2025年4月23日、資産運用立国議員連盟は石破茂総理大臣に対し、「資産運用立国2.0に向けた提言」を提出した。この中では、「高齢者が安心して長生きできる社会を金融面から支えるための環境整備」として、高齢者に限定してNISAの対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る「プラチナNISA」の導入について言及されている1。
この「プラチナNISA」をめぐっては、各種メディアや専門家の間で賛否両論が広がっている。
現行のNISA制度は、「家計の安定的な資産形成を支援するための制度」として位置付けられている。
長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託を購入するための「つみたて投資枠」が用意されている(過去には「つみたてNISA」が存在した)ことや、18歳からの口座開設が可能であることをみても、基本的には長期投資志向の資産形成を推進する制度であるといえる。
しかし、高齢者にとっては資産を形成するばかりでなく、保全や適切な取り崩しを行うことも重要な課題である。また資産形成の志向としても、現役世代と比べれば現実的な投資可能期間も短く、投資開始時の年齢によっては長期投資を目論むことが合理的でないケースも想定される。
このような理由から、高齢者の資産との関わり方は現行のNISA制度とは必ずしも馴染むものではなく、高齢者を対象とした「プラチナNISA」には相応の目的設定と制度設計が求められるといえる。
そこで本稿では、プラチナNISAに関して、現時点の情報から考えられる意義と懸念点について整理する。
1 自由民主党・衆議院議員 小林史明 公式サイト「提言全文:資産運用立国2.0に向けた提言」にて確認

また、近時の物価上昇や平均寿命の延伸といった社会的な変化により、高齢者においても資産の運用ニーズは高まっていると考えられる。プラチナNISAには、資産を「守る」から「活かす」への転換を支援する制度としての意義も見出される。
1 日本銀行「資金循環統計(2024年12月末(速報) )」より引用
まず、元本の取り崩しリスクのある商品性を問題とするのであれば、それは高齢者やプラチナNISAに限った問題ではなく、証券市場全体の制度設計や法規制の問題にまで議論を広げる必要がある。
また、最終的な投資判断はあくまで利用者自身が行うものであり、プラチナNISAが分配金再投資型に限定/誘導するような制度とならない限り、利用者に不当なリスクを押しつける制度とまではいえない。特に、先のとおり高齢者には資産の取り崩しという特有のニーズが存在することから、多様な選択肢を提供すること自体に合理性はあるともいえる。一方で、高齢者がリスクを伴う投資に適切な判断をもって臨めるのかという点は、制度設計以前の大きな懸念点といえる。
金融広報中央委員会が実施する「金融リテラシー調査」によれば、たしかに金融リテラシーは年齢層が高いほど高くなっている(図表2)。しかし、ここでいう金融リテラシーは金融に関するクイズ設問の正答率であり、いわゆる認知判断能力を測定しているものではない。

また、現行NISAと同様であれば、プラチナNISA口座で運用された資産は相続時に相続人の課税口座へ移管されることが想定される。その際、半ば強制的にリスク資産を受け入れる相続人の資産管理能力を踏まえた制度的手当の要否についても議論の余地があるといえる。投資はあくまで「自己責任」が原則であるが、現実には高齢者を狙った金融犯罪や不適切な勧誘も後を絶たない。
制度として功利的な効果を生み出すためには、単に非課税枠や対象商品を広げるのではなく、利用者保護と健全な市場形成の両立を意識した設計が不可欠である。
プラチナNISAは、日本社会の高齢化と家計金融資産の構造的課題に対応する新たな試みであると同時に、慎重な議論と制度設計が求められる政策でもある。今後の動向が注目される。