毎月分配型投信は、元本を取り崩して分配金を支払う「タコ足」運用が問題視されることがあります。これにより複利効果が得られず、長期的な資本形成には不向きとされることが多いです。
一方で、退職世代など定期的な現金収入を求める投資家にとっては、生活費の補填として毎月分配型投信が有用でもあります。心理的な安心感を提供する役割もあるでしょう。
少し前の2010年代は投資信託(ETF除く)の過半が毎月分配型でした。その後現在まで、投資信託全体の純資産総額は増加傾向にありますが、毎月分配型投信の純資産総額は減少しています。これは、「タコ足」運用に対する批判の高まりや、金融庁による規制強化が影響しています。特に高齢者層においては、安定的な収入源としての需要がある一方で、元本取り崩しによるリスクも存在するため、商品の特性を十分に理解した上での投資判断が求められます。
こうした背景の中で、政府は2026年度の税制改正に向けて、65歳以上の高齢者を対象とした新たな非課税投資制度「プラチナNISA」の創設を検討しています。この制度では、現行の新NISAでは対象外となっている毎月分配型の投資信託を非課税対象とすることが特徴です。これは、高齢者の生活費補填ニーズに応えるためとされています。
ところでこの施策はNISAの本来の目的である長期的な資産形成からは乖離している印象を受けます。短期的なキャッシュフロー確保と長期的な資産形成は相反する側面があるでしょう。
NISAが参考とした英国のISA制度では、長期的な資産形成の促進が目的とされており、投資可能な商品には一定の制限がありますが、株式、投資信託、ETF、社債、国債など多様な選択肢が提供されています。毎月分配型のインカムファンドもISAを通じて活用されており、定期的な収入を求める投資家にとって有効な手段となっています。
このような制度の下では、投資家自身がリスクを理解し、適切な商品を選択する自己責任が重視されており、そこには金融リテラシーの向上が重要です。
投資信託は株式や債券、その他資産クラスを組み合わせた多様な選択肢があり、プロに運用を任せることで手数料が発生します。コストに見合った価値を判断することに加え、どの資産クラスを保有する意義があるのか、まずは人生設計の中で自分に合ったものを選択することが大切です。
塚本 憲弘 マネックス証券 インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー