企業型確定拠出年金(DC)導入企業が一堂に会する
日本DCフォーラムは企業型DCを導入する事業会社の担当者を中心に制度運営や商品動向、従業員への継続教育などについて学び合う場として2010年から実施されている。14回目となる今年は定員の150人を上回る約180人が参加。後援は厚生労働省、企業年金連合会、株式会社東京証券取引所(株式会社日本取引所グループ)、一般社団法人 投資信託協会。
開会に先立ち、主催のNPO法人確定拠出年金教育協会・齋藤順子代表が挨拶。2025年6月13日に成立した年金制度改正法に「企業年金の運用の見える化」が含まれることに触れ、「当協会もこれまで必ずしも見える化という言葉で意識してきたわけではないが、『企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査』の実施や結果のフィードバック、専門誌『DCウェーブ』の発行、優れた制度運営企業の表彰『DCエクセレントカンパニー』表彰制度を通じて見える化に類する活動を継続。見える化とは見えるようにするだけでは不十分で、どのように見せるか、意味付けも同様に重要」と語った。
今年度からはDCエクセレントカンパニーにおいて「DC運営の見える化自己チェック」の仕組みを新設。担当者が自社のDC運営の取り組みを客観的に認識し、継続的に改善する手がかりとなる認定制度を開始しているが、「本格的に始まる見える化の時代には、年金を受け取る側の意識とリテラシーの向上も重要」と、最新の制度動向を踏まえた業務改善と担当者間の情報交換の重要性に関してDCフォーラムの活用を呼び掛けた。
厚生労働省課長による講演「DC制度の現状と今後の展望」に聞き入る受講者
フォーラムは厚生労働省年金局企業年金・個人年金課の海老敬子課長を迎えた講演「DC制度の現状と今後の展望」から始まった。DC制度の創設から20年以上が経過し、企業型DC加入者は約830万人、個人型DC(iDeCo)も約360万人にまで増加、資産残高も拡大傾向にある。企業型、個人型ともリスク性資産である投資信託の保有割合が年々増加し、それぞれ70%超、67%に達する。続けて6月13日に成立した年金制度改革法における主な制度改正ポイントを3点挙げた海老課長は制度の拡充を改めて周知した(下記囲み参照)。
1. iDeCoの加入可能年齢の上限を70歳未満に引き上げ
2. 企業年金の運用の「見える化」を推進(厚労省が情報を集約・公表)
3. 企業型DCのマッチング拠出の制限撤廃と簡易型DCの見直し
なお拠出限度額も引き上げられ、企業型DCでは現行の5.5万円から6.2万円に拡大する。あわせて加入者の資産形成に欠かせない企業の継続投資教育の実施率も向上しつつある。例として社員の意向を踏まえてセグメント化した効果的な継続投資教育を実施する企業のケースなどを挙げた。
今後の展望としては、個人の働き方に関わらず老後の所得確保を支援する役割がさらに重要となることを示唆。中でも加入者にとって適切な商品選択を促進する取り組みを通じて、投資教育や運用商品の見直し、情報開示の充実につながっていくことが求められると解説。さらに今年6月に公表された「新しい資本主義グランドデザイン及び実行計画2025改訂版」においても、物価上昇下での元本確保型商品のリスクについての丁寧な説明や、指定運用方法を含めた商品の見直しの必要性が指摘されている。これらの取り組みを通じて、「DC制度が老後を支える重要な柱としてさらに発展していくことを期待している」と結んだ。
「2024年度DCエクセレントカンパニー」6社が受賞
午後からはメインイベントである「2025年度DCエクセレントカンパニー」表彰式が執り行われた。DCエクセレントカンパニーとは、DC制度の運営に積極的に取り組み、加入者が制度を有効活用できる環境づくりに努め優れた成果を挙げている事業会社に贈られる賞だ。
従来は自薦・他薦による応募から優秀な取り組みを行っている事業会社を表彰してきたが、今年度から新たに認定制度を導入した。応募に際して目安となるよう協会が定める基準を明確化し、その基準を満たす事業会社をDCエクセレントカンパニーとして認定。中でも優秀な取り組みを行う事業会社に「優秀賞」「奨励賞」を授与する形式に刷新した。より多くの企業の応募を促進し、応募自体に価値を与える仕組みとして生まれ変わった結果、継続教育部門5社、ガバナンス部門1社が優秀賞に輝き、厚生労働省・海老課長から記念の盾が授与された。
<2024年度DCエクセレントカンパニー優秀賞受賞企業>
継続教育部門:J.フロント リテイリング、新宮運送、電通総研IT、富士通/富士通企業年金基金、ヤマト運輸
ガバナンス部門:大和ハウス工業
優秀賞受賞企業ではどのような取り組みが評価されたのか。詳細を企業ごとに紹介する。
継続教育部門
優秀賞 J.フロント リテイリング
制度導入から15年にわたり、毎月のニュースレターの発行、業務時間内に実施する全加入者対象の年次セミナーを通じて、継続的・実効性の高い教育を提供。加入者専用WEBサイトへのアクセス促進施策の結果、アクセス経験率が約8割に向上、情報提供の質と浸透を高めた。DC制度とその他の退職給付制度の総額を可視化し、加入者の老後資産形成を包括的かつ計画的に支援する体制を確立している。
優秀賞 新宮運送
加入者への継続的な教育支援の質を高めるべく教育委託先を再選定し、全加入者対象の年次セミナーを継続的に実施。加入後3年間、ファイナンシャル・プランナーとの個別相談を通じた丁寧なサポートを提供。また、総務部が毎月の社内報でDCの運用概況を発信、加入者サイトへのログイン支援を個別に行うなど、主体的かつ細やかな取り組みを展開、元本確保型商品の残高が過去10年間で半減するという顕著な成果を挙げた。
優秀賞 電通総研IT
加入者が自身のリスク許容度に即した適切な運用を実践できるよう、リスク許容度に基づく望ましい資産配分と実際の資産配分との差異を可視化する専用アプリの活用をトップダウンにより積極的に推進。必須履修の動画視聴などの周知・教育施策を展開し、アプリ登録者が過去2年で30%から80%へと大幅増、加入者の運用行動の改善に着実な成果を収めた。
優秀賞 富士通/富士通企業年金基金
加入者の投資経験や制度理解の成熟度に的確に対応するため、多岐にわたる教育メニューを構築、案内メールや申込サイトで工夫を重ね、セミナー受講の促進に尽力。これらの取り組みによりセミナー申込者数は2年連続して倍増と顕著な成果を収めた。さらに指定運用方法の見直しや商品の除外等の運用環境の整備を進めた結果、元本確保型商品のみ保有の加入者は全体の2%にまで減少、より適切なリスクに基づく資産形成の定着に寄与した。
優秀賞 ヤマト運輸
制度導入以来、年4回発行する「ライフプランだより」の継続的な自宅郵送など、全加入者への情報提供に尽力。各地域の役職者向け会議を活用したセミナー実施のほか、50代向けショート動画を新たに制作、履修必須のライフプランセミナーでも活用するなど視聴の促進を図った結果、元本確保型商品のみ運用者が15%以上減少、適切な資産形成への行動変容が進んでいる。
なお継続教育部門では、今年から設けられた「奨励賞」を城南信用金庫、新和自動車、常磐運輸、兵庫物流、三菱UFJ銀行の5社が受賞した。
ガバナンス部門
優秀賞 大和ハウス工業
単独導入企業を含む全31社におけるガバナンス体制の一層の強化を図るためDC運営委員会を新設、商品や制度運営に関するモニタリング・課題解決に向けた協議を継続的・組織的に実施。グループ各社の管理部門幹部が集まる研修会でDC制度の最新動向を毎年報告、各社担当者への研修を通じて、制度運営に関する知識の涵養と担当者間の有機的な連携による支援体制の強化に尽力している。
参加者とともにベストプラクティスを共有
続いて受賞企業をプレゼンター、パネリストに迎えて取り組み事例の紹介が行われた。日本DCフォーラムの大きな特徴が「事業会社の取り組みに学ぶ」こと。毎年、「他社はどのように取り組んでいるのかを知りたい」と寄せられる参加者からの多くの声に応えるために、事業会社の取り組みを直接語りかけてもらうプログラムを設けている。
ガバナンス事例では「大和ハウスグループの取組事例」としてグループ間の横のつながりを意識し効果的にガバナンスを高めた具体的な方法について大和ハウス工業の例が共有された。継続教育事例では、「DCエクセレントカンパニーによる誰も取り残さない教育の工夫~理解・関心の低い人にどうアプローチするか~」としてJ. フロント リテイリング、電通総研IT、新宮運送の各社が取り組みの詳細を発表。続いて「DCエクセレントカンパニーによる多様化する加入者への対応とアクションにつなげる取り組み」として富士通/富士通企業年金基金、ヤマト運輸の取り組みの実例から学びを共有。ともにモデレーターはNPO法人確定拠出年金教育協会の大江加代理事兼主任研究員が務めた。
DCエクセレントカンパニー表彰制度は厚生労働省の後援を受けており、受賞企業は社員目線の制度運営を通じ、人への投資を熱心に行っている企業であることが示される。企業にとっての人材採用、育成のアドバンテージとなる表彰制度の一つであるといえる。毎年の開催を自社DC制度の取り組みの目標とする企業も見られるなど、制度を最大限活用して自社DC制度の高度化に取り組む企業が増加している。なお、来年のDCエクセレントカンパニーは2026年1月末からの募集を予定している。
<第14回日本DCフォーラム概要>
開催日時:2025年7月11日
主催:特定非営利活動法人 確定拠出年金教育協会
後援:厚生労働省、企業年金連合会、株式会社東京証券取引所(株式会社日本取引所グループ)、一般社団法人 投資信託協会
<2025年度DCエクセレントカンパニー受賞企業>
継続教育部門: J.フロント リテイリング、新宮運送、電通総研IT、富士通/富士通企業年金基金、ヤマト運輸
ガバナンス部門:大和ハウス工業株式会社
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。