「明日が当たり前にやってくるとは限らないのなら、“いつか”の楽しみを、“今日”に引き寄せて生きていきたい」――こう決意するのは30代のみずのさん(仮名)です。母親の突然の病気をきっかけに、人生観が大きく変わったという彼女の体験談を通して、私たちが見落としがちな「今」の大切さについて考えてみましょう。
<読者プロフィール>
女性
30代
北海道・東北地方在住
自営業
人生観に転機をもたらした出来事
「夫が退職して老後になったら思い切って旅行に行こう」
「子育てが落ち着いたら、何か新しい趣味を始めよう」
みずのさんも、かつてはそんなふうに考えていました。将来のために今を我慢し、老後や子育て後の自由な時間のために「やりたいこと」を先送りにする。それが当たり前の生き方だと思っていたのです。
しかし、その考え方が根本から覆される出来事が起きました。60代半ばの母親が突然倒れたのです。
「大腸がんだったんです。しかも、すでに転移が見られる段階でした」
みずのさんは当時の衝撃を今でも鮮明に覚えています。それまで健康だと思っていた母親の突然の発病は、みずのさんの人生観に大きな転機をもたらすことになりました。
複雑な親子関係の影
みずのさんと両親の関係は、決して単純なものではありませんでした。
「私の両親は、正直言って仲がよい夫婦とはいえなかったんです。父は寡黙で、子どもと遊ぶよりも仕事を優先する人。母は元保育士で、厳格な人でした」
特に思春期は母親からの厳しい管理が続きました。門限、進路、日々の過ごし方にいたるまで、細かく管理された思春期には、みずのさんは常に「見張られている」ような窮屈さを感じていたといいます。
「家を出るまで、私はずっと息がつまるような毎日を送っていました。両親に対して、育ててくれたことには感謝しています。けれど、心のどこかでずっと距離を感じていたんです」
そんな経験から、みずのさんは「両親のようにはならない」と考えてパートナーと結婚し、子育てをしてきました。そして幸せな日々を送っていた矢先に、母親の病気が発覚したのです。
楽しみを老後に先送りしても実行できるとは限らない
母親の入院は、みずのさんに思いがけない現実を見せつけることになりました。それは、父親についてでした。
「父は退職後に購入した家で、これからの夫婦の第二の人生を母と楽しむつもりだったらしいのです。夫婦の趣味だった山登り、釣り、バードウォッチング……ようやく自由になった時間で、いろいろなことをゆっくりやっていこうと話していたそうです」
しかし、そんな計画はわずか半年で終わりを告げました。退院後の母親は、日常生活は送れるものの、以前のようにアクティブに動くことはできなくなったのです。
「家庭をまかせきりだった父は、母が倒れたことで日々の生活がままならなくなってしまいました。何もできないのではなく、“何もしてこなかった”ことのツケが、一気に押し寄せたようでした」
そうした両親の姿を見て、みずのさんは考えました。やりたいことを「老後のためにとっておく」という考え方は、あまりにも不確かなものではないか、と。
●みずのさんは母の病をきっかけに、どのように人生観を変えていったのか? そして家族との関係はどう変化したのか? 後編「楽しみを老後にとっておくなんてもったいない」母の病で価値観が一変、30代女性が気付いた人生の真実【読者体験談】でお届けします。
Finasee マネーの人間ドラマ 読者体験談セレクト班
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。