トランプ大統領の名を冠したミームコイン「TRUMP」が再び注目を集めている。そのきっかけとなったのは、「TRUMP」の保有者上位220名を対象に、トランプ氏とのプライベートディナーが5月22日に開催されるとの発表だった。これを受け、「TRUMP」の価格は急騰。大統領自身もSNSで晩餐会の告知画像を投稿するなど、イベントを積極的にアピールしている。
この動きに対し、トランプ大統領が自らのミームコインを通じて私的な利益を得ているのではないかという批判の声が、民主党議員を中心に相次いでいる。発行時点からトランプ氏による「TRUMP」への関与が問題視されてきたが、今回の晩餐会はその疑念を一層強める格好となった。
こうした批判に対し、トランプ大統領は、自身が就任以前から暗号資産分野に取り組んでいたことを強調し、金銭的利益の受け取りは一切ないと明言。さらに、暗号資産を支持する姿勢は、多くの米国民のニーズに応えるものであると主張している。
たしかに、現職大統領が自身と関わりのあるミームコインを発行し、その保有者に特典を与えて優遇するのは極めて異例であり、倫理的な問題をはらんでいる。一方で、米証券取引委員会はミームコインを証券とみなさないという見解を示しており、規制が不明瞭な中で、トランプ氏の行動を違法と断定する難しさもある。
しかし今後、「TRUMP」やトランプ一族が主導するプロジェクト「ワールド・リバティ・フィナンシャル」において、露骨な私利私欲の追求が見られれば、利益相反の疑いは一層強まり、政治的責任を問われる展開となる可能性もある。
こうした問題が深刻化すれば、トランプ政権が掲げる暗号資産推進政策にブレーキがかかる恐れもある。もし仮に弾劾論にまで発展すれば、暗号資産市場にとどまらず、金融市場全体に大きな混乱を招くだろう。
「TRUMP」は多くの投資家にとって、単なるミームコインに過ぎず、大局に影響するものではないと見なされているかもしれない。だが、その背後に潜む政治的・制度的リスクは、トランプという人物がもたらす不確実性の一端として注視する必要があるだろう。
松嶋 真倫 マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト