<前編のあらすじ>
大学を卒業し、機械メーカーに就職した諒一さん(仮名・22歳)。給与担当者からの研修で税金、各種保険料の天引きを知り、「手取りが少なくなりそうだな」と実感します。そんな中、学生時代に猶予を受けていた国民年金保険料のことを思い出した諒一さんは、父・雅史さん(仮名・60歳)に追納すべきか相談することにします。
雅史さんは自身の経験から、「払えるなら払っておいたほうがいいんじゃないか」と助言。諒一さんは、「年金制度は将来どうなるかなんて誰にもわからないけど、さすがに払っていた人を払ってない人よりは有利に扱うはずだ」と考え、追納を前向きに検討することにしました。
●前編:【新社会人と国民年金】学生時代に支払わなかった保険料は追納すべき? 22歳男性の悩みに60歳の父親が授けた助言
保険料を支払うと「税金が安くなる」という思わぬ発見
諒一さんの場合、合計で25カ月分・40万円以上の国民年金保険料になりますが、雅史さんの助言を受け、後日保険料の納付書を発行してもらって追納することを決めたのでした。
そういった話を思い出しつつ、新入社員研修を聞き続ける諒一さん。すると講義の最後に「学生時代の国民年金保険料を払う人、税金が安くなるから覚えておいてください。詳しくは11月頃に給与担当から案内がありますので」との説明がありました。
「税金が安くなる?」と、これを聞いた諒一さんは気になります。研修終了後、すぐにこの研修の担当者に国民年金保険料を追納する予定であることを伝え、先ほどの話の詳細を尋ねることにしました。
諒一さんはこの担当者から「あ~学生時代の国民年金の保険料を今年払うのね。払ったら、その領収証あるいは後で年金機構から送られる控除証明書は大事に取っておいて。それで今年11月くらいに社内で手続きがあって使うから忘れないで」と言われました。諒一さんは「払ったらその払った証明が受け取れるのはわかるけど、これを会社に渡してどうするのだろう、税金はどうして安くなるんだろう……」と思います。何も知らない諒一さんはさらに詳しいこと教えてもらうことにしました。
社会保険料控除で所得税が戻ってくる仕組み
社会人になって給与収入が得られるようになると、これに所得税が発生することになります。諒一さんはその所得税のことから詳しく説明してもらいました。
1年間の所得に対して課税される所得税は、全ての所得に対して課税されるのではなく、所得のうち「課税所得金額」とされる額に税率を掛けて算出されます。入社して以降給与から引かれる厚生年金保険料や健康保険料だけでなく、学生時代の国民年金保険料は、税制上は社会保険料控除の対象になり、所得から社会保険料控除を引くとその分課税所得金額が減ることになります。課税所得金額が減った結果、所得税の額も減ることにつながります。
続いて所得税の徴収についての解説がされます。「給与については研修でも言ったけど、所得税が天引きされる。源泉徴収といって、まぁ、概算でちょっと多めに天引きされることになる」と源泉徴収がされることが伝えられます。
続けて「けど、最終的には1年間の所得を確定して正確な所得税を計算しなきゃいけない。そのための事務が年末調整で、12月支給の給与で年末調整がされるけど、その案内はまた11月くらいにされることになる。その年末調整で、それまで多めに徴収されていた所得税が一部でも戻ってくることになるよ」と年末調整の説明がされました。
そして、「ここで、1年の間に国民年金保険料を払っていたのなら、その分の社会保険料控除は年末調整で初めて計算されるから、その分戻ってくる所得税も多くなる仕組み。だから所得税の計算のため、所得税の戻りを多くするため、払った保険料額の証明がほしいわけ」とのことでした。
もし、年末調整に間に合わないことになった場合でも、翌年2月16日~3月15日に自分で確定申告をすれば、控除を受け、所得税の還付がされることも補足されました。
住民税まで軽減できる!
諒一さんが給与や税金、社会保険料のことに興味を持ってくれたため、担当者はさらに説明します。「あと今から言っておくと、入社2年目の6月から住民税が給与から引かれるよ。まぁ、住民税の影響で手取りは減るよね。ただ、追納した国民年金保険料による社会保険料控除があれば、住民税についても軽減できることにはなっている。今年の課税所得金額がいくらになるかで来年6月から1年間の住民税の額が決まることになるから」とのことでした。
こうして、諒一さんは内容を理解し、早めに国民年金保険料を払って備えることになりました。また、年末調整のこともよく覚えておくことにしました。そして、このことをきっかけにさらに社会保険や税金のことに関心を持つようになり、社会人としてこれからの給与やお金の管理もしっかりやることに決めたのでした。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。