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「どうして退職代行なんかしてるんだ?」大手アパレル社長から40回超の嫌がらせ…モームリが巻き込まれた警察沙汰のトラブル

2025/05/26 18:30

<前編のまとめ> 有名アパレルブランドで働く伊藤杏奈さん(仮名・25歳)は、10時間立ちっぱなし、休憩なし、最低賃金以下という過酷な環境で働き続けていました。 心身をすり減らし、自社ブランドを目にするだけで吐き気を感じるほど追い詰められる日々。そんな彼女が最後に頼ったのが退職代行サービスでした。 ところが、退職手

<前編のまとめ>

有名アパレルブランドで働く伊藤杏奈さん(仮名・25歳)は、10時間立ちっぱなし、休憩なし、最低賃金以下という過酷な環境で働き続けていました。

心身をすり減らし、自社ブランドを目にするだけで吐き気を感じるほど追い詰められる日々。そんな彼女が最後に頼ったのが退職代行サービスでした。

ところが、退職手続きが無事に済んだ直後、弊社に執拗な攻撃が始まります。

●前編:【ブラック企業の退職代行】「自社ブランドを見るだけで吐き気」有名アパレル店の販売員女性を追い込む過酷な職場

40回超の嫌がらせ

「退職は認めない。オマエは正社員か? アルバイトのくせに電話をかけてくるな!」

伊藤さんの退職が決まってから、弊社に嫌がらせの電話がかかってくるようになりました。相談員に「オマエは何歳だ? 年下だろう」「いくら稼いでんるだ」「どうして退職代行なんて仕事をやろうとしたのか、一度、会ってじっくり聞きたいな」など、執拗に言いがかりをつけてきます。

退職代行を使われたことに腹を立てた人事部からの電話と思われるでしょうが、この電話の主は社長です。日本全国に店舗がある大手アパレル会社社長が直々に電話をかけてきているのです。

実は、この社長は1年前にも同様の行為をしています。そのときは、昼夜を問わず40回超も電話をかけてきました。社員が退職代行を使うまでに追い込まれていた状況を、社長自ら反省しているのかとも思いましたが、まったく違います。退職者の名前さえ知りません。ただ、退職代行を使われたのが気に喰わなかっただけです。警察にも相談しましたが、警察相手にも「民事不介入だろう」と怒鳴っていたようです。

退職代行を使われるのが嫌なら、法令を遵守し、従業員を大切にすればいいだけです。それをしないから、何度も従業員が退職代行に依頼するわけです。

これは極端な例かもしれませんが、退職代行から電話すると激昂されたり、舌打ちされたりすることはたまにあります。「退職ぐらい自分で言えよ」という心境なのでしょうが、外部の人間である私たちにさえ、このように接するのですから、もし本人が「辞めたい」と言えば、さらにキツイ言葉を投げつけられたのではないでしょうか。そんな職場だから、自ら辞めたいと言えないのです。一見すれば「退職代行を使われた!」と怒ってそうでも、実態は辞めたことへの怒りであり、退職代行への言葉は、そのまま依頼者が受けたであろう言葉です。

退職代行のサービスには、依頼者の心理的な負荷を相談員が代わりに受け止めることも含まれていると考えています。

「やっぱり独身の若い子はいいね」

ハラスメントが横行する会社は、もし退職代行がなかったら、辞められなかったであろうケースが多々あります。

医療事務の女性は、院長から日常的にセクハラやモラハラを受けていました。背後から近づいてきては、「やっぱり独身の若い子はいいね」と彼女のからだを撫でてきます。研修に訪れていた学生にも院長はセクハラをしたそうです。学生を守れなかった佐藤さんは罪悪感に苛まれます。

さらに院長は、有休申請した職員に「やましいことがないなら、理由を言えるよね」と問い詰めたり、同僚が退職したときは「辞め方が気に喰わないから、退職金は出さない」と税理士に伝えていたようです。

ほかにも事例があります。

建築事務所に勤めている男性は、応募者の履歴書やポートフォリオを会社の全員が閲覧していたといいます。「この年齢で転職はない、頭が悪そう」「こんなデザインしかできないヤツはきっとデブだ」と嘲笑しあう環境に嫌気が差していました。このような環境ですから、辞めたいと言い出す人への風当たりは強く、退職者の机上に盛り塩する習慣まであったそうです。

警備会社勤務の40代男性は、ミスするたびにペナルティと称し、お金を取られていました。お金を払わないと妻に連絡されたり、弁護士を使って追い込まれたりするそうです。

「退職したい」と言ったら、どんな反応が返ってくるかは容易に想像できるのではないでしょうか。

退職代行の存在意義

退職代行を使うぐらいなら、ほかに相談すればいいという意見もよく聞きます。しかし、どこに相談すればいいのでしょうか?

まず行政の窓口が考えられます。丁寧にヒアリングしてくれるでしょうが、すぐに職場環境が改善されるのは難しいのではないでしょうか。

もし多額の損害が発生している場合や、どうしても許せないときは、弁護士に相談するのが適切です。ただし、会社を訴えるには、ハラスメントなどの証拠を集める必要があり、非常に手間と時間がかかります。そこまでしても、理不尽ではありますが、会社側が優秀な弁護士を雇えば、裁判に負けてしまうリスクはあります。

多くの人は、1日でも早く会社を辞めたいだけではないでしょうか。

ブラック企業に就職してしまうと、肉体的にも精神的にも追い込まれていきます。退職にはエネルギーがいります。一日も早く辞めたいと願いながら、自力で退職を申し出るエネルギーも残っていない。そんな過酷な状況の人たちにとって、退職代行は一種の救済措置となっているのです。

谷本 慎二/アルバトロス代表取締役、退職代行モームリ代表

1989年、岡山県生まれ。2007年に神戸学院大学へ入学。2012年に東証一部上場の大手接客・サービス業に入社し、入社5年でエリアマネージャー昇格。2022年2月1日に株式会社アルバトロスを設立し、退職代行事業「退職代行モームリ」を開始。退職代行の利用者は2万2000人を超える。 メディア取材(TV、雑誌、新聞、海外メディア含む)は400社以上を受け、離職率低下のための講演会依頼も多数。また、著書として『退職代行業者が今すぐ伝えたい!Z世代が辞めたい会社』を出版。