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日本でも話題の「デジタル証券」に落とし穴はないのか? 米国のトークン化がMMFから始まった理由に潜む大事な順序と視点とは

2025/08/02 11:00

デジタル証券への期待が高まる中で 「デジタル証券」という言葉を最近よく聞くようになったという人もいるのではないでしょうか。ブロックチェーン技術を活用し、有価証券や不動産などの資産をトークン※化して小口で保有・売買できる仕組みは、次世代の資産運用手段とも標榜(ひょうぼう)されています。 日本の大手企業による不動産を裏

デジタル証券への期待が高まる中で

「デジタル証券」という言葉を最近よく聞くようになったという人もいるのではないでしょうか。ブロックチェーン技術を活用し、有価証券や不動産などの資産をトークン※化して小口で保有・売買できる仕組みは、次世代の資産運用手段とも標榜(ひょうぼう)されています。

日本の大手企業による不動産を裏付けとしたデジタル証券の発行なども見られますが、制度や技術の整備は今なお模索が続いている印象を受けます。

こうした新たな取り組みは歓迎すべきものですが、「デジタル証券にすれば取引が活発になる」「新しい投資家層を取り込める」といった期待だけが先行していないか、慎重な視点も求められます。

※デジタル資産化し、ブロックチェーン上で取引可能とすること

アメリカでは「現金に近い資産」からスタート

一方、アメリカにおける「デジタル証券化」「資産のトークン化」は日本とは異なる順序で進められています。代表例がマネーマーケットファンド(MMF)や短期米国債など、流動性が高く価格が安定している資産を対象にしたトークンです。

資産運用会社のフランクリン・テンプルトンや暗号資産プラットフォーム業のオンド・ファイナンス(Ondo Finance)といった企業が発行するこれらのトークンは、MMFや米国債などの資産を裏付けとしており、そのトークンがブロックチェーン上で保有・移転できる仕組みになっています。主に機関投資家やWeb3関連企業のオンチェーン※資金運用先として利用が進んでいるようです。

※ブロックチェーン上で直接行われる取引のこと

なぜMMFや米国債から始めるのか

こうした資産が最初に選ばれているのには理由があります。

まず、価格変動が比較的少ないため、トークンの取引価格と裏付け資産の市場価格が大きく乖離(かいり)しにくい点が挙げられるでしょう。加えて、MMFや米国債はもともと売買ニーズが日常的に存在し、流動性の高い資産です。オンチェーンでの資金管理にも実需があり、既存の法規制のもとでも導入しやすいというメリットもあります。こうした特徴は、発展途上の段階にあるトークン化に適しており、現実的かつ段階的な取り組みが進められている理由の一つと考えられます。

日本の不動産トークン化との違い

日本では不動産を裏付けとしたデジタル証券が先行しています。小口化や分配管理の効率化といった点では、たしかに投資家にとっての利便性は高まっているのでしょうが、不動産という資産には特有の課題もあります。

それは売買の頻度が低く、価格の透明性が限定的で、売却までに時間がかかるといった不動産ならではの性質に起因します。たとえトークン化されて小口化されていても、裏付けとなる不動産が小口単位で実際に売買できるわけではありませんし、価格形成が必ずしも明確とはいえません。そのため、原資産と切り離されたデジタル証券だけが売買されると、裏付け資産である不動産の実際の価格から大きく乖離した値段で取引されてしまう可能性があるのです。

投資家保護の仕組みにも目を向けたい

もう一つ重要なのが、KYC(本人確認)や適合性確認(Suitability)など、投資家保護の観点です。

金融商品を販売する際には、「誰が買うのか」「その人のリスク許容度や投資経験はどの程度か」などを踏まえ、本当にその金融商品が適しているかどうかを販売側が事前にチェックすることが不可欠です。こうした仕組みがあることで、投資家が自分に見合わないリスクを負うことを未然に防ぐことができます。

また、KYCには投資家の属性を確認するだけでなく、マネーロンダリング(資金洗浄)などの不正取引を防ぐ役割もあります。

アメリカのデジタル証券では、ウォレット開設時に厳格な本人確認が行われ、対象投資家を適格投資家に限定する仕組みも整えられているようです。

一方、日本では現在は証券会社などを通じてKYCは行われていますが、今後デジタル証券が発展するにつれ、取扱い主体や販売チャネルごとのルール整備、投資家保護の一層の強化が求められていくでしょう。

投資の本質は「形式」ではなく「中身」

「デジタル証券」という言葉には、あたかも先進的かつ魅力的な資産であるかのような響きがあります。しかし、投資形態が変わっても、投資対象の持つ本質的な価値が変わるわけではありません。

トークン化が価値を生むためには、常に売買のニーズがあり、価格が安定し、投資家保護の仕組みが整っている資産から始めるのが良いかもしれません。アメリカでMMFや米国債からスタートしているのは、投資資産の本質的な性質と、投資家保護の仕組みから考えたときに、無理のない実効性を重視しているからです。

日本でも今後、デジタル証券が本格的に普及していくためには、表面的な技術やイメージの新しさにとらわれず、資産の性質や投資の本質に根ざした取り組みが求められていくでしょう。

木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO

野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。