引退発表のバフェット氏、個人投資家が彼から本当に学ぶべき投資の神髄とは?

2025/05/20 14:45

バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]、シティグループ[C]の株式を全て売却 著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が、5月15日、SEC(米証券取引委員会)に2025年3月末時点の上場株ポートフォリオを報告するフォーム13Fを開示した。今回、保有する上場株のポートフォ

バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]、シティグループ[C]の株式を全て売却

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が、5月15日、SEC(米証券取引委員会)に2025年3月末時点の上場株ポートフォリオを報告するフォーム13Fを開示した。今回、保有する上場株のポートフォリオに大きな変動はなかったが、保有するシティグループ[C]の株式を全て手放した。

また、バークシャーは、2013年の設立以降、世界最大級のデジタルバンクに成長したブラジルのヌー・ホールディングス[NU]の株式も清算した。バークシャーは2021年の株式公開前にヌー・ホールディングスに5億ドルを投資、以来、株価は46%上昇している。

バークシャーが提出した資料には特記事項として、「機密扱いとしている1つまたは複数の保有銘柄をこの公開フォーム13Fから除外している」ことが記されている。今回は公開されなかったが、今後、新たな取得が順次、明らかになっていくだろう。保有する株式数は33銘柄と、3ヶ月前に比べて差し引き2銘柄減少した。全体の投資残高は約2587億114万ドルで、2024年12月末に比べて約84億ドル減少した。

【図表1】バークシャー・ハサウェイの2025年3月末時点の保有銘柄と2024年12月末時点の保有銘柄
出所:フォーム13Fより筆者作成

バンク・オブ・アメリカ[BAC]の保有高を圧縮、保有銘柄3位にコカコーラ[KO]が浮上

保有上位10銘柄についても大きな変更は見られず、株数にして3億株を保有するアップル[AAPL]については持ち高に変化はなかった。保有するバンク・オブ・アメリカ[BAC]の持ち高については引き続き減少(約7%圧縮)しており、ポートフォリオの中では4位に後退した。ブルームバーグがまとめたデータによると、バフェット氏は現在バンク・オブ・アメリカ株の8.3%を保有し、筆頭株主ではなくなっているということだ。保有銘柄3位にはバフェット氏の不動の持ち株銘柄であるコカコーラ[KO]が浮上した。

【図表2】バークシャー・ハサウェイの2025年3月末時点(上)と12月末時点(下)の保有銘柄上位10社
出所:フォーム13Fより筆者作成

 

【図表3】バークシャーの株式売買動向
出所:フォーム13Fより筆者作成

バークシャーは2022年第4四半期以降、10四半期連続で株式を売り越している。2025年1-3月期の売越額は約15億ドルだった。大規模な買収をほとんど行っていないため、巨額の現金が積み上がっており、バークシャーが保有する3月末時点の現金残高は過去最高の3477億ドルを記録した。1ドル144円で円に換算すると50兆円に達する水準だ。

【図表4】バフェットの現金残高とNYダウの推移 
※青=現金ポジション(単位:百万ドル)右目盛り、赤=NYダウ(単位:ドル)左目盛
出所:各種データより筆者作成

日本でトップの時価総額約41兆円を誇るトヨタ自動車(7203)の市場評価額を上回る額だ。あるいは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の時価総額約23兆円、ファーストリテイリング(9983)の時価総額約15兆円、日本電信電話(NTT)(9432)時価総額約13兆円という日本を代表する企業3社を合わせた額に匹敵する。

バークシャーの現金ポジションの内訳、約88%が米短期債である理由

注目すべきはその積み上がった現金ポジションの内訳だ。約88%に相当する3055億ドルが米短期債、残りの約12% (421億ドル)は現金で保有されている。バフェットは以前、米国債の購入について唯一の問題は、「3ヶ月物の財務省短期証券で買うか6ヶ月物で買うかだ」と語っていた。将来起こりうる市場の混乱に備え、可能な限り短期国債で運用する方針なのだろう。

直近の米短期債の利回りは4%台の前半だ。バークシャーが保有している短期債が3ヶ月物なのか6ヶ月物なのか詳細は不明であるが、単純に4%の利回りと仮定すると、保有する短期債から年間、約122億ドルの金利収入が入ることになる。144円で換算すると1兆7568億円である。金利収入だけでも莫大なキャッシュフローがある。

【図表5】バークシャーが保有する現金残高の内訳
出所:フォーム13Fより筆者作成

現金は「戦略的な資産、困難な時期を乗り切り誰にも依存せずにいられる」

バフェット氏は、「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者のベンジャミン・グレアムからコロンビア大学で教えを受けた。このためバフェット氏は師に倣い、一般的には割安株を長期に保有する「バリュー投資家」であると考えられている。投資に関するバフェット氏の名言は数多く伝えられているが、2つのシンプルなゴールデンルールがある。それは「第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな!」である。

直近ではバークシャー・ハサウェイ株が過去最高値を更新した。1965年に繊維会社であったバークシャーの経営権をバフェット氏が取得してから60年が経過した。その間に株価は約6万7000倍に拡大した。政策の不透明感が高まる中、資産の安全な隠れ場所を探している投資家の中には、50兆円に達するバークシャーのバランスシートは魅力的に映っているようだ。

5月6日に開かれたバークシャーの年次株主総会において、株主から巨額の現金ポジションについて質問があがった。次期CEOとなるグレッグ・アベル氏は、現金を蓄え、それをバークシャーの文化に合った事業に賢く使うというバフェット氏の哲学を共有していると発言。多額の現金は「戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と語った。バフェット流投資哲学は脈々と次世代に受け継がれている。

バフェット氏はこれまで55年間バークシャー・ハサウェイのCEOであったが、2025年いっぱいで退任すると発表した。バフェットはコカコーラの缶を手に持ちながらこう語った。

「94年間、私は好きなものを飲み、好きなことをして、私に起こるはずだったあらゆる予測を覆してきました。チャーリー・マンガ―と私は、それほど運動をしていなかったのです。私たちは、自分自身を大切に守っていなかったのです」

銘柄選びよりも注目したいバフェット氏の投資哲学とは?

バフェット氏のすごいところは、保険会社で徴収したゼロコストの長期資金を投資に回す「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開していることだ。保険によるゼロコストの長期資金調達というビジネスモデルのおかげで、バークシャーのパフォーマンスが下がっても、バフェット氏の運用は破綻することがない。

個人投資家がバフェット氏の運用で学ぶべきなのは、「運用が決して破綻しないビジネスモデル」と「大暴落した時に株を買える現金の温存」であり、銘柄選択などあまり関係ないのである。

多くの投資家がバフェット氏の買っている銘柄の真似をするか、あるいは彼の買っている銘柄ばかりに注目している。しかし、そんなところにバフェット氏の運用の秘密はない。もちろん、バフェット氏の銘柄選択は一流である。彼の持っている銘柄は倒産リスクがなく相場急落時に下げにくい優良銘柄が多い。キャッシュフロー的にビクともしない銘柄ばかりが並んでいる。

バフェット氏は暴落する前に株を売り、暴落すると株を買うという逆張り投資家だ。これは、なかなかできることではない。人間の心理に素直に従って投資行動をすると、暴落する前に株を買い、暴落すると株を売らざるを得ないというバフェット氏と逆の行動になってしまう。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっている時に買い向かうことが出来る唯一の投資家がバフェット氏だった。

バフェット氏の投資の神髄がわかるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。相場はストップ・ロス、すなわち防御だ。お金がなくなる前に、それに気づかないといけない。

石原順の注目5銘柄

アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス [AXP]
出所:トレードステーション
コカコーラ[KO]
出所:トレードステーション
バンク・オブ・アメリカ[BAC]
出所:トレードステーション
シェブロン[CVX]
出所:トレードステーション

石原 順 ファンドマネージャー