2025年に入り円高が広がり出した理由とは?
日米の金利差は、2022年以降大幅に拡大した。主な理由は2つで、1つは歴史的なインフレ局面に遭遇したことからその対策としてFRB(米連邦準備制度理事会)が大幅な利上げに動いたこと。そしてもう1つは日銀がデフレからの脱却を目指し、いわゆる異次元緩和を継続し、金利上昇を抑制したことだった。こうした中で、日米の長期金利、10年債利回り差(米ドル優位・円劣位)は、一時は4%以上に拡大し、その中で米ドル高・円安も大きく広がり、長期化するところとなった(図表1参照)。
ところが、日米金利差は2025年に入り大きく縮小し、一時は3%も大きく下回り、2022年8月以来の水準まで縮小した。3月にかけて150円を割れるまで米ドル安・円高となった動きは、基本的にはこの日米金利差の縮小で説明できるものだった。
では、なぜ金利差は大きく縮小したのか。1つには、日銀総裁が異次元緩和を主導した黒田氏から植田氏に交代し政策を転換、利上げを行う中で日本の金利が上昇したことが挙げられる。そしてもう1つは、米景気に減速の兆しが浮上し、米金利が一時大きく低下したことだろう。2025年第1四半期の米実質GDP伸び率(前期比年率)について、定評のあるアトランタ連銀の経済予測モデルのGDPナウは今のところ、2022年第2四半期以来のマイナスに転落すると予想している。
米景気減速で金利低下・株安なら米ドル安になる
こうした中で米国株も最近にかけて大きく下落した。NYダウは2023~2024年の2年間、1割を大きく上回る本格的な下落が起こらない上昇相場が続いていたが、2025年に入ってからはこれまでのところで最大下落率が2割近くに拡大した(図表2参照)。4月に入ってから、米金利が上昇に転じ、日米金利差が拡大に向かう中でも米ドル/円が一段安となったのは、むしろ米国株の下落リスク拡大で説明できる面が大きかっただろう。

以上のように見ると、2025年に入ってから米ドル安・円高が大きく広がり出したのは、すでに日銀が「異次元緩和」を転換していたことに加えて、米景気に2022年以来の減速の可能性が浮上し、米金利が低下、そして米国株安が大きく広がり出した結果なのではないか。
「構造的円安」論は正しかったのか
2024年7月に161円まで米ドル高・円安が広がると、円安の背景は金利や株価だけではなく、日本経済の衰退化、国威低下という構造変化「構造的円安」論も注目された。その日本経済の構造的変化の象徴と言えそうな貿易・サービス収支の赤字は、2022年第3四半期には過去最大を記録した。ただ、その後は赤字縮小傾向となった(図表3参照)。その意味では、そもそも2024年にかけての円安の長期化を説明するには無理があったのではないか。

そして2025年に入り、米景気に減速の兆しが浮上し、米金利が低下し、米国株が急落すると、米ドル/円も大きく米ドル安・円高に動き出した。以上のように見ると、2024年にかけての円安傾向の拡大や長期化も、日本経済の衰退化が急に反映されたということではなく、むしろ予想以上に強い米景気が続いた影響によるものだったのではないか。為替相場は短中長期の資本移動によって決まるというメカニズムは、基本的に変わっていないことを確認したのも、この2025年に入ってからの円高の意味になるのではないか。
吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長