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「ねんきん定期便」で発覚! 夫婦の年金額に“まさかの差”が生まれた驚きの理由とは?

2025/03/22 17:15

<前編のあらすじ> 63歳の浩明さん(仮名)はこれまで40年以上会社員として働いてきました。年金にはあまり関心がありませんでしたが、年金生活が近づくにつれて受給額が気になり始めます。 「ねんきん定期便」で確認すると、61歳の妻・麻子さん(仮名)は短い会社員期間しかないにもかかわらず、基礎年金額が浩明さんより多いこと

<前編のあらすじ>

63歳の浩明さん(仮名)はこれまで40年以上会社員として働いてきました。年金にはあまり関心がありませんでしたが、年金生活が近づくにつれて受給額が気になり始めます。

「ねんきん定期便」で確認すると、61歳の妻・麻子さん(仮名)は短い会社員期間しかないにもかかわらず、基礎年金額が浩明さんより多いことが判明します。

「老齢基礎年金は何で俺より多いんだ?」と疑問を抱いた浩明さんは、気になって仕方がありません。納得のいかない浩明さんは、妻を連れて年金事務所へ向かいました。

●前編:専業主婦の妻の基礎年金が自分より多いのはなぜ? 40年以上会社勤めの夫が抱いた素朴な疑問…判明した「意外な真実」

会社員で老齢基礎年金が増えるのは20歳以上60歳未満

老齢基礎年金は国民年金の加入記録で計算されます。保険料納付済期間が40年(480月)あると、満額、つまり年間81万6000円(2024年度 68歳以下の場合)が支給されることとなっています。国民年金保険料の免除期間や未納期間、国民年金の未加入期間があると満額より少なくなり、その期間に応じて年金額が計算されます。

この保険料納付済期間となる主な期間は、自営業など第1号被保険者(20歳以上60歳未満が対象)として国民年金保険料を納付した期間、会社員等で厚生年金の加入者が国民年金の第2号被保険者となった期間のうち20歳以上60歳未満の期間が該当します。また、第2号被保険者として扶養に入っていた第3号被保険者(20歳以上60歳未満が対象)となった期間も対象になります。厚生年金保険料を負担する第2号被保険者で、20歳以上60歳未満であれば、老齢厚生年金(報酬比例部分)だけでなく、老齢基礎年金も増え、年金は2階建てで増えることになります。

第2号被保険者は20歳前も60歳以上でも対象になります。しかし、老齢基礎年金の計算上は、20歳以上60歳未満の期間が対象のため、20歳前や60歳以降の期間は含まれません。浩明さんは20歳以上60歳未満の期間のうち、大学生の頃は国民年金に未加入、22歳から60歳になるまで、38年弱厚生年金に加入していました。したがって、保険料納付済期間は第2号被保険者期間の38年弱で、40年ありませんので、老齢基礎年金自体は満額になっていません。

一方、麻子さんは高校を卒業した18歳の時から、結婚退職までの25歳まで、7年ほど厚生年金に加入しています。そして、その後は60歳になるまでの約35年第3号被保険者となっています。

老齢基礎年金の計算において、第2号被保険者期間のうち20歳から25歳の結婚退職までの期間が含まれ、結婚退職後から60歳になるまでの第3号被保険者期間も含まれることから、麻子さんは40年全て保険料納付済期間となります。したがって、麻子さんの老齢基礎年金は満額で支給されることになり、つまり、浩明さんより多い額となります。浩明さんは「へーそうだったんだ」と計算方法について理解します。

意外と知られていない「経過的加算額」の仕組み

ただし、20歳前や60歳以降に第2号被保険者になると、厚生年金加入月の合計が480月になるまで、1月加入につき経過的加算額が年額1701円(2024年度)増えます。老齢厚生年金の内訳として「ねんきん定期便」では「経過的加算部分」、年金事務所での試算表では「差額加算」と表示されている部分ですが、これは老齢基礎年金に相当する部分となります。

浩明さんの場合、22歳の就職の時に厚生年金に加入し、40年経つ62歳の時にその期間が合計480月になりますが、60歳以降その合計480月になるまでは報酬比例部分と経過的加算額が増えることになり、この間は実質2階建てで年金が増えることになります。浩明さんの老齢基礎年金と経過的加算額の合計は年間81万6480円となっていました。つまり、厚生年金として40年加入して両者の額を合わせると、老齢基礎年金の満額(年間81万6000円)に近い数字となります。

一方、麻子さんについては、18歳で高校を卒業してから20歳前に会社員の期間があるまで第2号被保険者期間があるため、この期間で計算された経過的加算額があり、さらに81万6000円の満額の老齢基礎年金が受けられることになります。

計算根拠を知り増え方も確認

63歳時点で浩明さんは既に40年以上厚生年金に加入しているため、経過的加算額はこれ以上増えず、報酬比例部分のみ増えることになります。

こうして浩明さんも麻子さんも、今後、引き続き厚生年金に加入するとどれくらい年金が増えるかについて知ることができ、年金への理解が進みました。「ねんきん定期便」には記載されていませんでしたが、浩明さんの老齢厚生年金には加給年金、麻子さんの老齢基礎年金には振替加算があることについて説明がされました。

年金はどれくらい加入してどれくらい増えるか気になるところです。その根拠を確認できれば将来の年金収入の見通しを立てやすくなるでしょう。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。