ウォーレン・バフェットといえば、日本では「コカ・コーラ」や「アップル」などの優良な企業の株式を長期間保有するスタイルで有名だ。彼はそういった上場株式への投資によって巨額の富を築いたという印象を持つ方も多いだろう。実際、バフェットの初期の成功は上場企業の株式を大量に取得した上で、経営者との積極的な対話を通じて企業価値の向上を促すような手法であったようだ。
しかし、バフェットが本格的な富を形成した後半のキャリアには、あまり知られていないもう一つの重要な戦略がある。
「資金調達」と「プライベートエクイティ投資」という二本柱
バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイの大きな成功要因のひとつには、実は傘下の保険会社であるガイコー(GEICO)やナショナル・インデムニティー(National Indemnity)などが契約者から受け取る「保険料」があった。契約者から集めた保険料のうち、すぐに保険金支払いに使われずに保険会社が一時的に保有できる資金が生み出され、バフェットはこの低コストで調達できた莫大な資金を、安定的で長期的な投資の原資としたのだ。つまり保険ビジネスを通じて安定的な投資資金を確保したのである。
そして、バフェットはこの調達した資金を、実は非上場企業の買収に積極的に投入してきた。代表例としては、有名なチョコレートブランドである「シーズ・キャンディーズ(See’s Candies)」や家具小売の「ネブラスカ・ファーニチャー・マート(Nebraska Furniture Mart)」がある。また、もともとは上場していたが、バフェットが完全に買収した後に非上場化した企業として、鉄道会社の「バーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道(BNSF Railway)」や航空・工業部品メーカーの「プレシジョン・キャストパーツ(Precision Castparts)」が挙げられる。
これら非上場企業は上場株と異なり、短期的な市場評価に振り回されることなく、長期的な視点で企業価値を着実に向上させることができる。バフェットが後の半生で莫大な資産を築けた理由の一つは、まさにこの「プライベートエクイティ投資」戦略にあった。
ただしバフェットは一般的なプライベートエクイティファンドに対しては、「手数料が高く過度なレバレッジを用い、企業を短期的に売買する手法」として否定的である。彼自身は外部のファンドに頼らずに非上場企業へ直接投資し、長期かつ永続的に保有することで、より大きな価値を創出してきたと言えよう。
バフェットが投資した代表的な非上場企業
個人投資家がバフェット戦略を実践するとしたら
個人投資家にとって、バークシャーのような保険会社を所有し、大規模な資金調達をすることはもちろん現実的ではない。しかし、この考え方を個人レベルで取り入れることは可能だ。
まず、個人にとっての「投資資金の調達手段」は、継続的かつ安定的な所得創出であろう。給与所得、副業、不動産収入などを通じて、自分自身の安定した資金調達源を作り出すことが第一歩となる。
次に、近年日本でも個人投資家向けにプライベートエクイティを含めたオルタナティブ投資商品が徐々に普及しつつある。かつては機関投資家だけに開かれていた非上場企業への投資機会が、個人にも提供され始めている。これを利用することで、バフェットが実践したような非公開企業の長期保有による価値創出の恩恵を、個人投資家も享受できるようになりつつある。
富の創出の本質的な仕組み
ここで重要なことは、バフェットの投資の本質は単なる上場株の長期保有に留まらないということだ。彼の真の成功は「安定的な資金調達手段を確立し、その資金で非上場企業に長期投資を行うこと」によって実現された。
バフェットの成功の表面的な部分のみをみても、その背後にある戦略や富の創出の本質的な仕組みは完全には見えてこない。これからの資産運用では、単に表面的な手法を模倣するのではなく、本質的な資金調達や長期的価値創造の仕組みを理解し、それを自分自身の投資戦略として取り入れていくことが重要である。
木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO
野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。