NISA・クレカ積立を始めたい

「気になるけれど始めない」躊躇する潜在投資家-NISA“意向”者への理解を深める

2025/05/23 00:00

■要旨 2024年1月に「新NISA」が施行され、1年以上が経過した。 日本証券業協会が実施している「証券投資に関する全国調査」によれば、NISA利用者の割合は直近2024年度調査で14.4%(2021年度:7.5%)と大きく増加している。 まさしく新NISAの施行やその基盤となる資産形成ブームによる影響と考えられ、

■要旨

2024年1月に「新NISA」が施行され、1年以上が経過した。
日本証券業協会が実施している「証券投資に関する全国調査」によれば、NISA利用者の割合は直近2024年度調査で14.4%(2021年度:7.5%)と大きく増加している。
まさしく新NISAの施行やその基盤となる資産形成ブームによる影響と考えられ、「貯蓄から投資へ」の進展が窺える。

一方、NISA利用者の1.1倍にあたる16.0%が「聞いたことあり、興味がある(が未開設)」で留まっており、まだまだ利用者拡大の伸びしろがあるともいえる。
今後の政策としての資産形成の推進や、証券会社をはじめとする金融機関の新規顧客獲得に向けて、「聞いたことあり、興味がある」の層に対する理解を深めることは、引き続き重要な意味を持つ。

そこで本稿では、このいわば「躊躇する潜在投資家」の解像度を、データを用いて高めていきたい。

【分析視点】
・属性的な特徴
・金融リテラシーの影響
・資産運用に対する考え方
・浮動性(他の金融商品に対する態度)

■目次

1――はじめに~NISA利用者は大きく増加、伸びしろも
2――属性から見る「躊躇する潜在投資家」
3――NISAに興味はあるが非開設の理由~金融リテラシーが原因なのか
4――NISA意向者の資産運用に対する考え方
5――NISA意向者の浮動性~保険にするか投資にするか
6――まとめ2024年1月に拡充型の少額投資非課税制度(いわゆる「新NISA」)が施行され、1年以上が経過した。

日本証券業協会が実施している「証券投資に関する全国調査」によれば、NISA利用者(「口座を開設、投資あり」)の割合は直近2024年度調査で14.4%(2021年度:7.5%)と大きく増加している。NISA口座の未開設者をみても、「聞いたことあり、興味がある」が16.0%(2021年度:9.9%)と大きく増加、逆に「知らない」は21.8%(2021年度:42.0%)と大きく減少しており、認知・興味・利用ともに飛躍的な向上を達成したといえる。まさしく新NISAの施行やその基盤となる資産形成ブームによる影響と考えられ、「貯蓄から投資へ」の進展が窺える。

一方、見方を変えれば、NISA利用者の1.1倍が「聞いたことあり、興味がある」で留まっており、まだまだ利用者拡大の伸びしろがあるともいえる。今後の政策としての資産形成の推進や、証券会社をはじめとする金融機関の新規顧客獲得に向けて、「聞いたことあり、興味がある」の層に対する理解を深めることは、引き続き重要な意味を持つ。

そこで本稿では、このいわば「躊躇する潜在投資家」の解像度を、データを用いて高めていきたい。

2――属性から見る「躊躇する潜在投資家」

まず、先に示したNISAの利用状況について、「聞いたことあり、興味がある」の回答者(以下「NISA意向者」)に焦点を当てて属性別にみていく(図表2)。

男女別にみると、NISA意向者は女性(17.1%)で高い。「知らない」は同様に女性で高いものの、NISA利用者~「内容理解済、開設意向なし」はそれぞれ男性で高くなっており、NISA認知者の中でNISA意向者は特徴的に女性への偏りがみられる。

年代別にみると、NISA意向者は40代以下の層で特に高く、60代以上の層で低い。他の項目と比較しても、NISA意向者は若年現役層に偏る単調な傾向がみられる。

また、「知らない」が20代以下で、NISA利用者が40~60代でそれぞれ高いことを踏まえると、平均的に20代までに認知へ、40~50代で利用へとステージを移行する様子がわかる。つまり、一定のNISA意向者は加齢に伴いNISA利用者へ移行することが期待できるわけだが、資産形成の開始時期として20~40代という期間を逸している現状はあまり好ましくないように思える。

次に個人年収別にみると、300~700万円未満の層で高く、低収入層・高収入層では低くなっている。「聞いたことあり、興味はない」が100万円未満および200~300万円未満で高いことを踏まえると、年収300万円が興味の有無の境目となっていることがわかる。

3――NISAに興味はあるが非開設の理由

次に、同調査の「NISAに興味はあるが、口座開設していない理由」の回答結果(図表3)をみると、全体で「投資の方法がよくわからない」(75.0%)が過半を占めて最も高く、次いで「NISA口座の開設手続が面倒である」(25.0%)が2割を超えて高くなっている。

層別にみると、女性および年収100~200万円未満で「投資の方法がよくわからない」(79.5%、83.2%)が高く、「NISA口座の開設手続が面倒である」は層別の差はみられない。

ここから、NISA意向者が口座開設に至らない最も大きな原因が金融・投資に関する知識、いわゆる「金融リテラシーの低さ」である可能性が浮かび上がる。

そこで、ニッセイ基礎研究所が実施した調査における金融知識に関する設問の回答結果をNISAの利用状況別にみていく(図表4)。

まず金融知識に関するクイズ設問の正答数から分類した[金融リテラシー]をみると、NISA意向者(図表内「未開設・意向あり」層)では金融リテラシー「中」(43.2%)、「高」(43.8%)が高く「低」(13.0%)が低くなっており、NISA意向者が金融リテラシーの比較的高いグループであることがわかる。

一方、[金融知識に関する自己評価]の項目をみると、「金融商品の専門用語を理解できる」(9.3%)、「金融商品や金融機関について、人からよく聞かれることがある」(11.3%)、「金融商品については、他人より詳しい方だ」(9.3%)がそれぞれ低く、金融リテラシーの高さに反して自己評価は低く留まっている状況がみられる。

つまり、先の「NISAに興味はあるが、口座開設していない理由」で突出して高い割合を占めた「投資の方法がよくわからない」の示す意味は、金融リテラシーの低さではなく自己評価の低さであることがわかる。

さらに、[知識・情報に対する態度]の項目をみると、NISA意向者では「貯蓄や投資、保険などの金融商品の仕組みや利用方法について、もっとよく知りたいと思う」(74.2%)、「金融機関からの商品やサービスに関する情報提供が不足していると思う」(52.1%)、「将来的な人生設計や老後の備えを含め、資金計画について専門家に相談してみたい」(55.7%)が高いなど、受動的ではあるが知識や情報の吸収に対する一定の前向きさが窺える。

しかし、NISA意向者で「資産運用についていろいろ知識を身につけるのはおっくうだ」(49.7%)が高いことや、「新聞・雑誌の記事や広告などで貯蓄や投資の情報を積極的に得る方である」(22.3%)がNISA利用者(図表内「NISA口座開設者」)のようには高くないことを考慮すると、知識や情報の吸収についても「意向はあるが、積極的に実行しない」という「躊躇」の姿勢が表れているように見える。

すなわち、金融知識に関する自己評価の低さは、自身の考える十分な知識の吸収をしていないこと(あるいはそれを自覚していること)に起因すると考えられる。

次に、同じく弊所が実施した調査における[資産運用に関する考え方]の回答結果(図表1)をみると、NISA意向者で「資産運用について関心がある」(71.6%)や「よい商品・サービスがあればこれまで取引経験のない金融機関でも取引を考えたい」(50.1%)がNISA利用者と同程度に高く、NISAへの意向が資産運用への関心の高さに裏付けられていることが改めて確認できる。

一方、[リスク志向]をみると、「少しでも元本割れの可能性があれば、たとえ高収益が期待できるとしても預け入れ・投資を考えない方である」(49.2%)が高いことや「多少のリスクがあっても、収益性の高い貯蓄・投資商品を利用したい」(24.5%)がNISA利用者ほどは高くないことから、リスクに対しては保守的な姿勢が伺える。

また、[資産運用プロセス]の項目をみると「資産運用はじっくり人と相談しながら考えたい」(63.8%)や「ある程度以上の資産ができたら、資産の総合的な運用や管理は専門家に委託したい」(39.3%)が他の層に比べ特徴的に高くなっており、先の金融知識に関する自己評価の低さが慎重さや他者への依存という形で資産運用プロセスにも影響していることがわかる。

5――NISA意向者の浮動性

現在保有している金融商品(図表6)をNISAの利用状況別にみると、NISA利用者ですべての金融商品が高いところ、NISA意向者では「掛け捨て型保険」(56.6%)及び「貯蓄型保険」(33.0%)がNISA利用者と同程度に高くなっている。

また、金融商品の保有目的(図表7)をみると、NISA意向者では「老後の生活資金」(59.3%)、「こどもの教育資金」(31.1%)、「老後の医療・介護資金」(21.5%)がNISA利用者と同程度に高いが、「病気や不測の事態・災害への備え」(54.5%)は他の層を抑えて特徴的に高くなっている。

ここから、NISA意向者が保険商品に対しても高いニーズを持っており、既に保険商品に加入している割合が高い層であることがわかる。

そこで、生命保険に対するイメージ(図表8)をみると、「加入することで安心感が得られそう」(69.0%)、「経済的余裕があれば加入したい」(68.3%)、「いつかは加入するものだ」(50.3%)が他の層に比べて特徴的に高く、逆に「必要性は感じない」(18.4%)は低くなっている。

保険への加入状況がNISA口座開設者層と同程度であったことを踏まえると、保障に対する信頼感やニーズの高さ、また既に保険商品に加入している状況がNISAへの躊躇の1つの要因になっている可能性が窺える。

6――まとめ 

本稿で「躊躇する潜在投資家」と表現したNISA意向者ついては、ここまでの分析から以下のことがわかった。
  • 女性/若年現役層(20~40代)/中間収入層(300~700万円)に多く、NISA利用者やNISA未認知者等とは属性的特徴が異なる。
  • リスクへの許容度は低く、資産運用時の意思決定では慎重かつ他者依存的な姿勢を持つ。
  • 「投資の方法がよくわからない」を理由に躊躇しているが、金融リテラシーが低いわけではなく、自身の金融知識に対する自己評価が低い。その背景には、知識の吸収に対する前向きな意識と後ろ向きな行動の矛盾感があると考えられる。
  • 保険商品へのニーズと信頼感が高く、加入率も比較的高いことが、躊躇を助長している可能性がある。

NISAを取り扱う金融機関からすれば、この「躊躇する潜在投資家」は、資産運用への関心や情報ニーズの高さをみても、将来的な顧客化が十分に期待できる層といえる。

そして顧客化を実現するためには、分析から明らかになった決定力・行動力の乏しさや金融資産の保有傾向を踏まえ、適切なサポートと心理的なハードルに寄り添ったアプロ―チが重要と考えられる。具体的には、正しい顧客像の想定、そして「安心感」「わかりやすさ」「自分ごと化」を重視したコミュニケーション設計を行うことが効果的な施策となると考えられる。

「躊躇する潜在投資家」への理解を深め、そして戦略的な語り掛けを行うことが、金融機関の顧客との信頼関係の構築、ひいては個人による資産形成の推進につながると期待される。