
『あんぱん』(NHK総合)第12話が4月15日に放送された。町内の祭りでパン食い競走が行われることになり、朝田パンは大量発注にわき立つ。足の速いのぶ(今田美桜)は、女性はパン食い競走に出られないと知って落胆する。
「おなごはつまらん」
嵩(北村匠海)の前でこぼすのぶ。亡父の結太郎(加瀬亮)に「おなごも遠慮せんと大志を抱きや」と言われたのに、女だからというだけで競技に出られない。理不尽に思うのも無理はない。それでも家のパン作りを手伝って、のぶは当日を迎えた。
パン食い競走には同級生の岩男(濱尾ノリタカ)や康太(櫻井健人)も参加。お目当ては賞品のラジオだ。嵩と弟の千尋(中沢元紀)も出場する。でもやっぱり女子は出られない。受付に来た少女の小夏(金井晶)を見て、のぶは子どもの部ならいいじゃないかと担任の伊達(樫尾篤紀)に食い下がるが、伊達は首を横に振る。
パンが足りないと知らされたのぶは、家に伝えに行って釜次(吉田鋼太郎)と豪(細田佳央太)の会話を聞く。釜次は豪にパン食い競走に出場してほしいと頼む。理由はラジオがほしいからで「ラジオがありゃあいろんな世界が分かるじゃろ」と釜次はつぶやく。その言葉がのぶの耳から離れない。そして、パン食い競走がスタートする。
筆者にはパン食い競走の経験はないが、ドラマを観て実際にやったら大変そうだと感じた。ひと口にパン食い競走と言っても、そこには障害物もあるし、最後はスピード勝負だ。パンは手で取ってはいけない。ひもで吊るされたパンを口でもぎ取るのだが、あんぱんが丸くてくわえにくい上、身長が低ければジャンプしないと届かない場合もある。
子どもの部が終わり、青年の部1組目に豪も出場。が、結果はビリ。それを拍手でたたえる蘭子(河合優実)の姿があった。最後の組が始まる前、「パン食ひ競走會場」のはじっこにいる嵩をのぶは見つける。何やら落ち着かない様子だ。棄権する嵩にのぶは「たっすいが(土佐弁で弱々しいの意味)はいけん」と叱るが、嵩はお腹が痛いと言って行ってしまった(はずだが、残って観ていた)。
■河合優実、中沢元紀ら主要キャラに恋の兆し?
最後の組には岩男と千尋も出場した。号砲が鳴って、真剣勝負に後方から割って入ったのはのぶ。下駄を脱ぎ、嵩のたすきをかけてさっそうと駆けていく。その顔は真剣そのもの。パン食いでぶつかられてバランスを崩しそうになったとき、背後から誰かが支えてくれた。最終コーナーを回ったのぶは、岩男を抜いてゴールインした。
前を向いて全速力で駆けるのぶに迷いの痕跡はない。これが私なんだと自信をみなぎらせて走っていく。走れなかった少女や釜次の思いを乗せて、のぶは走る。のぶを知る誰もが彼女を応援する。蘭子、メイコ(原菜乃華)、くら(浅田美代子)、貴島(市川知宏)、そして嵩も。第12話はヒロイン覚醒の瞬間を切り取っていた。走るのぶのイメージは今作を通じて反響し、形を変えて広がっていくのだろう。
前話で嵩の恋わずらいによるジェラシーが描かれたが、第12話では主要キャラに恋心の徴候が見られた。のぶを見つめる千尋の視線は、パン食い競争で倒れそうになったときに支えたのが千尋だった説を補強する(柔道部だし)。もう1人は蘭子だ。豪の姿を認めたときの目の表情や、「応援しないで」と言う豪に軽く微笑んで髪を直す仕草は、乙女心を表すもののように思える。
のぶに敗れた岩男、ゴール直前で余裕をこいて負け、一目ぼれした蘭子には「食パンの角に頭ぶつけて死んでしまえ」と罵られる。さんざんだった岩男に「ドラマをよく盛り上げたで賞」を差し上げたい。
(文=石河コウヘイ)