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「退職代行なんか使いやがって」Z世代を見下していた“理想の上司”を追いつめた人事部の執念

2025/07/31 20:00

<前編まとめ> 大手自動車会社で働いていた松下沙耶香さん(仮名・25歳)は、表向き“理想の上司”とされていた横山課長から、密室でのハラスメントを受けていました。 言葉の暴力、身体への執拗な接触、性的な発言……。それでも証拠がないため誰にも相談できずに退職代行に依頼してきました。表向きの退職理由は「ほかにやりたいこと

<前編まとめ>

大手自動車会社で働いていた松下沙耶香さん(仮名・25歳)は、表向き“理想の上司”とされていた横山課長から、密室でのハラスメントを受けていました。

言葉の暴力、身体への執拗な接触、性的な発言……。それでも証拠がないため誰にも相談できずに退職代行に依頼してきました。表向きの退職理由は「ほかにやりたいことが見つかった」から。

これまで何度も利用されてきた会社だったため、事務的に処理されるだろうと思っていたところ、電話口の人事担当者からは意外な言葉が返ってきます。

●前編:「ほかにやりたいことが見つかった」ウソの退職理由をつくしかなかったZ世代女性に訪れた “静かな逆転劇”

ハラスメントを疑っていた人事部

「これまで弊社社員が退職代行を使った理由を詳しく話を聞かせてもらえませんか? もちろん有償でかまいません」

人事部はすでに横山課長の部署で退職代行の利用者が相次いでいることを把握していました。「これだからZ世代は……」という彼の言葉を鵜吞みにせず、ハラスメントの疑いをかけていました。

もちろん私たちから提供できる情報は依頼者の承諾を得た内容のみですが、こちらのもっている情報と人事部が独自に調査した結果を照らし合わせるだけでも、十分にハラスメント行為を裏付けられました。

「本部にはいつも良い顔をして、物腰も柔らか。なかなか尻尾をつかめずにいましたが、ようやく同僚たちがやめていった理由を突き止められました」

横山課長は人事部からの追及を受け、当初は「覚えていない」「勘違いだ」と否定を繰り返していましたが、証拠が積み上がるなかで弁明の余地をなくし、最終的には地方の関連会社に左遷されることになりました。

ハラスメント調査に乗り出す企業

松下さんのケースのように、これまで見過ごされてきた問題が、退職代行を介することで明るみに出る例は他にも多々あります。実際、人事担当者から以下のような報告を受けています。

「園長が変わってから、職員の退職が続いていました。調査の結果、園長は職員が妊娠すると『あの人は仕事よりも家庭をとった』と発言したり、『この子は将来ブスになりそうよね?』と園児の容姿を揶揄するように職員たちに強制していました」

「研修担当者が体質をいじる発言をしていました。多汗症の方に『お前、薬物でもやっているのか』『オーバードーズか?』と発言。昼食を買いに行いかせていたが、代金を払っていなかったことも確認されました」

「出張先で上司と同じダブルベッドの部屋に宿泊予約させられそうになったケースが発覚しました。ほかに部下のタイムカードを無断で打刻し、“残業ゼロ達成”で表彰を受けたり、辞めていった人の退職理由を『メンタルが弱い』『家庭の事情』と勝手に改ざんしていたりしていました」

退職代行が必要のない社会に

退職代行が必要のない社会が望ましいと、私はいつも訴えています。本来であれば、本人が自分の言葉で退職の意思を伝え、それが円滑に受け入れられる職場であるべきです。

しかし現実には、日本では退職の意思を伝えることが難しい場面が少なくありません。「辞めるのは甘え」「みんなに迷惑がかかる」といった同調圧力があり、働く側が権利を主張しづらい土壌があります。

さらに学校や就職支援の場でも、労働者としての基本的な権利や、ブラック企業から自分を守る方法を学ぶ機会は限られています。

退職代行というサービスがここまで発展したのは日本特有の事情によるものでしょう。それは利用者側だけでなく、会社側にも「退職」に対して、正面から向き合いにくい部分があったからではないでしょうか。退職代行は、利用者にとっての理不尽な職場からの救済措置だけでなく、会社にとっても、これまで聞けなかった退職者の本音を知り、今の時代に合った理想の職場づくりのきっかけとなってきています。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

谷本 慎二/アルバトロス代表取締役、退職代行モームリ代表

1989年、岡山県生まれ。2007年に神戸学院大学へ入学。2012年に東証一部上場の大手接客・サービス業に入社し、入社5年でエリアマネージャー昇格。2022年2月1日に株式会社アルバトロスを設立し、退職代行事業「退職代行モームリ」を開始。退職代行の利用者は2万2000人を超える。 メディア取材(TV、雑誌、新聞、海外メディア含む)は400社以上を受け、離職率低下のための講演会依頼も多数。また、著書として『退職代行業者が今すぐ伝えたい!Z世代が辞めたい会社』を出版。