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投資家を悩ませてきた「S&P500か全世界株式か」論争…決め手となる“投資判断”とは

2025/05/27 11:00

投資に疑問はつきものです。しかし、調べようとしてSNSやネットを見てみると、みんなの意見はバラバラで、かえって不安になってしまうこともあります。 そんななか、投資の不安に豊富なデータでこたえる1冊が登場しました。『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』。著者は、ニッセイ基礎研究所 主席研究員・チ

投資に疑問はつきものです。しかし、調べようとしてSNSやネットを見てみると、みんなの意見はバラバラで、かえって不安になってしまうこともあります。

そんななか、投資の不安に豊富なデータでこたえる1冊が登場しました。『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』。著者は、ニッセイ基礎研究所 主席研究員・チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏です。

今回は、同書から、「S&P500とオルカン(全世界株式)、どっちを買えばいい?」「最近は日本株も上がっているけど、本当に投資していいの?」といった、投資家なら誰もが抱く疑問に対して、Q&A形式でわかりやすく解説していきます。(全2回の1回目)

※本稿は、井出真吾著『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。

全世界株式型かS&P500連動か“論争”

Q. 全世界株式とS&P500、どちらが優位?

Ans.
ここ40年ほどではS&P500が優位。

特にリーマンショック後では顕著。

NISAがスタートする前の2023年、ネット上などでは「全世界株式と米S&P500のどちらを買うべきか」で意見が割れました。

まずはデータを確認しましょう。図3-9は両者のデータが揃う1988年以降の37年間の推移です(配当込み、為替ヘッジなし円ベース、1987年末を100として指数化)。

両者とも長期的には上昇しましたが、特に後半に大きく上昇したようにみえます。そこで検証期間を前半18年間(1988~2005年)と後半19年間(2006~2024年)に分けて、リスクとリターンを比較したのが図3-10です。

リスクは前半(1988~2005年)の全世界株式が15%台とやや低かったのを除いて、概ね17~18%程度で同じような水準です。一方、リターンは前半・後半ともS&P500が高い結果でした(当然、全期間もS&P500が高い)。

2001年にBRICsという言葉が生まれたことが象徴しているように新興国の経済成長が著しかったのは2000年代で、それ以前はアメリカが世界経済の牽引役でした。近年はインド株などの躍進もみられる一方、米ハイテク株の上昇も著しく、総じてS&P500が優位な状況が続いたということでしょう。

全世界株式とS&P500、今後の見通しは?

Q. 全世界株式とS&P500、今後の見通しは?

Ans.
当面のリターンはS&P500が優位か。どちらに投資するかは「当面は米国株が最強」と考えるか、「ある程度の分散は必要」と考えるかによる。
「つみたて投資or一括投資」と同様、「どんなリスクを取りたいかor避けたいか」しだい。

今後はどうでしょうか。日米欧を中心とする西側経済圏と中国・ロシアを中心とする東側経済圏の分断が懸念される中、トランプ米大統領が中国をはじめ新興国とどう向き合うか、高い経済成長が確実視されるインドの出方が不透明なことなど、国際情勢の先行きは予断を許しません。

とはいえ、世界中から優秀な人材が集まるアメリカのハイテク産業がそう簡単に弱体化するとは考えにくく、高いイノベーション力を背景に今後も新たな成長企業・成長産業が登場すると考えるのが自然でしょう。

政治的な対立はエスカレートするかもしれませんが、経済や株価の力強さという意味では、少なくともリターンはS&P500が全世界株式を少し上回ると想定しています。私と同じように考える人はS&P500を選択することになります。

一方、アメリカといえどもいつ何が起きるかわからないし、S&P500のリターンが長期的に全世界株式を上回る保証もないので、ある程度の分散が必要だと考えるなら、全世界株式を買えばいいでしょう。要は「つみたて投資か一括投資か」と同じで、「どちらのリスクを取りたいかor避けたいか」に尽きるのです。

全世界株式を買えば投資資金の約6割が米国株で、残りは世界中に分散投資できますが(図3-11)、結果的にS&P500のリターンが全世界株式を上回った場合の機会損失リスクを取ることになります。対して、米国“一極集中リスク”を承知でS&P500を買うのもいいでしょう。いずれにしても資産運用において将来の多くは不確実です。国際情勢や各国企業の状況が変われば、株価指数の優位性も逆転しうるものです。短期的な値動きに目を奪われることなく、時代の大きな流れにアンテナを張り、状況変化に応じて投資先を決めることが何より肝要です。

●第2回は【実はバブル高値より6割高い? “身の丈”日本株に投資先として再評価の兆し】です。(5月28日に配信予定) 

井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用

著者名 井出 真吾

発行元  日経BP 日本経済新聞出版

価格 1,760円(税込)

井出 真吾/ニッセイ基礎研究所 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

1993年東京工業大学卒業、日本生命保険入社。1999年ニッセイ基礎研究所、2023年より現職。専門は株式市場、株式投資、マクロ経済。新聞・テレビ等メディアへの登場も多数。著書に「40代から始める 攻めと守りの資産形成」「本音の株式投資」「株式投資 長期上昇の波に乗れ!」(いずれも日本経済新聞出版)等。