<前編のあらすじ>
会社員の明憲さん(仮名、64歳)は、妻・雅美さん(仮名、65歳)と暮らしています。60歳での定年後、再雇用で勤務を続けてきた明憲さんは、65歳で迎える年金生活を心待ちにしていました。
ところが、会社から70歳までの継続勤務の案内を受けます。週4回の勤務で月給24万円という条件に、「まだ働くのかぁ。こんなに給料下がるんだったらもう辞めて年金生活した方がいいかと思うんだけどなぁ」と戸惑います。
これまで会社中心の生活を送ってきた明憲さんは、65歳以降も勤務している先輩たちの姿を見て複雑な心境に。年金受給と保険料負担の関係について疑問を感じた明憲さんは、初めて年金事務所を訪れ、相談することを決意します。
●前編:【「手取りも安いし働かない方が良い」65歳からの給料減で年金生活を決意するも…64歳男性を一変させた「予想外の出来事」】
65歳以降も保険料は“掛け捨て”にならない
明憲さんは65歳で年金を受給できるようになり、老齢基礎年金、老齢厚生年金の2階建てとなります。特にその繰下げ受給をするつもりもなく、65歳から受け取り始めるつもりです。65歳で年金を受け取るようになっても、引き続き会社から提示された勤務条件で勤務すると、厚生年金の保険料が発生します。70歳未満の人が厚生年金の加入対象となっているので、70歳まで会社に勤務すればあと5年間保険料の対象になります。
その65歳以降掛けた保険料は一定のタイミングで老齢厚生年金の受給額に反映されることになります。在職中毎年1回再計算され、掛けた分が増えることになります。これが在職定時改定で、具体的には毎年9月1日(基準日)時点で厚生年金の被保険者である場合、基準日の前月分(8月分)までの加入期間を基礎に基準日の翌月分(10月分)から年金額が改定されることになります。また、65歳以降で退職した場合も退職のタイミングで、それまでの加入期間を基礎に再計算されます。そして、最大70歳になるまで加入できることから、70歳まで勤務した場合は70歳になった時点でも再計算されます。
65歳から70歳まで継続して5年間勤務し続ければ、毎年1回再計算されて10月分から増え、70歳で最後の再計算がされて増えることになります。
これを聞いた明憲さんは「物価上昇も続いているし、ちょっとずつでも年金が増えていくのはいいかも。そんな制度になってるなんて知らなかった」と安心します。
5年間の継続勤務で年金が年7万円以上アップ
明憲さんが65歳以降、月給24万円で70歳まで5年間勤務して保険料を掛けると、70歳になった頃には、65歳時点と比べて年額7万円以上増える計算となります。つまり、老齢厚生年金は年額161万円以上となり、年額78万円の老齢基礎年金とあわせると239万円以上となる見込です。明憲さんは「年額7万円以上、月額だと6000円は増える計算か。70歳以降、少しでも年金が多い方が安心だな」と増える年金について確認します。
こうして、明憲さんは65歳以降も週4回勤務で引き続き会社にお世話になることを決めました。ずっと会社中心の生活で、退職したら自由な時間をどう過ごしたらいいのか分からなくなるのではないかと気付き、平日の残り1日や土日は完全にリタイアした後の生活に向けて新たな趣味・活動を見つけたり、始めたりすることにしたのでした。
年金を受けられる年齢になっても働くと、年金の受給者でもあり被保険者でもあることになりますが、引き続き掛けた保険料がいつ、どのタイミングで受給額に反映されるかを事前に確認しておきましょう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。