【為替】米中緊張緩和で円高は変わるのか(前編)

2025/05/15 09:10

日米金利差はどう変わる?=米景気、第2四半期GDPはプラス回復 2025年に入ってから、158円から139円までの米ドル/円の下落はいくつかの局面で展開し、3月の146円までの下落は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小に沿ったものだった(図表1参照)。 【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月

日米金利差はどう変わる?=米景気、第2四半期GDPはプラス回復

2025年に入ってから、158円から139円までの米ドル/円の下落はいくつかの局面で展開し、3月の146円までの下落は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小に沿ったものだった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

この金利差縮小は、米金利が低下傾向となる中で、日本の金利が大きく上昇することで起こった(図表2参照)。米金利低下の背景には米景気減速への懸念があり、一方、日本の金利急上昇は日銀のタカ派姿勢への急傾斜があったのだろう。

【図表2】日米の10年債利回りの推移(2024年9月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米景気は第1四半期の米GDPがマイナス成長に転落し、景気減速を確認したものの、第2四半期については2%程度のプラス成長へ転じるとの見方もある。米景気が回復に転じた場合、米金利低下は限られるだろう。これは、米ドル安・円高要因が後退する可能性があるということだ。

一度は消えた日銀追加利上げ観測に復活の兆し

日銀のタカ派姿勢は、4月にトランプ大統領が相互関税を発表して以降の金融市場の混乱、「関税ショック」、「米国売り」拡大の中で一時大きく後退した。金融政策を織り込む2年債利回りは一時0.9%近くまで上昇し、現行0.5%の政策金利がさらに0.25%×2回の追加利上げを織り込む動きとなった。しかし、5月1日の日銀金融政策決定会合後は0.5%台まで低下し、追加利上げ織り込みはほぼ消えていた(図表3参照)。

【図表3】日本の10年債利回りの推移(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ただ、米中対立懸念が大きく後退し、世界的に株価も急反発に向かう中で、2年債利回りも0.7%以上に反発し、0.25%の追加利上げ1回を織り込む動きが急ピッチで広がっている。これは、日本の金利の面からは円高要因の後退も限られる可能性があるという意味になるだろう。

「米国売り」一段落で円高圧力に再注目か

3月にかけて日銀が「タカ派」姿勢に急傾斜したのは、トランプ政権からの円高圧力があった可能性も取り沙汰された。その可能性について、4月下旬に行われた日米財務相会談では、「米国から通貨目標を要請されるようなことはなかった」(加藤財務相)として否定されたが、これは当時「米国売り」への懸念が強かった影響もあったのではないか。

そうであれば、米中の緊張緩和で「米国売り」など金融市場の不安定な動きが一段落したことは、逆にトランプ政権からの円安など外国通貨安への不満や、円高などの外国通貨高要請再開につながる可能性も考えられる。これは、米ドル安・円高の流れを再確認するという意味になりそうだ。(後編に続く)

吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長