「金利」がマーケットの主役に躍り出る

2025/05/28 12:30

「良い金利上昇」「悪い金利上昇」 金利は経済状態を示すバロメーターとしての機能を果たしています。市場金利が上昇する場合、その要因によって「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」に分けて考えることができます。 例えば景気が良くなれば資金需要が高まり市場金利は上昇します。また、景気が過熱すれば、インフレ懸念が出てきますから、

「良い金利上昇」「悪い金利上昇」

金利は経済状態を示すバロメーターとしての機能を果たしています。市場金利が上昇する場合、その要因によって「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」に分けて考えることができます。

例えば景気が良くなれば資金需要が高まり市場金利は上昇します。また、景気が過熱すれば、インフレ懸念が出てきますから、中央銀行は金融政策を引き締めモードに切り替え、持続的な成長とインフレの抑制を目指します。

このように景気の拡大によって金利が上昇していくのは「良い金利上昇」ということができます。

一方で、金利には信用リスクを反映する場合もあります。

例えば、信用力に劣る企業が発行する社債は信用リスクが金利に上乗せされた分、同じ年限でも金利が高くなります。国債は債券の中で信用力が最も高いとされますが、その国の信用リスクが高まれば長期金利を中心に金利上昇することになります。あるいはインフレ率が高まり将来のインフレも懸念されるようになれば、信用リスクと同様に金利は上昇します。

このような信用リスクの拡大やインフレ懸念による金利上昇は「悪い金利上昇」といえます。

国債の金利に注目が集まっている

通常のマーケットにおいてボラティリティー(変動率)が高いのは株式や為替です。これらに比べると金利の動きは変動率が低くマーケットの中では地味な存在でした。

ところがここに来て世界各国の国債の金利に注目が集まっています。その理由は、信用リスクやインフレがマーケットのテーマとして浮上してきているからです。

長期金利の上昇は財政問題の「炭鉱のカナリア」

長期の国債の金利の動きは、その国の財政問題の懸念状態を示す「炭鉱のカナリア」と呼ばれることがあります。「炭鉱のカナリア」とは、かつて炭鉱での採掘作業の際、構内が酸欠状態になっていないかどうかを確認するために、カナリアを使ったことが語源となっています。

長期金利の上昇は国の財政状態の悪化に対して、市場が警鐘を鳴らし始めている可能性があるのです。

減税で高まる日本の財政赤字懸念

日本国内では直近で国が発行する、30年債、40年債といった超長期国債の金利が急上昇していることが話題になっています。これらの年限の国債を購入するのは、保険会社のような長期の運用資金を集めている機関投資家が中心です。将来の財政悪化を懸念し買い控えることで、買い手が少なくなり、金利が上昇(価格は下落)しているのです。10年までの比較的期間の短い国債よりも、より期間の長い国債の方が金利上昇幅が大きく、イールドカーブの傾きが大きくなっているのが最近の傾向です。

財務省によれば、国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」は2024年度末時点で1323兆7155億円となり、前年度から26兆5540億円増えて、9年連続で過去最高となっています。参議院選挙を控え、国会では消費税の減税が議論されています。政府は財源が無いことを理由に導入しない考えですが、選挙の結果によっては不透明な情勢です。

長期金利の上昇はこのような財政状態のさらなる悪化のリスクを織り込んだものです。

財政赤字懸念は金融政策にも影響する

財政赤字懸念によって金利上昇が始まると、政府が新たに発行する国債の調達コストも上昇することになります。そうなると、さらに財政赤字が拡大するスパイラル状況に陥ることになります。長期金利が上昇すれば、今後発行される国債の利率も上昇することになり、政府の財政状況をさらに逼迫させることになります。

黒田前日銀総裁は政策金利を引き下げるゼロ金利政策と、国債の買い入れによって長期金利を抑え込むイールドカーブ・コントロール(YCC)を進めてきました。植田日銀総裁は政策金利を引き上げ、イールドカーブ・コントロールを止める政策を進めようとしていますが、財政赤字の拡大がその障害になる可能性が出てきました。

トランプ関税で進む「米ドル離れ」

米国も日本と同様の財政赤字問題を抱えています。

トランプ政権は減税の延長を含む大型法案を議会で可決しました。これにより10年間で3兆~5兆ドル規模の大幅な財政悪化を招くとの試算もあります。日本と同様に国債の供給増が金利上昇の圧力となります。

また、トランプ関税の不透明感からこれまでの米ドルを中心とした通貨の配分の見直しが広がれば、基軸通貨としての強みを失います。それに伴い米国債の安全資産としての地位が揺らぐ懸念もあります。

世界の「米ドル離れ」は、米国債の大きなリスクです。

欧州でも進む「悪い金利上昇」

トランプ関税による世界経済の不透明感は欧州にも影響しています。

不透明な関税政策による生産調整や生産拠点の移転から経済活動の停滞が発生し供給不足に陥ったり、関税によるコストアップによって物価の押し上げ要因になる可能性もあります。

また米国の軍事戦略が大きく変わり、欧州各国の国防費の負担が高まる動きが出ています。国防費の増額は財政悪化の要因となります。

金利が為替や株価を動かす

このように今後のマーケットでは、世界的に金利によって為替、株価が動くことが増えてきそうです。今までマーケットの脇役だった金利が主役に踊り出ることになり、「悪い金利上昇」が懸念されます。各国の政策金利や長期金利の動きには、これまで以上に注意を払っていきましょう。

内藤 忍 株式会社資産デザイン研究所 代表取締役