NISA・クレカ積立を始めたい

年金生活者からパパ活女子まで、お金がいくらあれば「幸せ」? 原田ひ香に聞く、多様な『月収』のリアル

2025/04/19 11:55

ドラマ化もされたベストセラー『三千円の使いかた』(中央公論新社)、『財布は踊る』(新潮文庫)に続き、3冊目のお金にまつわる小説を刊行した原田ひ香さん。タイトルは、ズバリ『月収』(中央公論新社)。  それぞれの月収に見合う生活を送る6人――「月収4万円の66歳」「月収8万円の31歳」「月10万円投資の29歳」「月収100

 ドラマ化もされたベストセラー『三千円の使いかた』(中央公論新社)、『財布は踊る』(新潮文庫)に続き、3冊目のお金にまつわる小説を刊行した原田ひ香さん。タイトルは、ズバリ『月収』(中央公論新社)。

 それぞれの月収に見合う生活を送る6人――「月収4万円の66歳」「月収8万円の31歳」「月10万円投資の29歳」「月収100万円の26歳」「月収300万円の52歳」「月収17万円の22歳」の6編からお金・家・生活・幸せのあり方が見えてくる物語だ。

 なぜ「月収」をテーマに? また、それぞれのリアルな設定・人物像の作られ方や、「お金の小説」を書き続ける理由などを原田ひ香さんに聞いた。

■年金は月10万円以下という方が半数

――『月収』は非常に良い切り口ですね。年齢や仕事、立場、環境、収入が違う6人の女性を描こうと思ったのは、どんなきっかけからだったのでしょう。

原田ひ香(以下 原田):最初は『婦人公論』さんの1年間の連載だったんですが、『三千円の使いかた』(中央公論新社)でお金の話も書いてきて、『三千円~』の読者の方達と重なる部分も多いと思うので、お金のことを何か書こうと思い、「月収はどうですか」と提案させてもらったんですね。「年収300万円の生き方」みたいな感じで、年収本はたくさんありますが、月収もAmazonなどで検索すると、「月収15万~」「月収20万でできる~」みたいな切り口で、ファイナンシャルプランナーさんが書いた本などがたくさん出てくるんです。それで、月収が大きなトピックとして良いんじゃないかと。月収は月に入ってくるお金なので、どうしても会社員の方が毎月もらうお金というイメージが強いですが、今回は年金なども含めています。

――6人の設定が絶妙ですね。最初に登場するのは月収4万円の年金暮らしの女性。不貞をしていた夫に離婚を切り出され、家を譲って自分は貯蓄と年金4万円だけで暮らすという世知辛い設定です。そもそも高齢者の年金暮らしを豊かだと思い込んでいる人もいますが、年金暮らしの大変さが身に沁みました。

原田:実際、年金は月10万円以下という方が半数です。なかにはご夫婦で20万円などもらっている方もいらっしゃいますが、月4万円という方はリアルにいらっしゃいます。それに、年金プラス月に4万円ぐらい稼げたら~みたいな本や、年金暮らしをしながら仕事をどう探すかといった本もたくさんあって。その一方で、年金20万あっても、家にずっといるのはつまらないという方もいらっしゃるので、年金生活になっても外に働きに行けると良いんじゃないかという思いで設定しました。

――収入の有無にかかわらず、中高年の単身女性は家が借りられないという問題もよく聞きます。300万円400万円で家が買えるなら、借りるより買ってしまうほうが良いというのも発見でした。

原田:実際、生活保護世帯に貸し出している不動産屋さんに家を見せてもらったところ、当時300万円台でもいろいろあったんです。埼玉や千葉なら比較的都会だし、お店などもちゃんとある場所でも意外とそのぐらいの金額で買えるんです。コロナ以降は金額もちょっと変わっているかもしれませんが。

――主人公は夫の希望で専業主婦をしてきたために、職歴もスキルもなく、社会に放り出されましたが、それでもお金を稼ぐ手段を得られることに希望を感じました。

原田:第1話を書く上で、作業所も設けている台東区のシルバーセンターでに取材させていただいたんです。その中で、お金が足りないという方はやっぱりシルバーセンターよりもハローワークに行くほうが良いということ、生きがいやお友達作りを求める方のほうがシルバー人材センターには向いているとお聞きしました。実際、高齢者が仕事を持つのは簡単ではなく、特に事務的な仕事はないんですね。外で働くというと、駅前の自転車置場などもありますが、あれも実は狭き門で、女性の場合、一番多いのは家事代行や家政婦さんだそうです。

――第2話は専業作家を目指して不動産投資を始める月収8万円31歳。不動産投資というと、お金持ちでないとできないイメージがありました。

原田:不動産屋さんの取材で生活保護の方のお話を聞かせてもらった時に、400万~500万円で買った家を月々4万~5万円で貸せるから、それを3軒ぐらい持ったらもう仕事しなくて良くなりますよと不動産屋さんに言われたんです。そんな世界があるんだと私もびっくりして。そのときから小説家などをやりながら家を買い、ちょっとした収入がある人の話を書こうと考えていたんですが、月収8万円だと年間100万円以下で健康保険や税金もなく、ほぼ働かなくていい非課税世帯になると気づいたんです。月収8万以下に抑える生き方などもYouTubeなどにありますし、1つのパターンとして良いかなと思いました。

――第3話は、月10万で投資する29歳。一生懸命仕事をしてそれなりにキャリアも積んでいるのに、親がその仕事を認めてくれないというのもよくあるケースだと思いました。

原田:第3話は新NISAの登場で、上限1800万円まで投資枠に入れられて、税金がかからない中、3000万ぐらいになると月々10万円を下ろしても減らないという話があって、ちょっと目線を変えて、こんなことも可能かもしれないよと提示しました。珍しく未来である2037年の話も出てきます。

――小説の中では2037年も新NISAによってうまくいっていますが……。

原田:今年に入ってからトランプ政権下で株価がこんなに上下すると思わなかったし、円安になっているし、本当に何があるかわからないなとは思ったんですけど、どういう人が新NISAに必死になってお金を入れるだろうと考え、ある種家族に恵まれない人という設定にしました。

■投資や節約ばかりでモノを買わなくなると、投資先もない

――後半では一気に月収が100万円まであがり、26歳パパ活女性が登場します。なぜパパ活を描こうと思ったのでしょう。

原田:どうせなら全然違うレベルの人がいても良いかなということで、月収100万にしました。

――パパ活の方の取材なども行ったのですか。

原田:パパ活についてはコロナ禍にNHKの『ノーナレ』という番組でパパ活の人たちの特集をやっていた中、今回小説に登場するアンケート調査みたいなものが紹介されていて。実際に大人の関係になるのがアリかなどの条件で振り分けられるらしく、そこでうつった文章を参考にアレンジしています。また、先日もXですごいなと思ったパパ活のアカウントを見つけたんですが、おもいきって最初の食事も割り勘でいいですとか1個入れると、たくさんのパパさんと会うことができますよというんですね。条件を下げて、「この子いい子だな」と思わせて実際に会ってみると、長い契約をしてくれる方もいらっしゃるそうです。

――なかなか生々しい話ですね……。そして、次が月収300万円の52歳です。

原田:彼女は連載当初、小説家にしていたんですね。でも、小説家が2人出てくるのはバランス的に良くないと思い、起業してタワマンに住んでいる女性にしました。コロナになる前やコロナ初期に値下がりした際、上手に物件を買った方などの中には、実際にこんな感じに投資で暮らしている方がいらっしゃいます。それと、年収5000万の人のnoteを見ていたら、税金などを払うと月収300万ちょっとで、「ちょっと使ったぐらいじゃお金は減らない」と書いていたんですよ。いくらのものを買ったとかも考えない、そんな生活もあるんじゃないかなと思いました。

――お金を持っている人のほうが空虚感を抱いていて、楽しくなさそうで、お金が好きでもなさそうなのも面白いですよね。

原田:この小説を書く少し前に『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)というベストセラー本を書かれた田内学さんと対談でお会いして。私はこれまで基本的に節約マインドで小説を書いてきましたが、田内さんは、皆さん一生懸命節約して、それをなんとか投資することにばかり目がいっているけど、特に若いうちにそればかりしていると、投資する先もなくなるとおっしゃるんです。商品やサービスを作って売るのが商売の基本で、だんだん成長していくところに投資をするわけですが、みんなが投資や節約ばかりでモノを買わなくなると、投資先もないですよと。本当にそうだなと思ったので、今回の小説も最初は節約話から始まり、途中からはちょっと違う方向に向かっていきます。

――「お金では買えないこと」が描かれますが、この本の示す内容はふんわりした理想論じゃなく、もっと切実な話ですね。

原田:お金では買えないことというと愛とか健康とか言いますが、そうではなくて。田内先生は、お金を持っていても、コロッケを作ってくれる人がいない、その原材料となるジャガイモを作ってくれる人がいないとなると、コロッケもどんどん値上がりしていくし、そのうちコロッケを1万円出しても買えない事態が起こるとおっしゃるんですね。そう考えると確かに、お金じゃ買えないものがあるというか、「お金では買えなくなる」んですね。

――円安とインバウンドによって、すでに日本人には手が届きにくくなってきているものもありますもんね。

原田:私自身、先日新幹線で名古屋駅から東京に戻ろうとしたところ、3連休の最終日だったせいか1個も席がなかったんですよ。グリーンでも良いかと思ったら、グリーンも満席で。でも、その日に帰らないといけないので、自由席で1時間半ぐらい立って帰ってきたんです。お金では買えない、お金があっても買えないというのはこういうことで、10年後20年後、こういうことが多くなっていくだろうとしみじみ考えました。

――お金にまつわる小説を書かれたのは三冊目でしたが、なぜお金について書き続けるのでしょうか。

原田:1つには、新しいトピックスが出てくること。今回の場合は新NISAの登場があり、節約だけではない話を書きたくなったというきっかけがありました。他には、XとかYouTubeとかに出ている人たちを見てメモしておくと、新しい切り口が出てくるんですよね。ただ、今回の小説には出ていませんが、東京のマンションの高騰も気になっています。お笑い芸人の方が言っていたんですけど、やっと売れたから億ションを買おうと思って物件を見せてもらったら、都心部だと今は1億出しても普通のマンションしかなかった、と。1億出したら、30畳ぐらいあるリビングや、ガラス張りで東京の夜景が一望できるみたいなマンションのイメージあるのに違った、と。1年2年お金のことを書かずにいると、そうした新しいトピックが溜まってくるので、まとめるみたいな感覚です。

――日常生活を見ても、コメ不足・コメの高騰が起こるなど、ここ数年でモノの値段も高くなるばかりで、先が読めない状況になっています。お金の小説を描くことでどんなことを大切にしていますか。

原田:本当に先が読めないですよね。実は『婦人之友』さんで家計簿について何か書いてほしいというご依頼をいただいて、私はお米5キロ3900円と書いていたんですけど、3カ月後くらいにゲラがきたとき、「すみません、今は4500円になっているので、変えてもらえませんか」と言われたんです。3カ月で3900円から4500円に変わったって、すごいことですよね。私は日頃、業務スーパーにばかり行きがちですが、そうすると業務スーパー基準になってしまい、感覚がズレてしまうから、普通のスーパーにも行くようにしています。また、特に今回の最後2章では節約ばかりじゃなく、もっと先のこと――もっと社会に貢献するようなお金の使い方もあるんじゃないかと起業や社会なども踏まえた物語になっています。

(田幸和歌子)