三菱アセット・ブレインズがまとめた2025年2月の公募投信(ETF、DC専用、SMA専用、公社債投信除く)の新規設定ファンド数は24本と前月(12本)から倍増し、設定総額も約1080億円と前月(約570億円)から大きく増えた。新規設定額ランキング(設定額は設定日の純資産額)でトップは、野村アセットマネジメントの「野村マッコーリー・プライベート・インフラ・ファンド」で約851億円だった。国内公募投信初となる非上場インフラ株を主要投資対象とするファンドだ。この設定額が大きかったことが新規ファンド全体の設定額の規模を大きくした。

◆国内初の未上場インフラ株を対象にしたファンド
新規設定額でトップになった「野村マッコーリー・プライベート・インフラ・ファンド」は、先進国を中心とした世界各国の非上場インフラ企業の株式(非上場インフラ株)等を実質的な主要投資対象とし、世界最大級の非上場インフラ投資の運用実績があるオーストラリアのマッコーリー社が実質的な運用を担う。非上場のインフラ投資資産は、市場で取り引きされていないため流動性が低い一方、市場動向の影響を受けにくく価格変動が抑制される傾向にある。これまでの投資対象であった上場株式や国債等とは異なる価格変動の特性がある。そもそもインフラ資産は、上下水道やガスパイプライン、高速道路、通信基地局など、日常生活に不可欠な設備であるため、景気変動の影響を受けにくい安定的な収益が期待できる。さらに、日々のニュース等(ノイズ)によって敏感に価格が動く上場株式等とは違って、非上場の資産は資産の本来価値に近い価格を安定的に維持できることが期待できる。
ただ、市場が開いている間は常に売買が可能な上場証券と違って、非上場証券はその都度、取引相手を自ら見つけて取引価格も交渉の上で個別に決定するという手間がかかる。日常的な売買には不向きな資産だ。このため「野村マッコーリー・プライベート・インフラ・ファンド」も購入価額は申込月の月末から29特定営業日後の約定日における基準価額となり、換金は1月、4月、7月、10月の1日から同月の最終特定営業日までの期間に限られ、換金価額は、申込月の翌々月の月末から34特定営業日後の約定日における基準価額から信託財産留保額を差し引いた価額となるなど、通常の公募投信とは大きく異なるルールになっている。最低申込金額も500万円以上だ。
このような商品特性を考えると、従来の株式ファンドや債券ファンドとは異なる魅力のある分散投資対象とはいえ、比較的資金に余裕のある富裕層が、安定的な収益の獲得を目指して中期的に放置しておける資金の受け皿として活用するためのファンドといえそうだ。30代、40代といった資産形成層が毎月数万円を積み立て投資するような投資対象ではない。三菱アセット・ブレインズでも「未公開資産は伝統的資産との相関が低いオルタナティブ資産として注目を集めるが、流動性の低さなど投資に際して考慮すべき制約も少なくない。これらを踏まえ、特にプライベート資産ファンドなど投資に際し制約のあるファンドの組成時には、運用会社が想定顧客層を具体的に明示し、販売会社に対して適切な販売へ向けた支援を行うことが期待される」と取り扱いには特段の配慮が必要だと指摘している。
◆さまざまに特徴のある新設ファンドが登場
2月の新設ファンドの特徴は、「インド株」など特定の資産に投資するファンドが集中的に設定されるのではなく、さまざまな特徴のあるファンドが幅広く登場していることだ。たとえば、「東海東京ヌビーン・リタイアメントファンド」は資産の取り崩しにポイントを置いたファンドだ。退職金などまとまった資金を保有している人が、「安定的に資産を運用して増やしながら、一定金額を取り崩して老後に受け取る公的年金等に+αで使う」ということを想定しているファンドだ。奇数月の10日に目標分配額である年510円(各決算時85円)相当に応じた分配を行う「年510円目標取崩し型」、また、奇数月の10日に目標分配率の年5%(各決算時0.83%)相当に応じた分配を行う「年5%目標取崩し型」をそろえた。「年510円目標」など定額取り崩しは、定期的に一定額の金額が手に入るために生活費が安定するという効果があるが資金をより早く枯渇させるリスクがある。「年5%目標」などの定率取り崩しは、定期的に手に入る金額がばらつくものの、資金をより長く存続させるという効果が期待できる。どちらを選ぶかは、生活プランの考え方による。
また、「ピクテ・ウォーター・ファンド」は、世界の水関連企業に投資するファンド。「ニッセイ・パワーテクノロジー株式ファンド」は「電力」に関連する優れた技術やビジネスモデルを有する企業の株式に投資するファンド。「イーストスプリング・インド国債ファンド」は、インド国債を投資対象にしたファンド。「楽天・GCIシステマティック・グローバル・アルファ・ファンド」は、GCIグループが開発したグローバルかつ多資産のエクスポージャーを多様に組み合わせたポートフォリオに投資するファンドなど、さまざまな投資資産のみならず、投資手法も工夫した新しいタイプのファンドが出てきている。
2024年1月にスタートした新NISAは、多くの個人投資家に投資のきっかけを与えた。すでに成人の4人に1人はNISA口座を取得して投資信託や株式への投資を始めている。若い人ほど投資への関心は高く、30代は3人に1人がNISA口座を保有していることになる。これほど多くの国民が投資を始めれば、当然、その投資ニーズは幅広くなる。最初は「S&P500」や「全世界株式(オール・カントリー)」に投資している人が多いという実態に合わせてインデックスファンドの積立投資から始めた人の中にも、徐々に、自分自身の価値観や見通しにかなった投資を志向する人が出てくるだろう。
投資には「絶対」がないため、何か正しい投資の手法があるわけではない。正しいといえるものがなければ、「自分の好みにかなう」という納得感や満足度の高い投資を選ぶ人が一定数は現れるものだ。さまざまな特徴のあるファンドが設定されるのは、投資のステージが「最初の一歩」から、次の段階に進もうとしている勢いが感じられる動きだ。
執筆/ライター・記者 徳永 浩
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。