年金・iDeCo・保険を見直したい

企業型DCに入ってはいるけれど…「よく分かっていない」人に伝えたい、“無関心”が招く老後

2025/07/31 12:00

確定拠出年金(DC)制度の「無関心層」は一定程度存在すると考えられます。ただ無関心層とひとくちにいっても、加入した時期や年齢等で課題は異なります。今回は、無関心層のなかでも50代に焦点を当てて考えてみます。 現役時代の事業主掛金額が同じでも、結果に大きな差 50代の無関心層の問題点は、気づいたときには時間が巻き戻

確定拠出年金(DC)制度の「無関心層」は一定程度存在すると考えられます。ただ無関心層とひとくちにいっても、加入した時期や年齢等で課題は異なります。今回は、無関心層のなかでも50代に焦点を当てて考えてみます。

現役時代の事業主掛金額が同じでも、結果に大きな差

50代の無関心層の問題点は、気づいたときには時間が巻き戻せず、「知らなかった!」と思わざるを得ない状況に追い込まれることにあります。特にDC加入時、運用商品選択に向き合わず、よくわからないまま放置した人は要注意です。

一足先に60代に突入した世代をみると、現役時代の事業主掛金額が同じであっても、給付時にはDC資産残高が大きく異なるということが発生しています。運用商品の選択の違いやマッチング拠出の有無などで、金額的に2倍、3倍の差が開いていることもあるのです。

つい先日も、ある企業の担当者が体験談を話してくれました。年に2回発行される「お取引状況のお知らせ」(DC残高通知)を手にした50代の数人が会話をしていて、Aさんに対して「なんでそんなに増えているんだ?」という流れになったというのです。BさんとCさんは、その場で運用の基本的な考え方のレクチャーを受け、商品変更方法も確認したとのことです。

このようなケースで気づけたBさんやCさんはラッキーだったといえます。50代とはいえDC加入者期間が10年弱あり、運用の基本的な考え方を説明できる人が輪の中にいたのですから。

多くの50代無関心層は、こうした機会に巡り合わないままに老後を迎えることになるかもしれません。

時代背景や環境の影響も

年代を50代に区切った理由には、残りのDC加入者期間が短いことのほかにも時代背景の影響などもあります。

【時代背景】
DC制度がスタートした2002年以降しばらくの間はデフレ経済下にあったため、元本確保型(預貯金や保険商品)への資産配分であっても実質的な資産価値が下がることはありませんでした。さらに2008年のリーマンショック後には、投資信託保有者のほとんどが元本割れとなり、2012年ごろまでは元本確保型のほうが結果的によかったという考え方もありました。

【制度的要因①】
以前は、企業型DC加入者が運用商品を選択しない場合、「元本確保型」になる設定の規約がほとんどでした。それが「指定運用方法」が設定可能になった2018年5月以降は、投資信託を「指定運用方法」に選定する規約が増えています。

なお、「指定運用方法」は労使合意により設定するもので、運用商品を選択していない加入者について、一定期間経過後に指定運用方法での運用を指図したとみなされるものとなっています。

【制度的要因②】
DC制度スタート時には、企業型DC規約で「リスクリターンの異なる3本以上の運用商品」とともに「1本以上の元本確保型商品の提示」が法定されていました。その結果、2018年くらいまでに施行された規約では、複数の元本確保型がラインアップされています。

プログレスレポートでも注目された「元本確保型」

2025年6月末に金融庁から公表された「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」では、確定給付企業年金(DB)とともに確定拠出年金(DC)についても相当の紙幅を割いています。

DC記録関連運営管理機関(レコードキーパー)4社からのデータをもとにした分析やヒアリング調査結果がまとめられ、「元本確保型」商品に着目した分析や運営管理機関の収支構造を分解するなど、今までになかった視点が盛り込まれました。

元本確保型についてプログレスレポートでは次のように記載しています。

「足元において、物価は上昇基調にあり、元本確保型商品(預貯金や保険商品)の金利・利率は、一般に消費者物価の上昇率を下回っている。この傾向が続き、(物価の上昇率を下回る金利・利率の)元本確保型商品で長期に運用していく場合、将来において実質的な購買力を確保できない、換言すれば、実質的な資産価値が目減りし続けることになる」

プログレスレポートで報告された数値は次のとおりです(2024年9月末時点のデータ)。

・企業型DCの投資信託の残高 15.6兆円(68%)
・企業型DCの元本確保型商品の残高 7.4兆円(32%)
・「元本確保型のみで運用する者」の資産残高 2兆円
・「元本確保型のみで運用する者」の加入者等数 175万人(全体の20%)

自ら好んで元本確保型を選んでいる?

「元本確保型のみで運用する者」イコール「無関心層」でしょうか?

自ら「元本確保型」を選んでいる層も一定程度いると考えられます。

「指定運用方法」が議論されていた当時の資料※1を振り返ってみると、運用商品を選択しないままでいると自動的に選択される「デフォルト商品」※2が適用される加入者は全体の9.5%ほどと推定されていました。プログレスレポートの「元本確保型のみで運用する者」が約20%とされていることから、半数は自ら望んで元本確保型のみを選択している人といえそうです。

しかし、自ら運用商品を選んでいる人についても、情報の入手ルートによって偏りが生じています。プログレスレポートでは運営管理機関の業態別の分析を行っており、「損保」「地銀・信金・労金」では「元本確保型商品のみで運用する者」の割合が高い傾向がみられたとしています。

企業型DCでは、運営管理機関を選ぶのは事業主であり、加入者は選ぶことができません。加入者自らが運用商品を選んだとしても、運営管理機関の業態(や情報提供の優先度合い等)によって「元本確保型のみ」に陥っている加入者の存在もあるといえるでしょう。

こうしたことからプログレスレポートでは、「運営管理機関は、加入者等において個々人の状況や経済・金融環境を踏まえた適切な商品選択がなされるよう、企業と連携しつつ優先順位を決めて取り組みを強化させていくことが重要である」旨を指摘しています。

※1 「指定運用方法の基準に関する論点および資料」第6回社会保障審議会企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会 2017年5月10日
※2 デフォルト商品の95%は元本確保型商品

元本確保型から資産を移動させることは難しい

筆者は継続教育を事業主に提案し、研修の場に臨む立場から強く感じることがあります。

いったん元本確保型に資産が入ると、そこから資産を移動させることはとても難しいということです。

元本確保型のみで運用していると、元本割れすることがないかわりに大きく増えることもありません。そのためDC制度や資産運用への関心が持ちづらく、継続教育自体に出席する人が少ないのです。

プログレスレポートでは継続教育について次のような取り組みが紹介されています。

「元本確保型商品の選択率が高い企業や想定利回りに達していない加入者が多い企業の従業員を対象にセミナーを開催。企業と協力し、原則全員出席とした上で、各加入者の資産残高と運用利回りを個別に資料配布し、その場で加入者が自身の運用状況を把握できるようにした。併せて、運用方法の変更に必要な個人の加入者専用サイトへのログインパスワード等も個別に配布し、その場で運用方法の変更を行うための手続きを解説した」

この例でポイントになるのは「強制力」です。「原則全員出席」であり「その場で運用方法の変更を行う」ことまで行って初めて、無関心層の行動変容に結びつきました。こうした設定ができる企業は限られています。そこで「強制力」に着目すると、次のような方法も考えられます。

・退職金制度を見直す
・運用商品の除外を行う
・運営管理機関を変更する

いずれも加入者個人で実施できるものではありませんが、退職金制度を見直すことでライフプランの気づきにもつながり、運用見直しに結びつくことも多いようです。

運用商品の除外は、否応なく運用商品の見直しにつながります。ただ、この場合も「指定運用方法」が定期預金に設定されていると、加入者は「何もしなければ定期預金になるから(考えなくてもいいや)」という発想になりがちです。そのため、指定運用方法の設定を投資信託にすることから始めた方が実効性を伴うといえるでしょう。

運営管理機関の変更は、いったん旧プランの資格を喪失して、新プランで新規加入者資格を取得するケースが多いようです。結果として、新たにDC制度を考えるきっかけになるようです。

さらに、年金制度改正法の成立も強制力を持たせた継続教育のきっかけになるかもしれません。

従来、加入者掛金(マッチング)拠出は、事業主掛金以下と定められていましたが、この規制が外れます。また企業型DCのマッチング拠出と個人型DC(iDeCo)本人掛金は同額まで拠出できるようになります。さらに拠出限度額も6万2000円まで増えることも決まっています。

上の施策の施行時期は公布の日から3年以内となっています。

企業型DCの事業主は、年金制度改正法案の活用のために今から企業型DCの制度設計や継続教育を長期で展開していくことをイメージすることが大切です。より魅力のある制度にしていくことが無関心層を減らしていくことにつながるといえます。

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。