衣替えは高齢の親の健康と命を守る重要なイベント
昨今は4月でも30℃を超える真夏日を記録する地域もあり、早くも熱中症への警戒を促すニュースを目にします。ゴールデンウィークの期間に冬物の衣類を片付けて、春夏の衣類に衣替えをした方もいるでしょう。
実は、衣替えは高齢の親の健康と命を守る重要なイベントです。季節に合った服を着ていれば、熱中症のリスクを減らせます。また、身体的に不自由なところが少なく、着替えがスムーズにできれば外出も億劫にならないでしょう。
今回は衣替えに関連して、高齢の親が着替えやすい服の特徴や認知症と服装の関係についてご紹介します。
高齢の親が同じ服ばかり着る理由
親が同じ服ばかり着ていて、不思議に思ったことはありませんか?高齢になると、視力の低下や手先の細かい動きが苦手になり、以下の動作が難しくなる場合があります。
・ボタンやボタン穴が小さく、うまく留められない
・ファスナーが小さいため、つまみにくく開閉が難しい
・袖口のボタンが留められない
・長すぎるズボンの裾に引っかかって転倒する
・腕を上げる動作(バンザイ)が困難になり、頭からかぶる服が着づらい
上記のような理由から、親は着脱しやすい服を好むようになり、同じ服ばかり着るようになったのかもしれません。衣替えのタイミングで、親が不自由なく着替えができているか確認してみましょう。
うまく着替えができない場合の解決策として、高齢者向けの服が販売されています。例えば、大きめのボタンが付いた服やボタン穴が斜めになっている服は、ボタンの着脱がスムーズになります。ファスナーのつまみが大きい服や、袖口のボタンが面ファスナーになっている服も着替えが簡単になります。
また、体重が増えたり、身長が縮んだりするなど親の体形の変化にも注目して、今の体形に合ったサイズの服にすると、着替えがよりスムーズになるでしょう。
私の母もこうした服の問題に直面したので、介護用の衣料専門店で大きなボタンがついた服やボタン穴が斜めになった服を購入したところ、着替えにかかる時間は大幅に短縮されました。同時に、着替えの介助をするヘルパーさんや私自身の負担も軽減されました。
服装の変化で気づく認知症のサイン
親が同じ服ばかり着る理由は加齢による身体の不自由さのほかに、認知症の初期の可能性もあります。認知症のサインが、下記のような服装の変化に現れることもあります。
・自分の服装への関心が低下した
・汚れた服を気にせずに着続ける
・季節に合わない服を着るようになった
・同じ服ばかり着るようになった
季節に合わない服を着ると、熱中症のリスクが高まり、危険です。衣替えを行う際は、季節に合った服をクローゼットの手前など見えやすい場所に置き、服選びで混乱しない環境を整えましょう。また、服装の変化に気づいたら、早めに専門医を受診することをお勧めします。
私は認知症の母のために、4月から冬服を少しずつ片づけ始めていて、春夏に着る薄手の服に衣替えをしています。しかし、母が住んでいる岩手の朝はまだ寒いので、気温調整のしやすいカーディガンなども出しつつ、冬物を一部残しています。
5月には母が混乱しないよう冬物はすべて片づけて、春夏の衣類に完全に衣替えをする予定です。私は月2回帰省しているので少しずつ衣替えができますが、なかなか帰省できない方もいると思います。実家へ帰省するタイミングに合わせて、計画的に衣替えを実施しましょう。
認知症などによって起こる「着衣失行」とは?
認知症がさらに進行すると、「着衣失行」と呼ばれる症状が現れることがあります。手足の運動機能に問題はないのに、正しく服を着られない状態のことで、以下のような服の着方をしてしまいます。
・シャツを裏表に着てしまう
・上着をズボンのように履いてしまう
・ズボンの前後が逆になったまま、履いてしまう
・ズボンの片足に両足を通してしまう
・シャツのボタンを掛け違えたままにする
・肌着を外側に着るなど、衣服を着る順番を間違える
このような場合、衣替えを工夫することで、自分で着替えられるようになります。
例えば、クローゼットの服の種類を減らして選びやすくしたり、ボタンやファスナーなど手間のかかる衣服を減らしたりする方法です。また、着慣れた服と同じ物をもう一着買ったり、デザインの似た服を買ったりすると、安定して服を着られるようになります。
認知症の母も上着とズボンを間違えて履こうとしたり、ボタンを掛け違えたりするようになってきたので、クローゼットの服の整理や高齢者用の服を買うなどして対策をしています。
衣替えは、親の体の状態や認知機能を確認するチャンスです。高齢の親でも着やすい服を購入したり、季節に合った服に衣替えをしたりすることは熱中症予防になるだけでなく、親の自尊心や自立を支えることにもなります。一度、親の衣替えに立ち会ってみましょう。
工藤 広伸 介護作家・ブロガー