2年債利回りが示す日銀金融政策見通しの変化
日銀は1月の金融政策決定会合で追加利上げを決定し、前回3月の金融政策決定会合でもさらなる追加利上げの可能性を示したと受け止められ、予想以上の「タカ派」との評価が続いた。ところが、それは4月に入ってから大きく変わったようだ。
日銀の金融政策を織り込むのは、基本的には2年債利回りなどの短期金利だが、その2年債利回りは、4月に入ってからすぐに大きく低下に転じた(図表参照)。これこそまさに、日銀の積極的な追加利上げ姿勢が変わったと、金利市場が判断したことを示すものだろう。
2年債利回りが上昇から大きく転換したのは、トランプ米大統領の相互関税政策の発表と、それを受けた世界的な株価急落、「米国売り」急拡大のタイミングと基本的には重なるものだった。以上を踏まえると、「米国売り」となったことが、日銀の今後の追加利上げ見通しも大きく変えた可能性がありそうだ。
米国の事情に翻弄される日銀の金融政策
「米国売り」が起こる前までは、米トランプ政権からの円安是正要求の影響もあり、日銀は日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小をもたらす追加利上げの前倒しを検討しているとの見方が強かった。ただ、「米国売り」、米国からの資本流出への懸念が高まると、それを加速させかねない米ドル安・円高をもたらす可能性のある日銀の利上げは、それまでと異なり慎重姿勢が求められるように変わったのではないか。そうした意味では、日銀の金融政策は米トランプ政権の事情でかなり振り回されている可能性がありそうだ。
似たようなことは、日本の通貨当局である財務省の言動にも感じられる。4月下旬に行われた日米財務相会談について、加藤財務相は「米国から具体的な通貨目標を求められるようなことはなかった」と説明した。その上で、一部の大手新聞が「ベッセント財務長官は米ドル安・円高が望ましい」と述べたと報じると、財務省はそれを強く否定した。
この一連の動きも、日本の通貨当局が米ドル安・円高をもたらす可能性のある要因に対して急に神経質な反応となったようにも見える。そうした見方がもし正しいなら、それは4月に入ってから急拡大した「米国売り」、その再燃を回避することへの意識が高まった影響が大きいのではないか。つまり、日本は金融政策だけでなく、通貨政策もかなりトランプ政権の事情に振り回されている可能性があるということだ。
最優先課題の「米国売り」再燃回避=5月第2週の米国債入札に注目
「米国売り」の中でも、特に大きな衝撃になったのは米国債売りだった。その米国債は、5月第2週に四半期に一度の定例入札を予定している。ここで「米国売り」の再燃を回避することは、日米の金融当局にとっても最優先課題の位置付けになっているのではないか。当面の日米金融政策などのイベントも、「米国売り」再燃の回避を強く意識する必要がありそうだ。
吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長