年金には家族がいることによる加算制度がいくつか用意されています。仕事の都合などで夫婦別々で暮らしていることもあるでしょう。配偶者はいても夫婦別居の場合は年金に影響があるのでしょうか。
単身赴任を続けている夫
「次、帰るのは来月12日から13日までになりそうだよ」と家族に電話するのは会社員の泰孝さん(64歳、仮名)。妻・祥子さん(57歳)、大学生の長男・克典(21歳)さんと離れて単身赴任生活を続けています。パート勤務をする祥子さんとアルバイトをする克典さんは、泰孝さんの扶養に入っていて、泰孝さんの収入に頼った生活をしています。
泰孝さんは、会社としては65歳以降(2026年以降)も勤務ができることになっていて、また、克典さんがまだ学生で学費もかかるため、引き続き頑張って働く予定です。しかし、元々異動や転勤も多かった会社員生活で、今後65歳以降も単身赴任を続けることになりそうです。
これまで赴任先での仕事も忙しく、年金のことは後回しにして過ごしていましたが、65歳が近づくにつれ、さすがに年金のことも気になり始めます。「65歳以降は給料もそんなに高くないし、年金が生活費の足しになればな。克典の学費のこともあるから年金は繰下げせずに65歳から受け取ろう」と思いつつ、「けど、毎年送られてくる『ねんきん定期便』に載っている額が本当に受け取れるのか?」と疑問も浮かびます。
調べているうちに、ねんきん定期便には記載されていない、65歳からの老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金の存在を知ります。「65歳未満の配偶者がいると加算されるのか。自分が65歳になってから祥子が65歳になるまで加算されるのだな。年間40万円程度の加算、祥子は8歳下だから8年で300万円を超えそうだ」と家族がいることでの加算についてはありがたいと思います。
加給年金が支給されるか年金事務所へ確認
しかし、祥子さんとは長らく別で暮らしています。「別で暮らしていると何か影響があって、年金額も変わってしまうのかな。あの加給年金はまさか受け取れないなんてことはないか」と気になります。「自分で調べても年金のことは難しい。直接相談に行ったほうが早い」と考えた泰孝さんは単身赴任先の最寄りの年金事務所に相談に行きます。
泰孝さんは窓口の職員に「年金についてはまだよく分からないです。ねんきん定期便に載っている額以外に加給年金というものがあるのを知ったけど、単身赴任のため妻とは住所も別で、長らく離れて暮らしています。65歳以降もしばらくはそうなるだろうと。加給年金を受け取るためには生計維持が条件という話も聞いていますけど、私の年金はどうなるんでしょうか」と疑問点について聞きます。
すると職員は「65歳から老齢基礎年金、老齢厚生年金が受け取れて、加給年金は別居していても、支給されます。ただ、同居している場合より必要書類が増えて少々煩雑にはなりますけど……」と回答します。
別居していても加給年金が加算されるための条件とはどのようになっているのでしょうか。
●泰孝さんが加算を確保するために行った手続きは、後編【「配偶者加給年金」の有無で年間41万5900円の差…単身赴任中の65歳男性が加算を確保するために用意した書類とは?】で詳説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。