退職代行は賛否の分かれるサービス
この春、新卒が1か月もせずに退職代行をつかう状況を多くのメディアに取り上げられました。退職代行というサービスが広く認知されつつある証拠です。その一方で、「うちは退職代行を使って辞めた人は、絶対採用しません」「なぜ退職代行という仕事が成立しているのかわからない」というお声もあります。
退職代行は賛否の分かれるサービスです。特に働き始めて間もない新卒の退職理由は、他人から見ると自分勝手に映る場合もあります。
いわゆるZ世代は、コスパを重視する世代といわれています。人手不足のなか売り手市場でもあり、よりよい職場に転職できる可能性は高いのですから、過酷な環境で我慢するより、自分の将来や健康を優先にするのは自然な判断でしょう。さらに退職代行を使えば、約2万円で退職に伴う心理的な負担まで軽減できます。
Z世代の考え方は、ほかの世代にも影響を与えています。退職代行の利用者が増えるにつれ、私たちがいちばん利用してほしい、ブラック企業から抜け出せない方からの依頼も届くようになりました。
10時間、休憩なし。時給は8時間分
伊藤杏奈さん(仮名・25歳)は、有名アパレルブランドに勤めていました。憧れのブランドで販売員の仕事でしたが、実際に働いてみると長時間労働、低賃金の職場でした。
「毎日10時間、休憩はほぼ取れません。トイレに行くことすら許可が必要なほどでした。忙しい店舗で接客し続け、足は腫れて、帰宅後は痛みで眠れません。なのに給料明細を見ると、時給はなぜか8時間分しかありません。6連勤も当たり前で、計算してみたら時給換算で最低賃金を下回っていました」
伊藤さんの会社は、全国に約100店舗を展開する大手アパレル会社です。百貨店、駅ビルに入っている会社だからといって、きちんと法令を守るとは限りません。労働基準法では、休憩時間が定められています。それを無視し、毎日10時間も立ち仕事を続けていれば、大きな健康リスクにもさらされてしまいます。
伊藤さんが退職を決意したのは、休日に街で自社ブランドの服を着た人を見かけ、吐き気を覚えたことがきっかけでした。
「あんなに大好きだったのに、もう見たくもありません。お客様に勧めるのにも罪悪感を覚えてしまいます」
それでも、伊藤さんは退職を会社に申し出る勇気がありませんでした。
「辞めたいと言った先輩が、人手不足を理由に怒鳴られているのを見ていたからです。私も同じ目に遭うと思ったら、とても言い出せませんでした」
伊藤さんが依頼をして数日後、無事に退職は確定しました。しかし、この件で弊社は予想外の騒動に巻き込まれることになります。
●後編【「どうして退職代行なんかしてるんだ?」大手アパレル社長から40回超の嫌がらせ…モームリが巻き込まれた警察沙汰のトラブル】にて、ブラック企業では自ら辞めたいと言えないのが当然な理由をお話しします。
谷本 慎二/アルバトロス代表取締役、退職代行モームリ代表
1989年、岡山県生まれ。2007年に神戸学院大学へ入学。2012年に東証一部上場の大手接客・サービス業に入社し、入社5年でエリアマネージャー昇格。2022年2月1日に株式会社アルバトロスを設立し、退職代行事業「退職代行モームリ」を開始。退職代行の利用者は2万2000人を超える。 メディア取材(TV、雑誌、新聞、海外メディア含む)は400社以上を受け、離職率低下のための講演会依頼も多数。また、著書として『退職代行業者が今すぐ伝えたい!Z世代が辞めたい会社』を出版。