「治療には最低でも半年かかります」放置して大変なことになった夫の虫歯の治療費はまさかの…

2025/04/25 21:00

<前編のあらすじ> 美希の夫・友樹は大の甘党である。コンビニスイーツの新作はかかさずチェックし、飲み物もオレンジジュースなど甘味の強いものを好んで飲んでいる。アイスももちろん大好きだ。 そんな友樹の様子がおかしい。 冷凍庫を見てみると、かかさず食べていたはずのアイスは封が空いていないまま4日も放置されているし、暖

<前編のあらすじ>

美希の夫・友樹は大の甘党である。コンビニスイーツの新作はかかさずチェックし、飲み物もオレンジジュースなど甘味の強いものを好んで飲んでいる。アイスももちろん大好きだ。

そんな友樹の様子がおかしい。

冷凍庫を見てみると、かかさず食べていたはずのアイスは封が空いていないまま4日も放置されているし、暖かいお茶を好んで飲むように。

原因は奥歯にできた大きな虫歯だった。そのうちモノがまともに食べられなくなると美希は友樹に歯医者通いを進めるのだが、友樹は一顧だにせず……。

前編:「暖かいお茶が良い」大の甘党夫が激変させた、奥歯にできた“クレーターのような穴”

金輪際食べられなくなるよ

「なあ、美希、俺のお菓子がないんだけど……」

ある日、美希がリビングでくつろいでると、友樹が戸惑いながら声をかけてきた。

「もちろん、処分したよ。クッキーも、チョコも、プリンも、コーラも、イチゴオレも全部。だって虫歯の人がお菓子なんて食べられないでしょ?」

「な、なんでそんなこと……」

オモチャを捨てられた子供のように落ち込む友樹だったが、すでに同情の余地はなかった。

美希はあれからも何度も歯医者に行くように言ってきた。しかし自然治癒するだの、牛乳を飲めば大丈夫だの、訳の分からない持論を並べるばかりで、友樹の態度は変わらなかった。そこで美希は、とうとう最終手段に打って出たのだ。

「楽しみを奪ってるのは自分自身でしょ! ここで歯医者に行かなかったら本当に甘いものなんて金輪際食べられなくなるよ! 現にジュースとアイスがダメになってるんだから! それでもいいの⁉」

「いやでもさ…」

「でもでも言ってても虫歯は治らない! 医者に行くか、お菓子を諦めるかのどっちか!」

美希に詰められて、友樹は肩を落とす。

「……お菓子もジュースも諦めたくないって」

「だったら歯医者に行って」

美希は近所の歯医者のホームページを開いたスマホを差し出した。友樹は観念したようにうなずいて、歯医者に予約の電話をかけた。

放置していたせいで……

美希は奥歯に虫歯を見つけただけだったが、実はかなり虫歯は進行していて、全ての虫歯を治すのに最低でも半年はかかると言われたと、帰ってきた友樹は報告をしてくれた。

「半年も……」

驚く美希をよそに、友樹は怖々とお茶をすする。

「メチャクチャ怒られたよ……。なんでこんなになるまで放っておいたんだって」

「そりゃそうよ。素人の私だって怒ってるんだから」
友樹はため息をつく。

「あとさ、前歯がかなり悪くなってたみたいで」

「前歯? へえ、全然気付かなかった」

「何かセラミックを使わないといけないみたいで、それって7万くらいかかるんだって」

「えっ⁉ そんなにするの…⁉」

「保険適用外だから、やっぱり高いみたい。でもさすがにそれは高すぎるからハイブリットセラミックってヤツを使うよ。そっちは最近保険が適用されるようになったみたいで、1本6,000円だから、俺は前歯6本で36,000円って感じ」

「それでもけっこうな値段だね……」

「一応銀歯っていう手もあるみたい。それなら6本で20,000円くらいって言われた」

美希は前歯が光り輝く友樹を想像し、首を横に振る。

「それはさすがに。いくら安くても前歯全部銀色はきついでしょ」

「でも他にも奥歯の治療とかもあるから、総額は結構な額にいきそうだしさ……こんなことならもっと早く行けばよかった」

「……それはもうしょうがないよ。しばらくはお菓子代も浮くし、治療費も問題ない範囲じゃない?」

「え……? お菓子、ダメなのか?」

友樹の顔が絶望に染まる。美希はやれやれとため息を吐いた。

「ダメに決まってるでしょ。こんな風になったのはお菓子とかジュースが原因なんだから。ちゃんと治療が終わるまでは禁止」

美希がそう言うと、友樹は唇をすぼませて頷く。

「そ、そうだよな。うん、そうするよ……」

思いのほかあっさりと認めた友樹に美希は驚いた。しかしそれが友樹としての反省の表れなんだなと受け取った。

「半年間の我慢なんだから、とりあえず治療を頑張ってよね」

「分かった。美希、歯医者に行くように言ってくれてありがとな。俺多分、お前が言ってくれなかったら一生放置して、取り返しのつかないことになってたと思う」
友樹が素直に感謝を伝えてきたので、美希は少し気恥ずかしくなって笑った。

「夫婦なんだから当然でしょ」

それでも甘いモノは

それから友樹はしっかりと歯医者に行くようになり、さらに今まで以上に念入りに歯の手入れをするようになった。もちろん甘いものも我慢しているため、広々と使えるようになった冷蔵庫は快適だ。

最初こそぶつぶつ恨み言をこぼしたりもしていたが、歯医者に行くようになって3ヶ月も経てば禁断症状も鳴りを潜めていた。

「おかえり」

「た、ただいま」

仕事から帰ってきた友樹をいつものように玄関で出迎える。明らかに視線が泳ぐ友樹の姿が、なんか引っ掛かる。

「なんでそんなキョドってるの」

「いや別に? いつもと変わらないけど?」

返事も食い気味だった。

「ねえ、友樹。鞄出して?」

「いや、これは仕事道具とか入ってるから…」

「書類とかは見ないから」

美希は笑顔の圧で友樹を屈服させて鞄をもらう。中を開くとそこにはやはりチョコレートの包装が入っていた。

「何やってるの? 甘いモノは禁止だって言ったよね?」

「いや、それってほら、GABAが豊富で快眠するために買ったヤツで……」

「何言ってるの? いっつもベッドに入ったら10秒と経たずに寝てるじゃない。 甘いモノは虫歯を治してからって約束したよね?」

友樹は涙目でこちらに手を合わせてくる。

「お願い、ちょっともう禁断症状が出てて……」

「ダメ」

「300円までならいいだろ?」

「遠足じゃないの! ダメに決まってるでしょ!」

友樹はがっくりと肩を落とす。そんな友樹を見て美希はため息をつく。虫歯と一緒にこの甘ったれた精神をたたき直さないといけないのかもしれない。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee マネーの人間ドラマ編集班

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。