朝ドラは“結婚”と“再婚”をどう描いてきた? 時代とともにお見合い結婚から恋愛結婚へ変化

2025/05/25 05:30

『あんぱん』写真提供=NHK NHK連続テレビ小説『あんぱん』第8週では、主人公・朝田のぶ(今田美桜)の見合いと婚約までが描かれた。一方で、妹の蘭子(河合優実)の婚約者・原豪(細田佳央太)の戦死が知らされ、くっきりと明暗を分けた姉妹の姿に胸を痛めた視聴者も多かったことだろう。  そして、「ここでのぶが結婚してしまって
『あんぱん』写真提供=NHK

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』第8週では、主人公・朝田のぶ(今田美桜)の見合いと婚約までが描かれた。一方で、妹の蘭子(河合優実)の婚約者・原豪(細田佳央太)の戦死が知らされ、くっきりと明暗を分けた姉妹の姿に胸を痛めた視聴者も多かったことだろう。

 そして、「ここでのぶが結婚してしまって、崇(北村匠海)はどうなるのか」と思った方もいるかもしれない。実はモデルとなっているやなせたかし夫妻も初婚ではなく、小松暢は別の方と結婚していて、のちにやなせたかしと再婚している。

 ここで、最近の朝ドラでの主人公の「再婚」について振り返ってみたい。

 『虎に翼』(2024年度前期)では、主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉)は佐田優三(仲野太賀)と結婚し一女をもうけるが、第二次世界大戦下に優三は戦死してしまう。戦後、寅子はシングルマザーとして、残された家族の力を借りながら仕事に邁進する。この間、寅子に縁談がきた様子はなく、また本人も恋に落ちるようなことはなかったようだ。ピンチの時には優三の幻が出てきて励ましてくれることも度々で、亡き夫との絆は強い。

 そして、その気持ちを保ったまま、昭和31年、寅子が40歳を過ぎた頃に、同じ裁判官の星航一(岡田将生)と再婚することになる。この時、寅子は優三への思いもあって姓を変えることを望まず、航一もそれを尊重して、二人は事実婚という形を選ぶ。

 『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)の一人目のヒロイン・橘安子(上白石萌音)の結婚と再婚も記憶に新しい。この頃の結婚のほとんどが見合い結婚であったのにも関わらず、安子と雉真稔(松村北斗)は自由恋愛で結ばれている。雉真家は名家なので、この頃の結婚観としてはなかなかあり得ないカップルではあるが、そこにはやはり戦争が関わっている。稔の学徒出陣が決まったことで、望みを叶えてやろうと、大人たちが結婚を許してやるのだ。

 しかし、やはり当時の結婚は家と家のものという価値観が大きかったことから、安子は稔が戦死した後、結局は雉真家から出ていくことに。そして、その頃親しくなっていた進駐軍のロバート・ローズウッド(村雨辰剛)に「アメリカに連れて行って」と頼み、日本から去っていく。晩年、安子はロバートのことを「ひだまりのような人だった」と回想しており、前夫である稔や娘、日本への郷愁を抱きつづけた安子を、丸ごと包み込むような人柄だったことを思わせる。

 戦前戦後の女性の生き方がテーマになることが多い朝ドラでは、女性主人公が戦争によって伴侶を失うことは多い。そして、その夫たちは将来有望な優秀な人物であり、優しく包容力のある立派な男として描かれる。だからこそ、戦争の悲惨さを感じるし、戦後、女性たちが生きていく際の心の支えにもなっていく。

 そして、再婚相手もまた、戦争による心の傷を負っている。航一は戦時中、「総力戦研究所」に所属しており、日本の敗戦を予測する結果を導き出していたが、その提言は政府に受け入れられず、航一は戦争を止められなかった責任を感じ続けていた。寅子が航一を気に掛けるようになったきっかけも、「ごめんなさい」と航一が謝罪の言葉を口にしたことだった。

 この時代の再婚は、お互いが抱えている大きな傷を共有しつつ、新しい時代を生きるために前を向くためのものだったのかもしれない。そして、それはもう家と家のものでもなく、自由なお互いの気持ちを大切にするものだった。そして、時代も、お見合い結婚から自由恋愛結婚へと移っていく。

 『あんぱん』ののぶの結婚相手、若松次郎(中島歩)もかなり素敵な人として描かれている。夢がまだ見つからないと悩むのぶを、「のぶさんは足が速いから、いつからでも間に合う」と、生前の父・結太郎(加瀬亮)と同じ言葉で励ます姿には、「これ以上の伴侶はいないのでは?」とさえ思わされる。次郎のモデルの方は戦死ではないようだが、若くして命を落とす人物のようである。いずれにせよ、のぶにとって、少なくとも簡単に忘れられるような人ではないだろう。

 今のところ、全く出る幕がなさそうな崇だが、戦争から戻った時、伴侶を失ったのぶとどう向き合っていくのか。お互いに壮絶な経験をし、大切な人を亡くした後、そして新しい時代の波がやってきた時に、どんなふうに乗り越え、支え合っていこうとするのか。朝ドラ史上に残る再婚ストーリーとなることは間違いなさそうだ。

(文=尾崎真佐子)