NISA・クレカ積立を始めたい

「新NISAは成功」と盛り上がる裏で…「政府目標の口座数」には“黄信号”がともりつつある実態とは

2025/04/14 16:30

NISAの買付額、政府目標を2年前倒しで達成…新NISAは成功といえる!? 少し前のニュースになりますが、日本証券業協会が3月19日に、1~2月のNISA口座を通じた大手証券会社10社の買付額が3.8兆円になったことを発表しました。 NISA制度(旧NISA)がスタートしたのは2014年1月からのこと。それから10

NISAの買付額、政府目標を2年前倒しで達成…新NISAは成功といえる!?

少し前のニュースになりますが、日本証券業協会が3月19日に、1~2月のNISA口座を通じた大手証券会社10社の買付額が3.8兆円になったことを発表しました。

NISA制度(旧NISA)がスタートしたのは2014年1月からのこと。それから10年が経過した2024年12月末の買付額は、全金融機関で52.7兆円だったので、これに大手証券会社10社の1~2月の買付額を加えると、政府が2022年11月に、2027年までの目標として掲げていた買付額56兆円を超えたことになります。金額的にはわずかですが、2027年までという政府目標に対して約2年、前倒しでの目標達成ということになります。

新NISAへの制度見直しは圧倒的な使い勝手の良さをもたらして、資金流入の原動力に

政府目標を前倒しで達成できた最大の理由は、やはり2024年1月から新NISAへの切り替えが行われ、年間の非課税投資額と全体の非課税枠が大きく拡大したからでしょう。それまでのNISAは、一般NISAの年間非課税枠120万円で、全体の非課税枠は600万円まで。一方、つみたてNISAの年間非課税枠は40万円、全体の非課税枠は800万円で、一般NISAつみたてNISAの併用は認められていませんでしたから、最大の非課税枠は600万円か800万円のいずれかを、自分で選択する必要がありました。

それが2024年1月からの制度見直しによって、一般NISAの流れをくむ「成長投資枠」は、年間非課税枠が240万円、つみたてNISAの流れをくむ「つみたて投資枠」の年間非課税枠が120万円で、成長投資枠のみの利用だと全体の非課税枠は1200万円まで。つみたて投資枠と合わせれば、成長投資枠1200万円とつみたて投資枠600万円を合わせて1800万円の非課税枠になりました。しかも旧NISAの時とは違い、現行NISAは成長投資枠とつみたて投資枠の併用が認められています。

このように非課税枠が大幅に見直されたことに加え、旧NISAはあくまでも時限的な制度でしたが、新しいNISAでは非課税期間の無期限化、制度の恒久化も図られました。こうした使い勝手の良さが、資金流入を促したと思われます。

NISAがスタートした2014年1月時点の口座数は、まだ一般NISAのみで492万4663口座でした。

加えてつみたてNISAジュニアNISAがそろった2018年12月末時点では合計の口座数が1284万9737口座、合計買付額が15兆8437億5493万円になり、NISAの制度見直しが行われる直前の2023年12月時点では、合計口座数が2248万6363口座、合計買付額が36兆5111億286万円になりました。ちなみに合計買付額は単月のものではなく、NISAの制度がスタートしてからの累計額になります。

合計口座数、合計買付額の両方とも、ここまで着実に増えてきた感はありますし、実際に年間ベースで口座数が減少することもなく、順調に伸びてきています。年間の増減率を見ると、以下のようになります。

<合計口座数>

2015年・・・・・・19.66%
2016年・・・・・・9.43%
2017年・・・・・・4.09%
2018年・・・・・・14.22%
2019年・・・・・・8.88%
2020年・・・・・・12.12%
2021年・・・・・・17.13%
2022年・・・・・・3.50%
2023年・・・・・・18.24%

<合計買付額>

2015年・・・・・・116.48%
2016年・・・・・・46.46%
2017年・・・・・・33.49%
2018年・・・・・・25.75%
2019年・・・・・・15.81%
2020年・・・・・・17.89%
2021年・・・・・・20.25%
2022年・・・・・・18.48%
2023年・・・・・・18.47%

ここまでが旧NISAの数字です。ちなみに、2015年までは一般NISAのみの数字、2016年から2017年は一般NISAジュニアNISAの数字、2018年以降は一般NISAジュニアNISAつみたてNISAの数字になります。

では、NISAの制度見直しが行われた後の数字はどうなったでしょうか。

これが、やはりというか、当然の結果なのかも知れませんが、大幅に増加しています。2024年12月時点での、成長投資枠+つみたて投資枠のNISA口座数は2560万4058口座で、前年比13.86%増、買付額は52兆7023億8844万円となり、前年比44.35%となりました。特に買付額の増加率は、NISAがスタートしたばかりの2016年の数字に肉薄しています。

これらの数字を見る限りにおいて、NISAの制度見直しは所与の目的を前倒しで達成できたという点で、一応の成功を収めたと考えて良さそうです。

口座数は、このままのペースでは政府の目標に届かない可能性も…

とはいえ、目標を前倒しで達成できたのは買付額です。

口座数に関しては、2027年までに3400万口座を目指していますが、前述したように2024年12月時点でのNISA口座数は2560万4058口座ですから、まだ目標値に対してはまだ約25%不足しています。

2027年1月までに目標を達成しようと思ったら、2025年1月を起点にすると残り時間は2年間しかありません。口座数にして839万5942口座を2年間で増やすとすると、年間で約420万口座を増やす必要があります。

ちなみにNISAの制度見直しが行われた後の1年間(2024年の1年間)で増えた口座数は311万7695口座ですから、この1年間よりもペースを上げないと、2027年1月までの目標達成は難しくなります。

しかも、4月に入ってからはトランプ関税の影響もあり、株価が暴落しました。これによって、特にこれまで投資の経験を持っていない人が、NISA口座の開設を機に投資へと足を踏み入れるハードルが、幾分か上がったようにも思えます。

そのため、2027年1月までの目標達成というよりは、2027年中を通じて、何とか3400万口座に持っていくということになりそうです。

NISAをプッシュして、資産形成の機運を高めても…そもそも向かない人もいる現実も。あなたは含み損に耐えられている?

とはいえ、政府目標はあくまでも政府目標であって、個人には全く関係のない話です。政府が2027年までに3400万口座を目標に掲げているからといって、個人が盲従する必要はどこにもありません。

正直、投資には向き、不向きがあります。たとえば今回のトランプ関税ショック(と勝手に名付けましたが)によって株価が急落したことで、2024年1月のNISA制度見直しから投資をスタートさせた人の中には、含み損を抱えた方もいらっしゃるかも知れません。それで夜も寝られないというような人は、恐らく投資には不向きです。その場合、投資をしないという選択肢を選ぶのも、考え方のひとつでしょう。

ただし、その場合、現預金だけではインフレに負ける恐れがあることだけは、頭に入れておく必要があります。今後、年2%ずつインフレが進むとしたら、それに合わせて預金の積立ペースを調整しなければなりません。

ちなみに、年1%の利率が預金から得られるとして、30年間で3000万円を積み立てるには、毎月約7万円の積立が必要であり、それは無理だと思う人もいるでしょう。

ただ、よく考えてもらいたいのは、皆さんが30年後までに築ける資産は、預金だけではないということです。

たとえば会社員や公務員であれば、65歳以降に受け取れる公的年金によって、月々の生活に必要なキャッシュフローはある程度確保できますし、勤務先に制度があるならば、定年時に退職金という、ある程度まとまった資金を受け取ることもできます。もっといえば、親から引き継ぐ遺産もあるかも知れません。それらを加味すれば、自助努力でつくる老後の生活に必要な資金は、3000万円も必要ないかも知れません。

トータルで将来、確保できる資金がいくらなのかを、ざっくりで良いので把握しておき、残りの資金を預貯金の積立でカバーできるなら、無理して投資をする必要はないのです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。