比較《平均給与25万円と30万円》どのくらい手取りが減るのかシミュレーション

「4月・5月・6月にたくさん残業すると手取りが減る」という話を聞いたことはありませんか?
手取りが減る原因は社会保険料が増えるからです。
どういう仕組みで手取りが減るのか、どのくらい残業すると手取りが減るのか、この時期を迎える前に、気になる疑問にお答えします。
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社会保険料は標準報酬月額から求める
4月から6月の給料が増えると社会保険料が増えることがあります。なぜ、社会保険料が増えるのかを説明する前に、社会保険料がどのようにして決まるのかを知るところから始めましょう。
会社員が給料から天引きされる社会保険料は以下の4つです。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
雇用保険料以外は「標準報酬月額」にそれぞれの保険料率をかけて保険料を算出します。雇用保険は給与の支給額に雇用保険料率をかけて保険料を算出します。手取りに大きく影響するのは健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つです。そこで、これらの保険料を求めるために使われる「標準報酬月額」について詳しくみていきましょう。
標準報酬月額とは
「標準報酬月額」は、保険料や年金額の計算を簡便化するために使われます。毎月の給料を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめることで「標準報酬月額」が求められます。

たとえば、給料が20万5000円だとすると、報酬月額19万5000円以上~21万円未満に当てはまるので、標準報酬月額は20万円になります。標準報酬月額20万円は健康保険の17等級、厚生年金の14等級(カッコ内)になります。健康保険は1等級から50等級まで、厚生年金は1等級から32等級まで分けられています。まとめられたキリのいい数字に保険料率をかけることができるため、保険料の計算が簡単になります。
標準報酬月額が決まる仕組み
報酬月額にあてはめる給料は、基本給のほか、残業手当や通勤手当などの諸手当を含めた税引き前の「総支給額」です。そのため、残業をたくさんすると、総支給額が上がるため、標準報酬月額も上がる可能性があります。標準報酬月額が上がれば、それに保険料率をかけた保険料も上がるため、結果、手取りが減るというわけです。
標準報酬月額は、毎月の給料をその都度当てはめて決めるわけではありません。標準報酬月額が決定するタイミングは3つあります。
1つ目は入社した時です。これを「資格取得時の決定」といいます。
2つ目は年1回の「定時決定」です。これが基本となります。
3つ目が「随時改定」です。これは、昇給など大幅な変更があった場合に定時決定を待たずに見直しをするものです。
基本は年1回の「定時改定」になるので、次項で「定時改定」について詳しくみていきましょう。
「定時決定」は4月~6月の給料で1年間の保険料が決まる
定時改定では毎年7月に見直しが行われます。その年の4月から6月の3か月間の給与の月平均額を求めて、標準報酬月額を決定します。ここで決定した標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間、保険料の計算に使われます。つまり、4月から6月の給与の額によって、その年9月から1年間の保険料が決まるということです。
そのため、4月から6月の3か月間にたくさん残業をして、それ以外の月は残業をしなかった場合、残業代のつかない通常の給料に対し、残業代で増えた給料を基準にした高い保険料が徴収されるので、手取りが減ることになります。
なお、残業した月の翌月に給料が支払われるケースでは、3月から5月に多く残業をすると標準報酬月額が上がります。
どのくらい手取りが減るのかシミュレーション

標準報酬月額が変わることで、社会保険料がどのくらい増えるのか、それによってどのくらい手取りが減るのか、シミュレーションしてみましょう。
<条件>
- 会社員Aさん(35歳)
- 協会けんぽ「令和7年度 保険料額表(東京都)」を使って試算
<4月~6月の給料の平均が25万円の場合>
標準報酬月額は26万円となります。
*健康保険料・・・1万2883円
*厚生年金保険料・・・2万3790円
社会保険料の合計は3万6673円となりました。
次に4月~6月に残業が多くなり、Aさんの給料が30 万円になった場合をみてみましょう。
<4月~6月の給料の平均が30万円の場合>
標準報酬月額は30万円となります。
*健康保険料・・・1万4865円
*厚生年金保険料・・・2万7450円
社会保険料の合計は4万2315円となりました。
その差は5642円です。Aさんの給料が再び25万円に戻った場合、増えた社会保険料5642円分手取りが減ることになります。1年間にすると6万7704円の減少です。
標準報酬月額が増えることのメリット
標準報酬月額が増えると、社会保険料も増えるので、マイナスに考えてしまいがちですが、標準報酬月額が増えることで次のようなメリットもあります。
傷病手当金や出産手当金が増える
病気やケガで休業したときの保障である「傷病手当金」や、出産のために会社を休んだ場合に支給される「出産手当金」は、標準報酬月額をもとにして給付額が決まります。そのため、標準報酬月額が高くなれば、給付額も多くなるというメリットがあります。
将来の年金額が増える
厚生年金(老齢年金、障害年金、遺族年金)は、加入期間や標準報酬月額をもとに年金額が計算されます。そのため、標準報酬月額が高くなれば、将来もらえる年金受取額が増えます。
まとめ
「4月から6月は残業すると損をする」といった言説は、この3か月間が標準報酬月額の算定期間であることから、それをもとに決められる社会保険料に影響することからきています。
社会保険料が増えることは、手取りの減少につながるので、マイナスイメージがありますが、給付金が増える、年金額が増えるなどのプラス面もあります。また、手取りが減ると感じるのは、4月から6月までの3か月間だけ多く残業をし、他の月は残業をしないという稀なケースです。
1年を通して偏りが少ない場合は、それほど気にする必要はないでしょう。
参考資料
- 協会けんぽ「令和7年度保険料額表(東京都)」
- 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
(2025年4月2日公開記事)