NHK_NHK/SHUTTERSTOCK <政府に価格を引き下げろと主張する声が大きいのは、政府が責任を持ってコメ価格をコントロールすべきという食管制度のような感覚が残っていることを示している>コメの価格が下がらないことから、農政に対する批判が高まっている。政府がこれまでコメが抱える諸問題から目をそらしてきたのは事実だ

<政府に価格を引き下げろと主張する声が大きいのは、政府が責任を持ってコメ価格をコントロールすべきという食管制度のような感覚が残っていることを示している>
コメの価格が下がらないことから、農政に対する批判が高まっている。政府がこれまでコメが抱える諸問題から目をそらしてきたのは事実だが、食管制度を廃止して自由市場に移行した以上、需給バランスが崩れた場合には価格が変動するのは致し方ない面もある。
国内では、政府に対して価格を引き下げろとの声が大きいが、これはある意味で食管制度がまだ続いており、コメ価格は政府が責任を持ってコントロールすべきという無意識的感覚が国民やメディアの中に残っていることを如実に示している。
この問題を抜本的に解決するには、主食であるコメを政策としてどう位置付けるのか、どのような農政を実施すべきなのかについて徹底的に議論し、財源も含めて決断を下すしかない。
以前もこのコラムで解説したように、戦後の日本は、政府が農家からコメを高く買い上げ、消費者に対しては逆に安く供給するという食管制度を運営してきた。農家の経営を支えると同時に、主食であるコメの安定供給を図ることが目的である。
かかったコスト以上でコメを買い取り、それを安く供給すれば、当然、莫大な国費が必要となる。コメの消費量が年々減るなか、制度の効率が悪くなってきたことに加え、農政の中核を担ってきた農協に対する批判などもあり、1995年に食管制度は廃止され、その後、コメの流通は自由市場に委ねられることになった。
政府が管理・統制するべきか、自由市場に任せるべきか
もっとも自由化したとはいえ、コメは日本人の主食であり、食糧安全保障という観点もあるため、引き続き政府は輸入米に対して高い関税をかけることで農業を保護してきた。つまり現状の農政は、完全に自由市場に任せるのか、政府が責任を持って管理・統制するのかハッキリしない状態となっている。
食管制度を復活させることは現実的な選択ではないにせよ、国民が政府に対してコメの安定供給を強く求めるのであれば、相応の国費を投入して政府が管理する必要があり、そのためには、財源をどこから持ってくるのかという議論について避けて通ることはできない。
一方、自由市場に任せるという原理原則を貫く場合、低価格での安定供給を実現するには輸入米について検討せざるを得ないだろう。
だが、輸入を拡大すれば、食糧安全保障の根幹が揺らぐ可能性があり、安易に決めることはリスクが大きい。ひとたび枠を拡大し、輸入米が国内市場で一定のシェアを超えた場合、零細農家が生産を持続するのはほぼ不可能となり、いざというときにコメ不足が発生するリスクがあることについては理解しておく必要がある。
政府にコメ価格を下げよと主張するよりも必要なことが
コメ農家に対する転作奨励金をやめ、農家に対して一定の所得保障を行った上で輸出を推奨し、農業の生産力を強化すべきという意見も出ている。この話は正論であり、コメの生産力強化は実現すべきではあるものの、産業としての農業を強化することと、コメの低価格流通は別の議論と捉えたほうがよい。
輸出市場が開拓されれば、輸出米を生産する農家にとっては当該販路が最優先となるため、コメ不足が発生しても国内市場にコメを回してくれる保証はない。メディアも無目的に政府に対してコメの価格を下げよと主張するのではなく、過去の経緯や論点の整理などを行い、建設的な議論を進めるべきである。
加谷珪一 経済ニュース超解説