<前編のあらすじ>
会社員の泰孝さん(64歳、仮名)は、妻・祥子さん(57歳)と大学生の長男・克典さん(21歳)を故郷に残し、長年単身赴任を続けています。65歳を目前に控え、これまで後回しにしていた年金のことが気になり始めました。
「65歳以降は給料もそんなに高くないし、年金が生活費の足しになればな。克典の学費のこともあるから年金は繰下げせずに65歳から受け取ろう」と家族への思いを抱きながらも、配偶者加給年金について調べるうちに新たな不安が生まれます。長年別居している妻との関係で、果たして加給年金は受け取れるのでしょうか。泰孝さんは詳しい話を聞きたくなり、年金事務所に相談に向かいます。
●前編:「ねんきん定期便」に記載なし…65歳以降で単身赴任を続けても加給年金は受け取れる? 妻と別居する64歳夫が直面した年金問題
加算されるための生計維持の要件とは?
泰孝さんの場合、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されるようになります。老齢厚生年金を受給する人で、厚生年金加入期間が20年以上あり、65歳当時(※65歳当時、当該期間が20年未満の場合はその後20年以上で年金が改定された当時)、生計を維持する65歳未満の配偶者、18歳年度末までの子あるいは一定の障害のある20歳未満の子がいると加給年金が加算されることになります。祥子さんは泰孝さんの65歳当時、65歳未満ですので、配偶者加給年金の加算対象となります。克典さんは20歳を過ぎていますので、子の加給年金は対象外となります。
別居している場合は「生計同一関係に関する申立書」が必要
ここで配偶者加給年金の生計維持という条件については、①生計同一であること、②加算対象となる配偶者の前年(あるいは前々年)の年収が850万円未満であることあるいは655.5万円未満であること、いずれも満たすこととなっています。祥子さんはパート勤務で収入も少ないため、②の年収要件は満たしています。一方、①については、住民票上同じ住所であればそのまま生計同一と認められますが、別住所であっても、対象となる配偶者への経済的援助と音信・訪問があれば認められることになっています。
泰孝さんによると「定期的に妻には送金しているし、音信もあるし、家族のもとには年何回も帰っている」とのこと。そのため、たとえ別住所でも生計同一と認められそうで、これを聞き泰孝さんは安心します。
別居している場合は、年金の手続きに際し、そうした経緯について申し立てをする「生計同一関係に関する申立書」が必要となります。「生計同一関係に関する申立書」で泰孝さんから祥子さんへの経済的援助と音信・訪問の状況にできる限り具体的に記入して提出することになります。また、その申立書の申立て内容についての第3者による証明なども必要になります。
生計維持があれば手続きが少し煩雑でも加算
こうして泰孝さんは、65歳になったら老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給ができるようになり、加給年金の加算もこのままされるようになりそうです。これで家計的にも助かりそうだったため、安心します。
以上のように、たとえ住所が別でも生計維持が認められれば加給年金も対象になります。手続きは同居している場合よりも煩雑になるかもしれませんが、対象となる人には加算がされますので、必要な手続きは忘れずに行っておくことが大切です。
なお、年間41万5900円(2025年度の額)加算される配偶者加給年金は、改正により2028年4月以降に新規に加算され始める人から現在より10%少ない額で加算されることになっています。泰孝さんのように、改正施行前に65歳になる場合は10%減にはなりませんが、改正後に加給年金を受け取る場合は、改正点も合わせて押さえておきたいところでしょう。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。