DANAWAN PURBANGGORO/SHUTTERSTOCK <金融「正常化」への姿勢を鮮明にする日銀に対して市場の警戒感も強まっているが、この流れをさらに強めようとしているのがドナルド・トランプ米大統領だ>日本の長期金利が1.5%を超える状況となっている。困ったことに顕著に金利が上がり始めたのは、1月に実施された
DANAWAN PURBANGGORO/SHUTTERSTOCK
<金融「正常化」への姿勢を鮮明にする日銀に対して市場の警戒感も強まっているが、この流れをさらに強めようとしているのがドナルド・トランプ米大統領だ>
日本の長期金利が1.5%を超える状況となっている。困ったことに顕著に金利が上がり始めたのは、1月に実施された金融政策決定会合で日銀が政策金利の追加利上げを決めたことがきっかけとなっている。日銀としては正常化の方向性をより鮮明にした格好だが、市場はさらなる利上げを求めている状況だ。
長期金利は日本の物価上昇を受けて、2023年からジワジワと上がり続けてきたが、1%を超えて上昇するまでには至っていなかった。日銀は事実上、金融正常化に舵を切っているが、金利が急上昇すれば、住宅ローン支払額の増加や政府の利払い費負担など悪影響が懸念される。日銀としては適切なペースでの利上げが望ましいと考えていた。
長期金利が1.0%程度に収まっていれば、市場は引き続き、低金利が継続するとみていると解釈できるものの、恒常的に1.0%を超え、さらに1.5%を超えるとなると、そのような認識は通用しなくなる。この水準まで来ると、明確に金利が存在する通常の世界に戻ったと認識せざるを得ないだろう。
とりわけ影響が大きいのは日本政府の財政である。日本政府は1000兆円を超える負債を抱えているが、これまでは金利がほぼゼロだったことから政府は利払い負担について気にする必要がなかった。
市場は長期金利の上昇に警戒モードを強める
だが国債の平均金利が2%になった場合、政府が負担しなければならない利払い費は年間20兆円以上に達する。日本国債の平均残存期間は約9年なので、この金利水準が続くと、数年で利払い費の負担は極めて大きなものとなる。
昨年の総選挙で自民党が少数与党に転落したことを受け、野党の要求については一定程度、受け入れる必要が出てきており、財政支出は拡大する可能性が高い。ただでさえ予算が膨張するなか、消費税に換算すれば8%分もの追加支出が生じた場合、政府の財政は到底耐えられないだろう。
市場は長期金利の上昇に警戒モードを強めているが、さらに困った事態が発生している。それはドナルド・トランプ米大統領が日本に対して円高を求める発言を行っていることである。
トランプ氏は3月3日、円安・ドル高でアメリカの製造業が不利な立場に置かれているとして日本を名指しで批判した。日本に円安是正を求める代わりに、関税引き上げを通告するとも発言しており、トランプ氏の本当の狙いが為替なのか関税なのか、さらには別の材料があるのか、現時点では不透明である。
終わりを迎える30年にわたった金利ゼロの世界
だが市場はこの発言に敏感に反応しており、為替は円高に、金利は上昇する方向に動いている。金利が上昇して円高が進めば輸入物価が下がり、高騰が続く国内の物価も一段落する可能性がある。その意味では消費者にとっては朗報かもしれないが、こうした動きを日銀が追認せざるを得ない状況となった場合、想定以上に金利が上がる可能性も否定できない。
いずれにせよ、30年の長きにわたった金利ゼロという異常な世界は終わりを迎えつつある。預金に一定の金利が付与されることは家計の所得を増やす効果をもたらすと同時に、貸出金利も上がることから企業の競争も活性化することになる。
日本経済が正常な状態に戻ろうとするきっかけが、世界中を不安に陥れているトランプ氏の言動なのだとすると何とも皮肉である。
加谷珪一 経済ニュース超解説