都心のマンション、買うか買わないか論議
都心のマンションは何かと便利です。交通の便は良いし、エンターテインメントも豊富。夜遅くまで呑んで終電が無くなったとしても、それほど高いコストを払うことなくタクシーで帰宅できます。会社に行くのも、満員電車に1時間も乗る必要はありません。
ただ、問題は言うまでもなくお値段です。
恐らく、「マンションを購入するなら新築で」と思っている方は多いでしょう。では、都心新築マンションのお値段は今、どのくらいで推移しているのでしょうか。
不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向2025年4月」のデータを見てみましょう。調査対象地域は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県になります。
それによると、東京23区の平均価格は9000万円で、前年同月比7.0%の値下がりになりました。ここ直近の、東京23区の平均価格とその前年同月比推移を見ると、
2024年4月=9674万円(▲17.8%)
2024年5月=1億326万円(▲10.0%)
2024年6月=1億1679万円(51.6%)
2024年7月=1億874万円(▲18.5%)
2024年8月=1億3948万円(62.2%)
2024年9月=1億775万円(20.9%)
2024年10月=1億2940万円(48.6%)
2024年11月=1億889万円(▲15.0%)
2024年12月=1億822万円(19.7%)
2025年1月=1億474万円(▲9.4%)
2025年2月=1億392万円(14.1%)
2025年3月=1億4939万円(19.7%)
というように推移してきました。そして2025年4月は前年同月比で7.0%の下落となり、平均価格は9000万円となっています。昨年4月以降、平均価格は1億円超えが続いていたので、1年ぶりに1億円を割り込みました。
なお、年度別で東京23区の新築マンションの平均価格と前年度比を見ると、
2018年度=7320万円
2019年度=7400万円(1.1%)
2020年度=7564万円(2.21%)
2021年度=8449万円(11.70%)
2022年度=9899万円(17.16%)
2023年度=1億464万円(5.70%)
2024年度=1億1632万円(11.16%)
となっています。
年度別の平均価格で興味深いのは、2021年度以降、前年同月比で大きく上昇している点です。タイミング的には、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化していた時期と、ほぼ一致しますが、これは行動制限によってリモートワークが中心になり、ファミリータイプのマンションに対するニーズが高まったからというよりも、おそらく建築資材の値上がりによるものと思われます。
物価高は当然、マンションの“お値段”にも反映され…
一般財団法人建築物価調査会総合研究所が公表している「建設物価 建築費指数」を見ると、ここ数年で集合住宅(鉄筋コンクリート造)をはじめとして事務所、工場、住宅(木造)などの建築費が年々上昇していることが分かります。
東京都のデータで見てみましょう。2015年を100とした集合住宅の工事原価は、RC構造、いわゆる鉄筋コンクリート造で見ていくと、2015年を100とした場合、2019年時点で103.6でした。確かに上昇してはいるものの、ほとんど軽微です。
ところが、2021年以降は大きく跳ね上がります。2021年=107.1、2022年=115.6、2023年=123.5、2024年=131.6、という具合です。
「工事原価」とは、建物を建てるのに必要な「建築費」と、水回りや電気関連の「設備費」を合わせた「純工事費」に、「人件費」や「通信交通費」を合わせた「現場経費」の合計額になります。要は建物を建てるうえで必要な各種資材と人件費を合わせた金額です。その2024年時点における指数が、2019年比で27.02%も上昇しているのですから、マンションの価格が上昇するのも当然なのです。
「住まう」目的なら、都心のマンションは慎重に検討を
こうしたマンション価格の値上がりを目の当たりにすると、「都心のマンションは値下がりしないから、ローンを組んででも買った方が良いのでは」と考えてしまいがちですが、果たしてどうでしょうか。
あくまでも「私見」ですが、都心にマンションを買う必要はあるのかどうかを、考えてみたいと思います。
まず投資目的なら、「買う」という判断はありですが、正直、ここまで値上がりすると割高感を覚えます。投資目的で買う手はありでも、今の値段では買いたくない、というところでしょうか。
「住まう」ことが目的であれば、「買わない」。なぜなら資産価値の下落リスクがあるからです。
常識的に考えれば、時間の経過と共に建物の価値は減価していきます。居住者1人ずつに「敷地権」が付与されます。地価の値上がりによって、所有が認められている土地部分の価値が上昇すれば、全体の資産価値は下がらないのでは、と考えられなくもないのですが、昨今、都心に多数建設されているタワーマンションのように、1棟あたりの戸数が非常に多いマンションだと、その分だけ敷地権によって認められる土地は狭くなります。
それに加えて、大規模修繕の問題があります。大規模修繕の周期は12~15年と言われていますが、その際には区分所有者の4分の3以上の同意が必要です。
大規模修繕に関しては、よく積立金不足が問題視されますが、これから問題化するのは投資目的で外国人が所有している区分の賛成が得られず、しかも所有者の所在が不明、というケースです。買ったマンションの所有者に、投資目的の外国人が多数いたがために同意が得られず、大規模修繕などが滞ってマンションの価値が低下するということも、十分に考えられます。
今般、国土交通省が、都心マンションの購入に占める外国人の割合に関する実態調査に乗り出す方針を打ち出しました。調査結果が出たとして、何か対策が講じられるのかどうかは定かでありませんが、これらのリスクが想定されるマンションを、長期ローンを組んで購入すること自体がリスクだと考えます。
ということで、都心に住まうのであれば、賃貸マンションで十分です。賃料を支払うよりも買った方が後々資産になるという人もいますが、経年劣化が進んだマンションの資産価値などたかが知れています。そして資産価値の下がったマンションは、売却するにも苦労するでしょう。
あくまでシミュレーション上だが、賃貸×余裕資金の運用という選択肢も合理的
そう考えると、少なくとも都心マンションを高額なローンで買うくらいなら、リーズナブルな家賃で賃貸物件に住み、余裕資金を運用に回した方が合理的です。1億円の物件を買い、金利分も含めて長期のローンを払い続け、それを完済した30年後のマンションの資産価値が大幅に減価する現実を目の当たりにするか、それとも月々20万円の家賃を30年間支払い、余裕分を投資に回して増やすかの選択です。
あくまでもシミュレーションですが、1億円を1.39%の固定金利で借り入れ、30年かけて返済した場合の総返済額は1億2235万円です。
対して、月20万円の家賃を30年間払った場合の総額は7200万円。差額は5035万円です。
恐らく1億円のマンションを買った場合、30年後に資産価値がどの程度目減りするのかは、立地や希少性など諸条件次第ですが、値上がりするよりも値下がりしている可能性の方が高いと考えれば、月20万円の賃料を30年間払い続け、差額の5035万円を運用で増やした方が、30年後の人生の選択肢は豊かになるのではないかと考えます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。