■要旨 少額投資非課税制度(NISA)が、いわゆる新NISAとして大幅に制度拡充されてから1年以上が経過した。本レポートでは、2025年6月17日に金融庁から公表された、2024年12月末時点の利用調査状況の確報値などをもとに、新NISAの利用実態を踏まえ、その成果や課題について考察する。 ■目次 1――はじめに
■要旨
少額投資非課税制度(NISA)が、いわゆる新NISAとして大幅に制度拡充されてから1年以上が経過した。本レポートでは、2025年6月17日に金融庁から公表された、2024年12月末時点の利用調査状況の確報値などをもとに、新NISAの利用実態を踏まえ、その成果や課題について考察する。
■目次
1――はじめに
2――制度利用が進展
3――売却は限定的
4――一般NISAから買替
5――家計全体への影響
6――未稼働問題も継続
7――最後に少額投資非課税制度(NISA)が、いわゆる新NISAとして大幅に制度拡充されてから1年以上が経過した。本レポートでは、2025年6月17日に金融庁から公表された、2024年12月末時点の利用調査状況の確報値などをもとに、新NISAの利用実態を踏まえ、その成果や課題について考察する。
まず、新NISAの最大の成果は制度活用が進み、資産運用のすそ野が広がった点にある。NISAの口座数は2024年1年間で433万増加し、さらに2025年3月末時点では2,645万に達している【図表1】。制度拡充が口座開設を後押ししたことがうかがえる。

注目すべきは、口座開設だけでなく実際の利用も広がった点にある。2024年に実際に買付があったNISA口座数は1,650万となり、2023年の1,269万から380万増加した。制度開始元年の2014年は、年末時点で825万口座が開設されたが、実際に買付が行われた口座はそのうち45.5%、375万にとどまった。2024年は、制度開始以降で制度利用が最も進展した年であったと評価できる。


さらに新NISA口座からの売却が少なかった点は、制度の恒久化と投資期間が無期限化された成果と考えられる。
制度拡充によって年間の投資枠が従来の倍以上に拡大されたことに加え、口座数自体も増加し、買付額は2024年1年間で17兆3,821億円に達し、2023年の一般NISAおよびつみたてNISAの合計5兆2,382億円の3.3倍に拡大した。その一方で売却額は2024年に2兆3,441億円と2023年の4兆2,686億円より少なかった【図表4】。特につみたて投資枠では、売却額が1,813億円にとどまった。つみたて投資枠の買付は4兆9,677億円と2018年から2023年のつみたてNISAの累積買付額4兆5,489億円を上回ったが、売却は累積売却額5,029億円の半分以下にとどまった。
また、商品別にみると、投資信託が7,086億円と売却が買付に対して小規模であった。一般NISA時代には毎年、投資信託でも上場株式と同規模の売却があったが、成長投資枠に限っても5,284億円と買付額6兆8,370億円の1割未満に収まった。
2024年の7月中旬から8月上旬にかけては、内外株式を組入れている投資信託の多くで基準価額が大きく下落した。一時的ではあったが投資環境が悪化したにもかかわらず、NISA口座全体でみると投資信託を売却する利用者はごく一部に限られたことがうかがえる。
なお、国内株式については1兆5,592億円の売却があり、商品別にみると最も売却されていた。比較的、一部の利用者が短期売買に活用した様子もみられた。ただ、一般NISA時代には毎年、買付と同程度、もしくはそれ以上の売却があった。そのことを踏まえると、新NISAになった2024年は売却が減少したといえよう。
新NISA初年の2024年の売買動向のみで判断することはできないものの、投資期限の無期限化により、つみたて投資枠を中心に長期投資への意識が高まりつつあることが示唆される。
このように売却が少なかったことに加え、2024年は世界的に株価が上昇し円安が進行したことも追い風となり、新NISA口座全体の年末残高は16兆9,510億円とほぼ買付額と同規模に収まっていた。2024年の評価益を含む収益は2兆円程度、収益率は12%ほどであったことが推計される。特に成長投資枠、つみたて投資枠ともに投資信託の収益率が14%と推計され、投資信託を購入した利用者の運用成果が大きかった。短期的な運用成績に過度に反応するべきではないが、多くの利用者が良好な運用状況であったと推察される。

その一方で、新NISAの口座と2023年までの一般・つみたてNISAの旧制度の口座が完全に切り離されたことによる影響も見られたと考えられる。実際、2024年には旧NISA口座から4兆5,647億円の売却があった。特に一般NISA口座のみで4兆1,044億円売却された。これは、新NISA口座への買い替えが進んだことを示唆している。
この動きは制度全体の残高にも表れている。2024年末の一般、つみたて、新NISAを合わせた残高は34兆3,709億円であった【図表5】。2023年末の一般、つみたてNISA口座の残高18兆3,665億円から16兆44億円の増加にとどまった。2024年には、新NISA口座から17兆3,821億円の買付あり、しかも良好な投資環境により評価益も膨らんでいたことを踏まえると、新口座への移行が必要となったことによる影響は一定程度あったといえよう。
なお、一般NISAの2024年の売却額4兆1,044億円の商品別の内訳は公表されていないが、過去の傾向から上場株式と投資信託がほぼ半々であったと推察される。仮に一般NISAから上場株式が2兆円ほど売却されたとすれば、2024年の上場株式の買付額5兆3,971億円に対して、制度全体の売却も加味したネットの資金流入は2兆円程度にとどまり、買付額と比較すると、資金流入の規模は限定的だったことが示唆される。
2024年末時点で一般NISAの残高は、まだ11兆775億円ある。今後、3~4年は一般NISA口座から新NISA口座への買い替えが継続すると予想される。

ただし、2024年に家計の株式等も投資信託の残高が特に増加し、その結果、金融資産に占める割合が上昇したが、残高の増加は株式等、投資信託ともに評価益による影響が大きかった点にも留意する必要がある。株式等で28兆円、投資信託で18兆円の評価益が発生し、残高を押し上げた【図表6】。2024年の資金フローを見ると株式等は2兆円の資金流出であった。投資信託については12兆円の資金流入があり、2023年の5兆円から大きく増加している。
旧NISA口座に限らず、課税口座から新NISAへの買い替えも進んだ可能性がある。いわゆる「投資から投資へ」の資金移動も含まれており、NISA口座の買付や残高の増加と比較すると顕著な増加は見られなかった。それでも家計全体で見ても、新NISAによって「貯蓄から投資へ」が進んできている様子がうかがえる。2024年のように評価損益の変動と比較すると1年ごとの新NISAの効果は小さいと思われるが、これから効果が累積されることにより今後、「貯蓄から投資へ」が着実に進むことが期待されよう。
制度全体の累積買付額は直近の2025年3月末で59兆2,393億円に達している。2023年に資産所得倍増プランで掲げられた「5年間でNISA買付額を現在の28兆円から56兆円へと倍増させる」の政府目標の一つを、すでに達成したことを意味する。資産所得倍増プランでは「家計による投資額(株式・投資信託・債券等の合計残高)の倍増を目指す」とも記されている。今後は、NISA制度の動向とともに家計全体での投資額の推移にも注目が集まる。

NISA制度に話を戻すと、旧制度から課題となってきた未稼働口座については、2024年も改善の兆しは見られなかった。2024年には買付がなかった口座は、買付があった口座ほどではないが増加し、1,011万口座に達した【図表7】。新NISAとなっても、依然として3割以上が未稼働の状態にあり、少なくとも旧制度時代から未稼働口座が活用される動きは限定的であったと考えられる。


新NISAは初年となった2024年の利用実態や家計の金融資産の状況から確認してきたように、一定の成果を上げてきた。その一方で、このままでは資産所得倍増プランで掲げられたもう一つの政府目標「5年間で、NISA総口座数を現在の1,700万から3,400万へと倍増させる」の達成が危ぶまれる。現在のペースが続くならば2027年末に3,200万口座にも届かない可能性が高い。また、仮に目標が達成されたとしても、開設された口座のうち2024年のように1,000万口座以上が未稼働であったならば、資産所得倍増プラン本来の目的が十分に果たされたとは言い難い。
さらなる制度の活用促進と資産運用の定着に向けた取り組みが、今後の重要な課題となるだろう。