「どういう意味だよ…」勉強一筋の大学生の息子にできた金髪の派手な彼女 母親がつぶやいた絶対に言ってはいけない一言

2025/04/27 11:00

最寄り駅にほど近いスーパーの自動ドアが開いた瞬間、正美は思わず立ち止まった。 仕事帰りの人たちで混み合っている夕暮れの駅前。パート先のホームセンターで立ち仕事をしていた疲れがどっと押し寄せ、早く家に帰ってひと息つきたいと考えていた矢先だった。目の前の歩道に、大学生の息子――大祐の姿が見えたのだ。 「……大祐?」

最寄り駅にほど近いスーパーの自動ドアが開いた瞬間、正美は思わず立ち止まった。

仕事帰りの人たちで混み合っている夕暮れの駅前。パート先のホームセンターで立ち仕事をしていた疲れがどっと押し寄せ、早く家に帰ってひと息つきたいと考えていた矢先だった。目の前の歩道に、大学生の息子――大祐の姿が見えたのだ。

「……大祐?」

目を凝らすまでもない。バイト代を貯めて買ったという黒い革ジャンを着て歩く、細身の青年は間違いなく息子だった。

しかし、正美の視線は、すぐに彼の隣へと引き寄せられた。大祐の隣には、腕に軽く触れるように寄り添い、楽しそうに笑い合う若い女性の姿があった。

まさか、とは思った。だが、その距離感と親しげな笑顔を見れば、誰だって察するだろう。ひとり息子に恋人がいるかもしれないという事実がすでに衝撃的だったが、なにより正美を驚かせたのは彼女の容姿だった。

金髪――いや、それだけではない。鮮やかな緑のインナーカラーがちらちらと覗く、派手な髪。耳にはこれでもかと並んだピアス。ピアスはおろか、ヘアカラーの経験すらない正美からすると、息が詰まるような光景だった。

「大祐……すごい偶然じゃない」

正美が反射的に声をかけると、大祐はぎくりと肩を跳ねさせ、慌ててこちらを振り返った。隣にいる彼女も、少し驚いたような顔をして、ぺこりと頭を下げた。今すぐ2人の関係を問い質したくなる衝動を必死で堪え、正美は彼女に会釈を返した。

「母さん……今帰り?」

「そう、パート終わって夕飯の買い物してきたところ」

買い物袋を軽く持ち上げながら、2人に交互に視線を向けると、大祐は観念したように彼女を紹介した。

「……怜奈だよ。こっちは、うちの母親」

「こんにちは、大祐がお世話になってます」

「は、はいっ、こんにちは! 小倉怜奈と言います!」

どうやってブランド物を買ったのか

彼女――怜奈は思ったよりも素直な口調だった。それでも、やはり派手な髪とピアスが気になって仕方がない。視線をそらすと、彼女の手元にはハイブランドのショップバッグが下げられている。大祐と同じ学生だとすれば、おいそれと買えるようなブランドではないことは、ファッションにそれほど詳しくない正美でも分かる。
金持ちの家の子? それとも水商売? まさか大祐に買わせたんじゃないだろうか?
正美は次々と浮かんでくる疑問を押し殺し、会話を続けた。

「そう……大祐ももう帰る?」

「あー、いや……怜奈を送ってから、な」

「……へえ、それじゃあ、2人とも気をつけて帰ってね」

それだけ告げると、正美は逃げるようにその場を離れた。心臓がばくばくと鳴っていた。

家に帰り着いたころには、手が冷え切っていた。キッチンカウンターに寄りかかりながら、ぼんやりと先ほどの光景を思い出す。

金髪に緑のインナーカラー。じゃらじゃら光るピアス。馴れ馴れしく大祐に寄り添う姿。

どうにも好意を持てない。

しばらく悶々としていると、大祐が帰ってきた。

「ただいま」

「……おかえり」

正美はなるべく平静を装おうとした。だが、胸の中に溜め込んだ言葉たちが、うずうずと出口を求めて暴れ出していた。

「ちょっと大祐、説明してくれる?」

「何を?」

「さっきの子のことよ。どういうお友達なの?」

帰宅するなりソファに寝転がってスマホをいじる大祐に声をかけると、彼は面倒くさそうに顔を上げて答えた。

「友達じゃないよ、彼女だよ」

騙されてるんじゃない

覚悟はしていたものの、改めて聞かされると胸がざわつく。

ずっと勉強一筋で、色恋には縁遠いと思っていた息子。大学に入ってからも、特に女の子と遊んでいるイメージはなかった。それなのに――。あんな派手な子が息子の恋人になった理由が、正美にはどうしても想像できなかった。

「そう……怜奈ちゃん、だっけ?」

「ああ、うん」

「怜奈ちゃんは学生さん? まさかもう働いてるわけじゃないわよね?」
いつのまにか尋問のような口調になっているのが自分でもわかった。大祐は大げさにため息をつき、身を起こすとスマホを置いた。

「同い年。専門学生だよ」

「へえ……それで、向こうのご両親は、お付き合いのこと知ってるの? 会ったことある?」

「ない。姉貴とは会ったことあるけど」

「ふうん、お姉さんがいるの……」

「うん、怜奈とは結構歳が離れててさ、百貨店で美容部員やってるんだって」

「すごいじゃない。きっと綺麗な人なのね。ちなみに、ご両親は何の仕事を?」

言った瞬間、空気がぴんと張り詰めた。大祐が少しだけ饒舌になったことに油断して、踏み込み過ぎてしまったようだ。

「何、その質問」

「別に、ただちょっと……気になっただけよ。あっ、それより今日は、どこに遊びに行ってたの? デートだったんでしょう?」

大祐が不機嫌になったのを察して、慌てて話を変えた。明らかに不自然な話題転換だったが、大祐は渋々といった感じで会話に応じた。

「別に……一緒に買い物して、飯食ってきただけだよ」

「……いいわね。でも、結構お金がかかるんじゃない?」

「うぅん、まあ、バイト代もあるし……」

「バイト代だけで足りるの? まさか大祐が奢ってるわけじゃないわよね?」

「母さん、しつこいって」

「やっぱり、あなたが負担してるのね」

自分でも干渉しすぎだとわかっている、それでも、心配が止められない。つい言葉を選ばずに続けてしまった。

「大祐、もしかして……騙されてるんじゃない?」

その瞬間、大祐の顔色が変わった。彼は勢いよく立ち上がり、正美をにらんだ。

「は? どういう意味だよ、それ」

「だってほら、最近、バイトも増やしてるじゃない? それって……全部、彼女のため?」

大祐は、こめかみを押さえて小さく息を吐いた。そして、静かに、しかし鋭く言った。

「母さん、俺のこと信用してないんだな」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「じゃあ何でそんな発想になるんだよ!? そもそも俺が誰と付き合おうが、母さんには関係ないだろ!」

正美の喉に、言葉が引っかかった。こんなはずじゃなかった。ただ、心配だっただけなのに。

「……だって、あの子、見た目がちょっと……」

「は? 見た目だけで判断するなよ!」

「でもほら、今まで周りにいなかったタイプでしょう? 大祐にはもっと自分に合った人がいると思うのよ。だから…… 」

「……もういいわ。話にならない」

大祐は冷たく言い放つと、自室へと消えていった。ドアが乱暴に閉められる音を聞きながら、正美はリビングに立ち尽くしていた。

●正美は不安をぬぐえないでいた。しかし、夫に相談するも気のない返事が返ってくるばかりか、干渉しすぎだとたしなめられてしまう。気持ちをわかってもらえない。そんなやるせない思いを抱えるなか、正美は散歩途中に怜奈に出会い……。後編:【「息子は騙されてる…」暴走して息子の恋愛に首を突っ込んだ母が心の底から「後悔したこと」】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee マネーの人間ドラマ編集班

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。