2023年3月時点で52.2万だった開設口座数が、1年後の2024年3月には107.7万口座へと倍増し、さらに2025年3月末には137.1万口座まで拡大を続けるPayPay証券。
ユーザーの拡大が続く中、今年4月、PayPayはPayPay銀行の株式75%を取得し、またPayPay証券の株式75%も取得したことにより、すでに完全子会社化しているPayPayカードに加え、その傘下に銀行と証券会社を持つことになった。これによりPayPayへの金融ビジネスの集約がさらに進んだ。
それはどのような影響をPayPay証券にもたらすだろうか。「資本関係がシンプルになったことで、PayPayの金融事業の成長加速が期待されます」と語るのは、4月からPayPay証券の代表取締役社長 執行役員CEOに就任した栗尾圭一郎氏だ(以下、鍵カッコ内の発言はすべて栗尾氏)。栗尾氏は2008年にソフトバンク入社以来、おもにフィンテック領域の新規事業開発に従事。PayPayの立ち上げと、それを起点にした金融サービスの拡大に携わってきた。

そもそもPayPayのような電子決済とクレジットカード、それに銀行や証券などの金融ビジネスは親和性が強い。PayPayの傘下にこの3社が集約されたのは、いわば必然だ。
「特に、今回PayPay銀行とPayPay証券が一体になったことで、いかにしてPayPay経済圏の中に運用資産を集めるか……そうした発想で、銀行と証券が互いに議論できるのが大きいと思います。相互送客の議論も活発に行っていて、例えばPayPay銀行を利用している預金ユーザーのうち、投資未経験の方を対象とした、資産運用のモチベーションの掘り起こしなども検討しています」。
経済圏競争のネット証券界でどう強みを発揮するか
ネット証券の多くがそれぞれの属す“経済圏”の中で強みを打ち出し、口座獲得にしのぎを削っている。「PayPayユーザーが約6900万人(2025年5月時点)にのぼるのに対し、PayPay証券の口座数は約137万口座(2025年3月末時点)ですから、まだまだポテンシャルはあります。『PayPayにお金をチャージして決済』、というところから、『資産形成もしてみようか』の領域に踏み出したというのが、今のユーザーのステータスだと思います。こうした方々に、より資産運用に関心を持っていただくには、“失敗させない投資体験”を提供する必要があります。海外の事例を見ても、お金が増える成功体験をきちんと積んでもらうことが勝ち筋だと見ています」。
決済→投資へとステップを踏み、そうした“投資体験”を提供するためのユニークな仕掛けがPayPay証券には3つある。
1つ目が、PayPayポイントを用いた「ポイント運用」だ。日常生活でPayPayを利用した際に付与されるPayPayポイントで投資の疑似体験ができる。実績に応じて増減はあるが、貯まったポイントは1ポイント=1円で引き出し、買い物にも使える。
今年4月には株価が暴落するという、投資初心者にとっては大きな試練があったものの、「『ポイントを原資にした疑似体験だから、心理的なダメージはそれほど大きくなかった』という声も少なくなかった」という。買い物などでPayPayを使った際のポイントなので、たとえ損が生じたとしても、直接、財布の中身に響くようなことにはならない。
そして2つ目が、証券口座を開設したうえでの「PayPayおまかせ運用」で、収益性重視と安定性重視のいずれかを選ぶと、その運用ニーズに合った投資信託で積立投資ができるサービスだ。
さらに3つ目が、ラインアップのなかから自分で投信を選ぶ、ごく一般的な投信購入だ。
ただし、ポイントによる疑似体験から証券口座でのリアルな投信積立の間には隔たりがあるという。「PayPayにおけるポイント運用の利用者は2000万人(2025年5月時点)と着実に増えています。ポイント運用の成功体験を、次は証券口座で実現していただきたいのですが、現状において、なかなかそのシフトが進まない状況です。ここは私たちにとっての課題です」。
打開策はあるのだろうか。「まず資産運用に対するモチベーションを高めることです。そのため、PayPayカードやPayPay銀行、そしてPayPayの利用データを集めていて、そこからお客様のリスク許容度、資産運用ニーズなどに応じた商品提案が行えるようにしている最中です」。
それに加えて、オリジナル商品の提供にも注力していく方針だという。すでにPayPay証券は、三菱UFJアセットマネジメントと共同で、「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」というオリジナル商品を組成し、PayPay証券の専売商品として提供している。
「投資信託の取扱本数を増やすこと自体は簡単ですが、やみくもにラインアップを増やしていくと、他の証券会社と変わらなくなってしまいます。私たちがこだわりたいのは、オリジナル商品の提供です。PayPay証券でなければ買えない商品を増やすことによって、私たちを選んでいただくための優位性を高めていきます」。実際、投信の取り扱いは134本、日本株も276銘柄とぐっとラインアップを絞っている(いずれも2024年12月末時点)。
黒字化に向けて、「選択と集中」を遂行
最後に、経営の目線でみると、PayPay証券単体ではなお赤字が続く。 それに対してはどうか。「『選択と集中』の施策で取り組んできたことが、徐々に成果を出し始めています。例えば、PayPayを利用することでPayPay証券を認知してもらえることが分かり、従来コストをかけてきたキャンペーンなどのマーケティング費用を絞り込んでいます。このようにコストを下げ、同時に経営計画通りに売上が伸びていけば、数年後の黒字化も十分に可能です」。
インターネット証券会社の勢力図は、SBI証券、楽天証券のツートップに次ぐ “第三極”をめぐる各社のバトルが経済圏競争もともなって熾烈になっている。
マネックス証券、三菱UFJeスマート証券(旧auカブコム証券)、松井証券といったプレーヤーがひしめくなか、PayPay証券が提供する商品・サービスなどの施策は、投資未経験者にどう刺さるのか。新NISA特需が一段落しているなか、今後の動向が注目される。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。