トランプ・ショックをどう乗り切るか? 答える人 元防衛大臣・森本敏 

2025/05/16 18:00

トランプ現象は 決して一過性のものではない  ─ 米トランプ政権の関税政策や国際協力・国際秩序からの撤退・移民政策などが世界を混乱させているわけですが、森本さんは現状をどのように見ていますか。 森本 米国は1776年の独立以来、250年以上にわたり、国内社会を建設し、工業や商業を起こし、莫大な富を蓄え、それを海外に投資
トランプ現象は 決して一過性のものではない

 ─ 米トランプ政権の関税政策や国際協力・国際秩序からの撤退・移民政策などが世界を混乱させているわけですが、森本さんは現状をどのように見ていますか。

 森本 米国は1776年の独立以来、250年以上にわたり、国内社会を建設し、工業や商業を起こし、莫大な富を蓄え、それを海外に投資し、途上国には経済協力や援助を行い、世界の発展を支えてきました。

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 また、米国は世界の秩序と平和を維持するために、多くの国際紛争に関わり、多大な犠牲も払ってきました。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク・アフガン戦争などをみれば明らかです。

 現在はウクライナ戦争が3年余を経たところですが、今なお、欧州を中心とした西側諸国は米国にさらなる支援を求めています。

 しかし、米国が建国以来、多くの犠牲を払いながら世界を豊かにして、国際社会に貢献し、国際秩序を維持するために働いてきたものの、諸外国は米国の多大な投資によって豊かになると、自国で生産した商品を米国に輸出して利益を得ようとする。そのために米国は雇用を失い、倒産も出る。米国に甘えるのはいい加減にしろ。米国の恩恵を受けてきたと思うならもっと関税を払えと。

 それだけでなく、米国は他国への援助や国際秩序を維持するための多国間協力の枠組み、例えば、気候変動に関するパリ協定、WTO(世界貿易機関)からも脱退を表明しました。これが米国の本音なのです。

 ─ もっとお前たちが努力をしろということですか。

 森本 米国に対しては、ウクライナへの支援をしろと言うが、他国はどれだけの努力をしたのか。特に、西側の国々はもっと自分たちで努力するべきだし、何かあると米国に頼り、甘えてくる。米国の恩恵にあずかって当然だという考えは止めろ。これが米国の言い分です。

 ─ 1970年代の日米繊維交渉や日米自動車摩擦など、全てがここにつながってくる話ですね。

 森本 その通りだと思います。どの国も米国から経済的な恩恵を受けてきたにも関わらず、自分たちがやるべき努力をしていないというのが米国の認識です。そういう意識を極めて明確に打ち出した。米国が変わったという人がいますが、そうではなくて、今まで言わなかったことをはっきりといって、それを政策に打ち出した点が違うのです。

 そして、これは今後も変わらないと思います。つまり、トランプ現象は一過性のものではないのです。国際社会の混乱は、この原則が理解できていないから生じている現象と考えてよいと思います。

 例えば、海外から米国に多くの不法移民がやって来る、麻薬を持ち込む、低所得者層の雇用を奪う。これが、どれだけ米国の国民を苦しめているのか分かっているのか。つまり、自分たちは努力をしないで、米国の豊かさを享受しているだけの関係はやめろというのが、トランプ大統領の言い分です。米国がカナダやメキシコに高関税をかけている背景がここにあります。

 ─ つまり、これは今後も続くということですね。

 森本 本来、米国人が貫こうとしている国益を理想や建前というものを超えて本音で表に出してきた。トランプ大統領はそれを実行しているだけのことであり、これは異様なことでも何でもない。即ち、トランプ現象は決して奇異でもなく、一過性のものではないということです。

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