投資・資産運用したい

貯蓄から投資・運用へ。貯蓄の代名詞だった「ゆうちょ銀行」が、 堅実イチバンの資産運用を目指す「ファンズ」と組む理由

2025/04/20 10:15

(左)ファンズ株式会社 取締役 最高事業開発責任者 笹嶋 靖史(中央左)ファンズ株式会社 事業開発本部 副本部長 前田 千里(中央右)株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 マネジャー 杉田 雅実(右)株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 グルー

(左)ファンズ株式会社 取締役 最高事業開発責任者 笹嶋 靖史

(中央左)ファンズ株式会社 事業開発本部 副本部長 前田 千里

(中央右)株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 マネジャー 杉田 雅実

(右)株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 グループリーダー 鈴木 功太郎



まえがき


「ゆうちょ銀行」は、かつて「郵便貯金」の名で呼ばれ、貯蓄の代名詞でもあった。日本の高度成長期には、定額貯金の金利が7%以上もあったが、バブル崩壊後の低金利時代を迎え、金利は他の金融機関同様、僅かなものになっていった。そして、2024年、日銀のマイナス金利の解除と新NISA元年というモメンタムを期に、時代は、貯蓄から投資に変わろうとしている。その「ゆうちょ銀行」が、堅実イチバンの資産運用を目指す「ファンズ」と組んだ理由、そして、これからについて聞いた。


預かっている預金は192兆円。ゆうちょ銀行の現在地


インタビュアー:最初に歴史的なところのおさらいとなりますが、ゆうちょ銀行の前身となる郵便貯金は、いまから150年前の1875年(明治8年)に創立されたと伺っています。その歴史的経緯を教えてください。



株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 グループリーダー 鈴木 功太郎(以下、ゆうちょ銀行 鈴木):郵便貯金事業は、日本近代郵便の父として知られ、現在も1円切手の肖像となっている前島密の指導の下、明治8年(1875年)5月に創業しました。イギリス滞在中の前島密が、郵便貯金が国民の生活や国家の発展に大きな役割を果たしているのを見て日本でも取り入れようとしたのがはじまりと言われています(ちなみに、創業時は単に「貯金」と呼ばれていましたが、銀行業における貯金と区別するため、明治20年(1887年)に「郵便貯金」に改称されたそうです。)。


郵便貯金事業は、明治時代の創業から、時代の変化にあわせ事業の形を変え、今日に至っています。今年は、郵便貯金事業の創業から150年を迎える節目の年になります。これまで日本全国の多くの皆さまに支えられ、培ってきた安心・信頼というかけがえのない資産を、引き続き大切にしていきたいと思っています。



株式会社ゆうちょ銀行 営業部門 デジタル戦略部 共創プラットフォーム企画室 マネジャー 杉田 雅実(以下、ゆうちょ銀行 杉田):近年では、2007年の郵政民営化、そして、2015年に「日本郵政」「かんぽ生命保険」と共に「ゆうちょ銀行」として、株式を上場したことも大きなイベントだったと思います。その頃は、ちょうど私が入行したタイミングと重なるのですが、全国のお客さまに加え、より多くのステークホルダーを意識するようになっていったと思います。



インタビュアー:150年の時が経ち、ゆうちょ銀行が預かっている総貯金残高は、開示資料によると192兆円となっています。直近のネットワーク・口座数は、どのような規模になっていますか。



ゆうちょ銀行 鈴木:当行は、郵便局も含めた全国約2万4千の店舗と、約3万1千台のATM(現金自動預払機)を中心とした日本最大級の物理的なネットワークにより、強固な顧客基盤を形成しています。


通常貯金は、日本の人口に匹敵する約1億2,000万の口座があり、総貯金残高も190兆円を超えています。預金額のシェアにおいても、約2割を占めるなど邦銀トップクラスの規模です。


時代の要請でもあるDX化(デジタルトランスフォーメーション)とリアルチャネルの強みを上手く融合し、お客さまに最適な商品やサービスの紹介を行っていくことで、顧客基盤の更なる強化を図りたいと考えています。



インタビュアー:DX化というキーワードが出ましたが、最近のゆうちょ銀行は「ゆうちょ通帳アプリ(以下、「通帳アプリ」)」など、DXが進んでいる印象があります。DX化の現状とこれからについて教えてください。



ゆうちょ銀行 杉田:当行では「リアルとデジタルの相互補完」をキーワードに、顧客基盤の維持・深耕ともに、新たな収益機会の開拓を目指しています。


戦略の要の一つである「通帳アプリ」は「シンプルで使いやすい」をコンセプトに開発し、登録口座数は、24年9月末で1,200万を突破しました。今後も通帳アプリの機能アップデートに加え、UI(ユーザー・インターフェース)、UX(ユーザー・エクスペリエンス)といったものを更に改善し、ユーザー数拡大を図っていきたいと考えています。


また、DXを活用した、業務の自動化など、生産性向上の取り組みも積極的に推し進めています。DXは、単に当行内部の業務効率化や業務削減に留まるものではないと考えています。

お客さまの窓口での待ち時間、手続きにかかる時間の短縮など、ユーザーサイドの利便性の向上にも大きな役割を果たしています。いままで窓口での取り扱いであった様々な手続きを、アプリやATM、窓口に設置されたタブレットなどを活用し、お客さまご自身でスムーズに実施いただけるよう対応も進めています。


堅実、固定利回りの資産運用「Funds(ファンズ)」とは


インタビュアー:2024年の新NISA元年を機に貯蓄から投資への機運が更に高まっていますが、「Funds(ファンズ)」は、堅実、固定利回りという独特のポジショニングにあると思います。このビジネスモデルの着想に至った経緯を教えてください。



ファンズ株式会社 取締役 最高事業開発責任者 笹嶋 靖史(以下、ファンズ 笹嶋):ファンズ株式会社の代表取締役の藤田雄一郎が、共同創業者/取締役である柴田陽とともに、クラウドファンディング(多くの人・法人が資金を提供する仕組み)の一形態であるソーシャルレンディング(提供された資金を融資する仕組み)の従来のサービスにおける課題意識を基にサービスを立ち上げたのが起点となります。



インタビュアー:投資型の商品は、世の中の多くありますが「Funds」の違いについて教えてください。



ファンズ 笹嶋:「Funds」のビジネスは、仕組みとして、ものすごく新しいビジネスモデルというわけではありませんが、そのポジショニングに特徴があります。一般の家計の金融資産は1,000兆円の預貯金に偏っていて、預貯金以外だとハイリスク・ハイリターンの商品を選好しがちな傾向があります。「Funds」のポジションは、投資家の方から集めた資金を、上場企業を中心とした借り手企業に融資することで安定的な資産形成ができる金融商品を提供しています。



インタビュアー:金融事業ということで、ビジネスが軌道に乗るまでの苦労も多かったと思います。ここまでの道のりについて教えてください。



ファンズ 笹嶋:「Funds」の事業を行うには「第二種金融商品取引業」というライセンス(届出)が必要になりますので、まずはそこがハードルになりました。ファンズの前身となるクラウドポート社が創業したのは2016年11月ですが、いわゆるソーシャルレンディング業界において様々な問題が発生していたこともあり、実際に届出を行ってサービスが開始できたのは2019年1月でした。その間は、クラウドファンディングの比較サイトの運営などを行っていました。


また、「Funds」のビジネスモデルは、いわゆるツーサイドプラットフォーム(売り手と買い手をつなぐモデル)ですので、サービス開始までに借り手企業(融資を受ける企業)と投資家の両方を揃えておかないといけません。


サービスを開始した2019年頃は、投資家サイドは、上述の比較サイトを運営していたこともあり出だしは好調でしたが、借り手企業の営業が大変でした。


上場企業に銀行でもないフィンテックスタートアップが「お金を借りませんか?」と、言っても、誰も借りてくれません。地道な営業活動が続きました。



インタビュアー:ビジネスのモメンタム(流れ)が変わったきっかけはありましたか?



ファンズ 笹嶋:基本的に一歩一歩の積み重ねですが、2020年1月のテレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト(WBS)」で、「Funds」の取り組みが紹介されたときの反響は、とても大きなものでした。サイトへのアクセス増もあり、サーバーの増強も行ったのも覚えています。



ファンズ株式会社 事業開発本部 副本部長 前田 千里(以下、ファンズ 前田):革新的な取り組みとしては、2020年12月の株式会社メルカリが提供しているスマホ決済サービス「メルペイ」を使ってFundsのファンドを購入できるような仕組みの提供や、2023年8月の光文社が刊行している女性向けライフスタイル情報誌「VERY(ヴェリィ)」とのタイアップ企画の実施なども反響が大きいものでした。


個々の企画を考えて、ビジネスパートナーにアプローチして、仕掛けていく。点で考えていったことが最後はつながって線となり、流れを作っていくことが多いと思います。


※固定利回りとはファンドの利回りが募集時に定められていることを意味しており、利回りを確約するものではありません。


ゆうちょ銀行とスタートアップのファンズが組んだわけ


インタビュアー:ゆうちょ銀行とファンズは、2024年11月に広告コンテンツの配信の取り組みを開始しています。具体的にどのようなきっかけから始まった取り組みでしょうか。



ゆうちょ銀行 鈴木:当行との連携で新たなシナジーを生み出せる可能性がある出資先として、日本郵政グループ内の日本郵政キャピタルからファンズを紹介してもらったのがきっかけです。ゆうちょ銀行では、投資信託等も取り扱っていますが、貯蓄から投資に踏み出しづらい安定的な資産形成を望むお客さまも多いと認識しています。その中でファンズの提供するサービスの志向性、堅実、固定利回りという商品性は、投資に踏み出すきっかけとなる可能性があり、当行のお客さまとも相性が良いと思いました。



インタビュアー:日本郵政キャピタルの話が出ましたが、同社とは他に、どのような関わりがありますか。



ゆうちょ銀行 杉田:ブレインストーミングベースでの打ち合わせを含め、色々相談に乗ってもらっています。日本郵政のグループ各社とつながっている日本郵政キャピタルに相談することで、今回のファンズとの連携やシナジー創出だけでなく、その先の日本郵政グループ各社も交えた形での連携やシナジーを生み出せると面白いと思っています。



インタビュアー:実際に取り組みの開始に至ったポイントは何でしょうか?



ゆうちょ銀行 鈴木:2021年の銀行法改正により、銀行が広告事業に参入できるようになったということもありますが、実際に広告配信を行うことになったのは、両者の目指す方向性が一致しているからです。


誰もが気軽に投資を始められ、将来のお金の不安に備えることのできる社会の実現を目指しているファンズとの取り組みを通じて、多様化するお客さまのニーズに応えつつ、お客さまへ新しい価値提供を実現できるのではと考えております。



ファンズ 前田:鈴木さんのおっしゃる通り、ゆうちょ銀行様のお客さまの属性と「Funds」の親和性が高いと考えておりました。

「Funds」の利用ユーザーを見てみると、実際に年齢層は少し高めで資産防衛的な要素でお使いいただいているケースが多いように思います。ユーザーセグメントの一致は、目論見の一つでもある一方、若い世代が伸びしろとして多く存在していると認識しています。


ファンズのサービスをゆうちょ銀行のお客さまにご紹介いただくことで、より多くの方に「将来のお金の不安に備えることのできる社会」を実現し「自分らしく生きる」サポートを推進して参ります。

ゆうちょ銀行とファンズが、この先に目指すところ



インタビュアー:今回の取り組みを機に両社の取り組み、連携は加速していくと思いますが、この先に目指すところを教えてください。


ゆうちょ銀行 鈴木:当行では、「通帳アプリ」を起点として、様々なパートナー企業と連携し、お客さま、一人一人に寄り添った商品・サービスを提供する「共創プラットフォーム」の構築を目指しているので、一緒に取り組んでいきたいと思います。


また、マイナス金利解除により、銀行の収益構造が回帰しているので、ファンズとの連携を通じて、本業にインパクトを出していけるような取り組みができると面白いと考えています。



ファンズ 笹嶋:ビジネスパートナーとして、ゆうちょ銀行は国民的資産運用のベースになる歴史・規模を持っていると思っています。ゆうちょ銀行のお客さまの資産形成につなげるため、ユーザーがより手軽に運用を出来るようなシームレスなサービス連携を展開できると素晴らしいと思います。運用先の視点では、日本企業以外にも資金を提供し、多様な商品を提供するとともに、日本や海外企業の経済循環にも活力を与えることができたらいいなと考えています。



ファンズ 前田:国民的資産運用のベースになるという点では、今回の取り組みを機に「投資は怖い」のイメージを打破していきたいですね。その先には、2022年4月に学習指導要領の改訂により始まった金融教育との連携があると思っています。



インタビュアー:仕掛けたいことはありますか。



ファンズ 笹嶋:ゆうちょ銀行さんでしか掲載していない限定商品や目玉商品の開発にはチャレンジしていきたいですね。このサービス・商品があるから、ゆうちょ銀行で口座開設や口座のアクティベーションが行われるようなことが出来れば、両者ともに嬉しいと思います。また、ゆうちょ銀行だからこそできるものとして、地方創生に絡めたファイナンスの提供、地方の老舗旅館へのファイナンスなどが実現できると世界観が広がると思っています。



ファンズ 前田:「Funds」に対するアーリーアダプターの申込みは、一巡したという認識をしています。これから先のアーリーマジョリティを取り込む上で、顧客接点のフックを増やしたいと考えています。プロモーション増強に加え、顧客のライフステージに合わせた商品構成の充実などを図っていきたいです。喩えですが、「おばあちゃんが孫のランドセルを買うための投資」なんてことが実現できたら素敵だと思いませんか。



ゆうちょ銀行 杉田:今後も資産形成に対する需要の高まりや、テクノロジーの発展、規制緩和等により、お客さまのニーズは、さらに多様化していくと考えています。それらのニーズに応えるために、デジタル領域のみならず、リアルチャネルでのセミナー実施、当行のお客さまに向けた独自商品の開発や日本郵政グループ各社と連携など、可能性を拡げていきたいですね。



ゆうちょ銀行 鈴木:当行は、郵政グループの一員ということが最大のオリジナリティなので、日本郵政キャピタルを含めたグループ各社とグループ外のパートナー企業との連携により、新しい価値をお客さまに届けたいと思っております。それが、日本郵政グループ全体での「共創プラットフォーム」の実現に近づくのではと考えています。


あとがき

貯蓄から投資へと時代の変化が後押しされる中、堅実な資産運用を目指す「ファンズ」と、150年の歴史を持つ「ゆうちょ銀行」の組み合わせは、リスクとリターンが比例する投資の世界では、保守的な層を取り込む上でマリアージュ(非常に相性がいい組み合わせ)に見えた。そして、度々登場した「共創」「共創プラットフォーム」という言葉に、日本郵政グループ内における「JP ビジョン2025+(プラス)」の浸透を強く感じるインタビューであった。



文/株式会社ディスラプターズ 執行役員 曽根 康司




【会社概要】

名 称: 日本郵政キャピタル株式会社

設 立: 2017年(平成29年)11月1日

所在地: 東京都千代田区大手町2-3-1

代表者: 代表取締役社長 足立 崇彰

事業内容:1.投資業務

     2.経営及び財務に関するコンサルティング業務

     3.前各号に付帯又は関連する一切の業務お問い合わせ先





このコンテンツは、日本郵政キャピタル株式会社が取材・執筆・公開しています。

(2025年4月16日公開記事)