今から半年前に再婚することになりました。典子さんと孝夫さんのそれぞれの子たちも、再婚について反対もなく、祝福の声で迎えます。
ここで典子さんの場合、孝夫さんと再婚すると、敦さんが亡くなったことを機に受け取っていた遺族厚生年金は受け取れなくなります。遺族厚生年金15万円分が少なくなり、合計200万円となりますが、特にそのことを気にすることもありませんでした。むしろ、孝夫さんの年金73万円と合計すれば273万円になることが確認でき、また、孝夫さんの事業収入もあって生活はできるだろうということから、そのまま再婚することになりました。
またしても妻に先立たれる
ところが、再婚して数カ月後、典子さんが急病で亡くなってしまいました。「新しい生活が始まったばかりだというのに、2度も妻に先立たれるなんてな……」と孝夫さんは落ち込みます。孝夫さんは純子さんが他界した時のことを思い出し、典子さんが亡くなったことで年金の手続きが必要と考え、年金事務所に行きます。
すると職員から「遺族年金を請求できますので、手続きを進めてください」と、前妻・純子さんが亡くなった時には言われなかったことを言われます。職員によると、「孝夫さんの場合、遺族厚生年金として年間87万円ほど支給されます」とのことでした。
孝夫さんは「本当にそんなに受け取れるのか。そもそもなぜそんなもの受け取れるのか」「遺族年金を受け取っている人って女性ばかりとも聞いていたし。男も受け取れるのか」という疑問が生じました。
孝夫さんに遺族年金が支給される条件や支給額の根拠はどのようになっているのでしょうか。
●夫が遺族年金をもらえるパターンについては、後編【「自分が遺族年金を受け取るなんて考えたこともなかった」70代男性が引退後の“生活の保障”を得られたワケ】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。