税務署から“未申告の財産があります” 実家から出てきた金塊で優雅な暮らしのはずが、アラフィフ女性が直面した「落とし穴」

2025/03/30 14:00

<前編のあらすじ> 51歳の満子は派遣社員である。配偶者はいないが、気ままな一人暮らしを楽しんでもいた。そんな満子の父が亡くなる。 すでに母は他界しており、実家はもぬけの殻に。実家を管理する気はさらさらなかった満子は父の臨終を機に実家を整理し、土地ごと売却してしまおうと考えていた。 満子は業者の手も借りながら遺品

<前編のあらすじ>

51歳の満子は派遣社員である。配偶者はいないが、気ままな一人暮らしを楽しんでもいた。そんな満子の父が亡くなる。

すでに母は他界しており、実家はもぬけの殻に。実家を管理する気はさらさらなかった満子は父の臨終を機に実家を整理し、土地ごと売却してしまおうと考えていた。

満子は業者の手も借りながら遺品整理を進めていった。すると満子は、蔵の中で、ひときわ重たい中身のわからぬ木箱を見つける。

開けてみると、そこには800万円分の金の延べ棒が納められていた。

両親からの思わぬ贈り物と思い、金の延べ棒を売却して得たお金を使う満子だが、大事なことを忘れていた。税務の手続きである。

前編:「お父さん、お母さん、ありがとう」父の亡き後、アラフィフ独身女性が実家の蔵で見つけた「贈り物」

税務署から通知が

穏やかな午後だった。カフェインを控えようと最近になってコーヒーの代わりに飲み始めたハーブティーを片手に、満子は郵便物をチェックしていた。すると広告や請求書に混じって、1通の茶封筒が目に留まった。差出人は、最寄りの税務署になっている。

「……え?」

税務署からの通知なんて、これまで受け取ったことがない。何かの間違いだろうかと思いながら封を開けると、「確定申告のお願い」と大きく書かれた紙が出てきた。その下には、こう続いていた。

『昨年度、申告されていない所得がある可能性があります。お心当たりのある方は、早めに申告をお願いいたします』

未申告の可能性がある所得として記されていたのは800万円。心当たりはひとつしかなかった。

書類を持つ満子の手は、じっとりと汗ばんでいった。

「そんなの、聞いてない……!」

1年前、父の蔵で見つけた金塊を換金し、手にした800万円。満子はそれを「もともとなかったお金だ」と割り切って、これまで経験したことのない贅沢をくり返した。高級レストランで食事をし、ブランドバッグを買い、きらびやかなジュエリーを身につけた。

お金をほとんど使い切った今、夢は醒めるものだからと満子はいつもの質素な生活に戻っていた。とはいえ、派遣から正社員になったことで毎月の給料も上がっていたし、普通に暮らす分には全く不自由はない。贅沢をしていた日々は楽しかったが、限りあるお金で慎ましく暮らすのも、それはそれで魅力や楽しさがある。
そう思っていた。

「……どうしよう」

満子は通知書を手に、呆然としていた。

この800万円は、そもそも「相続」になるのか、それとも「所得」として扱われるのか?

もし税金を払わなければいけないとしたら、どれくらいかかるのか?

使ってしまったお金を、今さらどうやって用意すればいいのか?

贅沢は人の心を豊かにする。たしかにそうだった。だが、迂闊だった。

満子は深いため息をついた。スマホを手に取り、税金に詳しい同僚の顔を思い浮かべながら、連絡先を探し始めた。

結構ヤバいかもね

「金塊を換金して800万円か……それ、確定申告してないなら結構ヤバいかもね」
職場の給湯室で、満子は税金に詳しい同僚・佐藤さんに事情を話していた。

佐藤さんは、普段は穏やかで冗談好きな人だが、このときばかりは表情が引き締まっていた。

「えっ、そうなの? でも、基礎控除があるから3000万円以下は税金かからないんじゃないの……? そのくらいは私も知ってるよ」

満子がネットで調べてきた付け焼刃の知識に、佐藤さんは軽くため息をついた。

「それは亡くなった後3か月以内に相続財産として申告してればの話。満子さんの場合、相続税の申告期限を過ぎてるから、相続財産の未申告とみなされる可能性が高いね」

相続財産の未申告――。その言葉が、ずしりと重くのしかかる。

「未申告の場合は、どうなるの?」

満子が恐る恐る尋ねると、佐藤さんは説明を続けてくれた。

「税務署が動いたってことは、遅かれ早かれ税金を払わなきゃいけないね。で、今回の場合だと、延滞税っていうのが発生するケースだと思うよ」

「延滞税……?」

言葉が頭の中でぐるぐると回る。まるで呪文のように思えたが、要するに満子は使い切った800万円に対して、今から払っていなかった分の税金と遅れた分の税金を払わなければならないということだ。

「……どうして、もっと早く調べなかったんだろう」

その日、帰宅した満子は、部屋のソファに深く沈み込みながら、自分を責めた。
銀行口座の残高を確認すると、そこには、老後のために少しずつ貯めていた貯金しか残っていなかった。

満子は何も考えずに、あの800万円を使い切ってしまった。あのときは、「もともとなかったお金」と軽く考えていた。しかし、今目の前にあるのは、税務署からの通知。もちろん「払えません」なんて、通用しない。

満子は深く息をついたあと、次の行動を決めた。

ここまで来たら、うだうだ言い訳しても意味がない。

まずは、正直に税務署に相談しよう、と。

結局無駄にお金がかかり……

満子は銀行の窓口で、静かに通帳を差し出した。

「税金の支払いですね。こちらの金額でよろしいでしょうか?」 

係員が提示した数字を見て、満子は小さくうなずいた。老後の貯金を切り崩して支払うことになるとは、800万円を手にしたあの日には思いもしなかった。

税務署に相談し、確定申告を済ませると、追徴課税と延滞税を含めた支払い金額が決まった。幸い、分割払いの相談にも応じてもらえたが、結局、手元に残っていた

貯金の金額からすれば手痛い出費だった。

家に帰ってソファに座り天井を見上げると、800万円を手にしてからの1年間の記憶が、次々と浮かんでは消えていった。

高級レストランでの食事、憧れのブランドバッグに、ジュエリー。得たものは、たしかにある。ただし、贅沢を心から楽しむということは、最低限のお金の知識があってこそだと、満子は身をもって学んだ。

「結局、こうやって地道に努力するのが私には合ってるのよね」

これからもしばらく人生は続いていく。

電車の窓の向こうに広がる朝の街並みを見つめながら、満子は小さく息を吐いた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee マネーの人間ドラマ編集班

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。