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どうしてミドル・シニア人材の採用が進まない? 少子高齢化時代の40代以上の転職を考える

2025/08/08 11:00

少子化が進む中、ますますの活躍が求められるミドル・シニア世代(40代~60代)。 しかし、意欲や態度といった個人の意識や企業の体制、社会構造などの問題により、ミドル・シニアの活躍は思うように進んでいません。 社会人材コミュニケーションズの宮島忠文氏と日本総合研究所の小島明子氏が、ミドル・シニアの活躍が進まない理由を

少子化が進む中、ますますの活躍が求められるミドル・シニア世代(40代~60代)。

しかし、意欲や態度といった個人の意識や企業の体制、社会構造などの問題により、ミドル・シニアの活躍は思うように進んでいません。

社会人材コミュニケーションズの宮島忠文氏と日本総合研究所の小島明子氏が、ミドル・シニアの活躍が進まない理由を解説します。(全4回中の3回)

※本稿は、宮島忠文・小島明子著『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。

●第2回:解禁はしてみたが、活躍できるミドル・シニアはわずか… 40代以上の副業・兼業の実態とは?

変わらぬ〝若手〟信仰 それでも需要はある

社内で活躍が難しいと考えるミドル・シニア人材のなかには、社外へ機会を求める人もいますが、以前に比べてかなり改善しているものの、多くの企業は、ミドル・シニアの採用に積極的ではありません。本節では、企業側でミドル・シニア人材の採用が進まない要因について述べます。

厚生労働省1によれば、中途採用の方針は、「35歳未満」では約95%の企業が採用に積極的である一方、年齢層が高くなるにつれ採用の積極性は弱まり、「35歳以上45歳未満」では「よい人材であれば採用したい」が最多になる一方、45歳以上では「あまり採用は考えていない」が最多となっています。

1 厚生労働省「雇用政策研究会報告書」(2019年7月)

シニア人材を採ったことがなく、先入観からその採用が選択肢にもなく、若手ばかりを欲しいといっている企業には、制度も十分整備されていません。実際、シニア人材の採用実績がある企業では、中高年採用に積極的になっています。

商工中金2によれば、採用を希望している人材として、全体では「現場業務・生産」「営業」「販売・サービス」の順に高い割合となっています。業種ごとの特性も見られ、卸売業、印刷業では「営業」の割合が過半を占め、電気機器では「研究開発・商品開発・設計」の割合が高くなっています。情報通信業を除いて、「システム・IT・DX」分野への取組は限定的であることも分かっています。長期的な人員構成から若者への採用需要がある一方で、営業や商品開発担当者不足等が顕在化しているのです。

2 商工中金「中小企業の人材確保に関する調査」 (2024年)

また報酬は、500万円から800万円くらいであれば、若手なら2人雇えることになります。しかし、若手の採用には、教育の必要性(=コスト・投資)が生じるため、戦力になるまでに時間とお金がかかります。

欲しい人材の明確化という課題も

一方で、LIFULL「シニアの就業に関する意識調査」3によれば、65歳以上の人材を採用しない(できない)理由としては、「体力・健康面に不安」(42・2%)、「任せられる仕事がない、分からない」(34・3%)、「即戦力として活躍が期待できない」(24・5%)などが挙げられています。よく中小企業の現場では、「よい人が欲しい」という声を聞きますが、「よい人材」の定義は曖昧です。「任せられる仕事がない、分からない」からは、若手人材へのニーズ以前に、どのような人材が欲しいか、企業側もはっきりしていないことが見えてきます。

3 LIFULL「シニアの就業に関する意識調査」(2024)

労働人口の減少に伴い、多くの中小企業は人手不足に直面しつつあります。「なぜ若手でなければいけないのか」という疑問をほどいていくと、ミドル・シニアの採用経験がないがゆえの若手がよいという思い込みや、必要な人材の定義が曖昧であること、ミドル・シニアでベテランのほうが即戦力になることなどに気づくようになるのではないでしょうか。

シニアの採用方法が分からない

商工中金4によれば、人材の採用方法として、これまで実施したことがある募集の方法は、「ハローワーク」(82・5%)が最も高い割合となり、次いで、「就職情報サイト、就職情報誌」(64・6%)、「自社ホームページ、貼り紙・ポスターなどでの募集」(51・2%)となっています。また、「自社従業員からの紹介による採用(リファラル採用)」(46・4%)や「経営者や役員の家族、親族、取引先からの紹介(縁故採用)」(27・7%)といった紹介を利用した採用についても、一定の割合で実施されています。

4 商工中金「中小企業の人材確保に関する調査」 (2024年)

人材の定着面を見ると、「リファラル採用」や「縁故採用」など、紹介経由での採用に高い効果を実感している様子が窺えます。

ただし、シニア採用となると、「従来と同じ採用方法でよいか分からない」というのが企業(求人者)側の実態です。「職業紹介業における高齢者雇用推進ガイドライン(令和5年)」(高齢・障害・求職者雇用支援機構委託)5によれば、実際の高齢求職者のマッチングにおいては何らかの課題を感じている企業が多数派であることが明らかになっています。「求人者が、より若い求職者を要望する」の割合が66・0%と最も高く、次いで、「求人者が、高齢求職者の採用に不安を持っている」(44・5%)となっており、求人者側の理解を得ることが最大の課題となっています。

5 「職業紹介業における高齢者雇用推進ガイドライン(令和5年)」(高齢・障害・求職者雇用支援機構)

ヒアリング調査でもマッチングの工夫を聞いていますが、「求職者の要望に優先順位をつける」「高齢者が向かないと思われている仕事を避ける(夜勤等)」「人物像」「適性を再度確認し求人者にアピールする」「事前に会ってもらう」「求人者に一度仕事ぶりを見てもらう」「高齢求職者が学べる環境をつくる」などが挙げられています。

ミドル・シニア人材のマッチングの際には、丁寧に時間をかけて行うことを、マッチング事業者、企業、それぞれに求められるのが実情です。履歴書だけでも十分理解をしてもらえるような特出した専門性があれば別ですが、ミドル・シニア自身が、職業人生で培った豊富な経験やスキル、ノウハウが売りである以上、マッチング事業者、企業、それぞれが丁寧にヒアリングをしてみなければそのよさは分かりません。ただし、ミドル・シニア自身は人脈を豊富に有していることも多く、「リファラル採用」をうまく活用していくことも、今後はカギになるといえます。

採用に伴う負担やリスクへの躊躇

ミドル・シニアを中途採用したことがない企業にとっては、コストや手間の負担を考えて躊躇してしまうケースもあります。

ひとつは健康面です。体力はどうしても年齢とともに低下します。長時間労働に対応しづらく、急に病気になったり、家族の介護が発生したりする可能性も高まります。正社員として雇用した以上、辞めさせにくいということもありますので、そのようなリスクが高いミドル・シニアをあえて積極的に採用するメリットを感じられないのです。

厚生労働省は、2023年に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を公表し、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境の実現に向け、事業者や労働者に取組が求められる事項をまとめています。このなかには、高年齢労働者に配慮した職場環境の改善、高年齢労働者の健康や体力の状況の把握、高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応などが含まれています。しかし、企業側がそのような環境を整備するためには、それなりの負担も生じます。

もうひとつは、企業の期待する役割の違いです。

ミドル・シニアは若手とは異なり、ある程度完成されたスキルを保有しており、そこを期待して企業側も採用します。その前提ですと、どのようなスキルの人を採用すべきなのか、どのようにスキルを見極めるのかが問題になります。特に社内にない機能を導入しようとすれば、見極めのポイントに関する経験知もありません。さらに年功序列的な制度が通常でしたので、階層や既存社員との関係性を考慮した配置にしなければなりません。これらを考慮しなければならないことが、採用を躊躇させる要因になっています。

また、ミドル・シニアは、先に述べたとおり即戦力としての期待から、若手に比べて高い報酬となることが一般的です。若手であれば2名採用できるような金額になることもあり、採用する側も〝覚悟〞が必要となります。

●第4回:ミドル・シニア人材の転職はマッチングがカギに 40代以上の人材がもつ、若手にはない価値とは?

『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』

著者名 宮島忠文・小島明子
発行元  日本経済新聞出版
価格 2640円(税込)

宮島 忠文/株式会社 社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長/中小企業診断士・MBA(社会的企業のビジネスモデル研究)

総合電機メーカーにてエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、かねて問題意識を有していた教育事業において教務責任者・執行役員として従事。同時に中小企業診断士として事業再生・新規事業の立ち上げ等を行う。2013年にはビジネスパーソンの能力を最大限発揮できる教育・研修を実現させるべく、社会人材学舎・社会人材コミュニケーションズを創立。以来、ミドル・シニアの活躍支援をミッションとしている。経済産業省、厚生労働省などの人材やキャリア、職業能力、企業の採用戦略等に関する研究会の委員を務めている。著書に『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP・日本経済新聞社・共著)。

小島 明子/株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、国家資格キャリアコンサルタント。金融機関を経て日本総合研究所に入社。ミドル・シニアに関する働き方や協同労働に関する調査研究に従事。著書に『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP・日本経済新聞社・共著)、『協同労働入門』(経営書院・共著)、『「わたし」のための金融リテラシー』(金融財政事情研究会・共著)等。